63.なんで声が届くんだろう

 そのまま東の丘まで向かう。

 途中の林でまたクイドリが襲ってきたので危なげなくみなで倒し、リュックに収納した。なんつーか、俺たちのごはんになりに来たのかなと思うぐらいである。(俺、調子に乗りすぎ)

 で、丘に登った。


「じゃあドラゴンさんを呼びますね」

「お願いします」


 ロープなど、ドラゴンが来た時すぐに自分たちを固定する物を用意してから、俺はドラゴンを呼ぶことにした。


「ドラゴンさーん! 迎えにきてくださーい!」


 南東の、山の方向へ大声で叫んだ。

 普通ならどんなに大声で叫んだってあの山までは届かないだろう。ここから港町に向かって叫んだって声は届かないと思う。なのにどうしてドラゴンやオオカミには俺の声は聞こえるんだろうな? 不思議でしょうがない。

 ミコが俺の首から顔を上げ、俺の鼻を甘噛みした。


「うぉわぁっ!?」

「ミコちゃんに大きな声を出すよって言っておけばよかったわね」


 中川さんに言われてはっとした。確かにうるさかったかもしれない。


「ミコ、ごめんなー」


 でもミコが金切声を上げる時は謝ってもらえないけどな。いや、謝ってほしいわけじゃないけど。

 ミコの頭を撫でると、わかればいいとばかりにまた俺の首に巻きついた。だいぶ気温も上がってきて首に巻きつかれているのが暑く感じられるようになっているけど、ミコは暑くないんだろうか。

 俺はまだ耐えられるからいいけどさ。なにせこのもふもふが離れるのは嫌だし。


「……ロン様、速いですね」


 テトンさんが南東の空を見て、嬉しそうに言った。

 どれどれとそちらを見れば、小さな点がこちらへ向かってくるのが見えた。きっとあれはドラゴンだろう。俺たちが呼ぶのを待ってくれていたんだろうか。

 ドラゴンのツンデレっぷり、面白いよな。

 そうしてしばらくもしないうちにその姿が大きくなり、やがて丘の上に着いた。


「ドラゴンさん、ありがとう」

『ふん、たまたまヒマだっただけじゃ』


 ドラゴンはツンとして答える。こういうところがツンデレなんだよなー。


「それでも嬉しいよ。ありがと」

『ふ、ふんっ!』


 ドラゴンは照れたのか、そっぽを向いた。


『と、ところで、南の国の者についてはわかったのか?』

「うーん……まぁ少しはわかったんですけど、話したいことがあるので山に戻ろうかと。あ、山にオオカミさんっています?」

『……まだおるわ』

「それならよかった。よろしくお願いします」


 ドラゴンの背に乗る為に中川さん、テトンさん、ケイナさんをロープでドラゴンに縛り付ける。俺はドラゴンの首にロープを巻いてもらい、それを自分の腰にも巻き付けて手綱のように持つことにした。ミコは俺の上着の内ポケットに入っている。


「ドラゴンさん、お願いします」

『うむ』


 そうしてドラゴンは丘の端から端まで走って助走を付けると、旋回するようにして飛んだ。港町からもしドラゴンが飛んでいるのが見えたなら、また多少騒ぎになったりしてしまうのだろうか。ま、リントンさんにはドラゴンの件は話してあるからいいだろう。

 帰りは少しスピードを上げてもらったから、夕方には山の上に着くことができた。

 ドラゴンさんさまさまである。もっとスピードを上げたら王都の裏にある丘からここまでだってそんなに時間かからず飛べるんだからすごい。まぁそんなスピードで飛ばれたらさすがに多少具合が悪くなってしまうんだが。


「おかえりなさい」

「にーちゃん、ねーちゃん、ロン様おかえりー!」


 ムコウさん夫妻とチェインが俺たちの戻りを喜んでくれた。


「これから夕飯を用意しますね」


 ユリンさんは笑顔である。オオカミはと周りを見れば、近くで伏せていた。


「ありがとうございます。ただいま戻りました。えっと、ドラゴンさん、オオカミさん、クイドリを狩ってきたんですが今食べますか?」

『……あの辺に林などあったのか』

『いただこう』


 大きめのクイドリをリュックから出して、一羽ずつ提供した。ミコたちにはすでに切ってあるヤクのブロックなどを出す。ムコウさん家族の首に巻きついてたイタチたちもすごい食いつきだった。みんなヤクの肉好きだよなー。俺も好きだけど。


「えー、クイドリ狩ってきたの? 俺も食べたいっ」


 チェインがドラゴンとオオカミが食べているのを見て羨ましがった。


「ああ、明日解体するからそしたら食べられるよ」

「わーい!」

『明日は山の上へ向かうぞ』


 オオカミがクイドリを食べながら言う。


「あ、ハイ。どうぞ」

『何を言っている。そなたらもだ』

「あっ、ハイ……」


 俺たちと一緒だと荷物持ちに困らないもんな。気持ちはわからないでもない。ドラゴンもおいしそうにクイドリを食べながら頷いた。


『うむ、明日は狩りじゃな』

「狩りもいいんですけど、今日港町で大きな魚を買ってきたんです。それを明日は捌いて食べたいなーって」


 中川さんが口を挟む。


『魚じゃと?』

『魚か……』

「ええ、テトンさんよりも大きい魚を買ってきたので、明日はみんなで食べてみません?」

『それもよいかもしれぬな』

『魚の後は狩りじゃ』


 どうしてもオオカミは狩りをしたいらしい。

 ミコが食べ終わったらしく戻ってきたので洗浄魔法をかけてから俺に上ってもらった。

 キュウウウッ! とミコに抗議されたが、肉まみれの身体で首に巻きついてほしくないからしょうがない。

 そして明日の予定が決まってしまったのだった。


次の更新は、9日(水)の予定です。

私生活の状況により、更新が一時的に止まることがあるかもしれません。その際はよろしくお願いします。

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