62.港へ行ってみた

 翌朝、魚市場が開かれているということを聞いたので、早い時間に港へ向かった。

 案内役の兵士は人懐っこそうな青年だった。


「毎朝あちらの港から漁師が船を出して魚を獲ってくるのです」


 あちら、というのは小さな漁船が集まっている区画だった。漁船があるところと、貿易船が着く場所は分かれているらしい。そりゃあそうだよな。


「へー。魚市場って、私たちも買えるのかしら?」


 中川さんが目を輝かせて聞いた。


「はい、誰でも買えますよ」


 魚市場は早い時間しか開いていないというのでまずそちらへ向かう。ただ一般人は普通見ているだけであまり買ったりはしないそうだ。

 何故かというと……。


「でかっ!」


 並べられている魚はどれもでかかった。それも俺の想定の倍以上の大きさである。


「……これって、ここで獲れる魚としては普通の大きさなんですか?」


 思わず聞いてしまった。


「そうですね。魚市場に出される魚はこれぐらいの大きさの物が多いです。これより小さいものは町中の市場で出回っています」

「そうなんですか……」


 確かにこれは普通の人が買うサイズではないだろう。


「これ……2mぐらいあるかな……」

「そうね。多分それ以上あるんじゃないかしら……」


 さすがに中川さんも口をあんぐり開けて驚いていた。正気に返ったのは、首に巻きついているミコたちが顔を上げたからである。

 ミコたちのごはんじゃないからっ。


「ミコ、食べちゃだめだからな」


 ミコはキュウウッと鳴いた。それで中川さんやテトンさん、ケイナさんの首に巻きついていたイタチたちは首の位置を元に戻した。なーんだと思ったのかもしれない。油断も隙もあったものではない。内心ほっとした。


「ははは……イイズナ様がもし齧りつかれたとしても怒る者はいないと思いますよ」


 兵士が苦笑した。そういうこと、言わないでほしい。それで本当に齧りついたりしたら大事おおごとだ。

 中川さんはじーっと並べられている魚を見ている。

 こんなに魚が並んでいるところなんて見たことがないから珍しいのかな。あと、魚でかすぎ。(大事なことなので何度でも言う)


「……山田君」


 中川さんに呼ばれて、そちらを見た。


「あれって、もしかしてマグロじゃない?」

「あー……」


 言われてみればそれっぽい。大きさはだいたいどれも同じぐらいだけど。


「食べてみたくない?」

「食べたいな……」


 日本人と言えばマグロだろう、というぐらい魚だったらマグロだと思う。中川さんもそうみたいだ。気が合って嬉しい。


「あの魚はおいくらですか?」

「購入されるんですか?」

「値段によりますけど、食べてみたいと思いまして」

「持って帰られるのですか?」


 兵士はいぶかしげな顔をした。


「はい、持って帰ります」


 あれだけ大きければ一尾でもみんなで腹いっぱい食べられるに違いない。兵士は目を剥いた。


「相当重いですが……」

「問題ありません」


 値段を聞いたら一尾金貨5枚だった。微妙な金額だなと思う。払えないわけではないが……というやつだ。でもなー、食べたいしなー。


「テトンさん、どう思います?」


 値段が妥当かどうかという問いをしてみた。


「……いいのではないでしょうか。一尾であれば問題なく買えますし」

「じゃあすみません、一尾お願いします」


 財布はケイナさんに握ってもらっているので、俺と中川さんはお願いした。ケイナさんがふふ、と笑う。


「私たちは食べたことがないものですから、食べ方を教えてくださいね?」

「はい、もちろん!」


 ケイナさんにそう言われて、中川さんと即答した。

 ってことでマグロもどきを持ってみた。

 うん、確かにそれなりに重さはあるけど両手で抱えれば普通に持てるな。この大きさだと400kgは下らないと思うけど。

 兵士が引いていた。


「も、持てるのですか……」

「ええ、ちょっと重いですね」


 普通は持てないみたいだ。まぁそうかもしれない。魚市場を出てからリュックに収納した。兵士は口をあんぐりと開けた。ずっと持ってるわけにもいかないしなー。

 どうにか兵士には正気に返ってもらい、貿易船が着くところまで案内してもらった。船は何隻も停泊していた。


「これらはどこへ向かう船ですか?」


 中川さんが聞く。


「船ごとに行先は違います。南の国へ向かう船はあの辺りにあります。それ以外は国内の別の港へ物資を運んでいく船です」

「……大きい、ですね」


 中川さんは南の国へ向かう船を見て、呟いた。

 あんなに大きな船が動いていたら、上空からでも確認できるのではないだろうか。でも航路とかわかんないもんな。ここで見るとでかいけど、大海原へ出てしまったらとても探せないだろう。

 やっぱり難しいなと思った。

 中川さんが近くに行って見たいというので移動した。


「すごい……荷物をたくさん運んでくるからこの大きさなんでしょうけど……他に大きい理由ってありますか?」


 中川さんが兵士に聞く。


「これぐらいの大きさがないと南の国まで航行できないと聞いています。途中小さい船では耐えられない難所があるそうで……」

「そうなんですか」


 中川さんは頷いた。でかい方が小回りがきかないんじゃないか? とか俺は思ってしまうが、頑丈でないと通れないような場所があるってことなんだろうか?

 知識が足りないって困るよな。

 そうして町中の市場で手頃な大きさの魚を何尾か買い求め、俺たちは一旦町を出たのだった。


次の更新は、5日(土)の予定です。

私生活の状況により、更新が一時的に止まることがあるかもしれません。その際はよろしくお願いします。


誤字脱字に関しては、近況ノートをご確認ください(後日読み返して修正はしています)。

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16818093081582887529

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