47.洞窟の中に風呂がああああ!

「お湯がある場所、ですか?」


 テトンさんたちに伝えたら、きょとんとした顔をされた。

 あれ? この国の人たちってお風呂の習慣はないのかな?

 いや、そんなことないよな……。

 ナリーさん、入ってるって言ってたし。


「洞窟の中に、ですか?」


 ケイナさんが首を傾げる。イメージがわかないみたいだった。


「はい、けっこうな広さのお風呂みたいな場所があるんです。もしよかったら入りにいかないかなって思って」


 中川さんが無邪気に、ケイナさんたちに伝えた。


「お風呂なんて贅沢……」


 ユリンさんは恐縮しているみたいだった。

 洗浄魔法は使ってるんだからみんな清潔を保ってるよな。お風呂自体が贅沢って思考もわからないではないけど、ドラゴン曰く自然にできたものらしいから誰が入ってもいいんじゃないだろうか。

 そんな話をすると、ケイナさんだけでなくユリンさんもかなり興味を持ったみたいだった。


「ね、行きましょうよ!」


 中川さんに誘われて、彼女たちは「じゃ、じゃあ……」と行く気になった。

 彼女たちは俺たちと違って夜目がきくから、洞窟の中でも少しは見えるらしい。でも危ないから火魔法で灯りを出しながら行くことにしたみたいだった。


「そろそろランタンも使えるかも。山田君、ランタン日にかざしておいてもらえる?」


 中川さんが持っているランタンは太陽光を十分に浴びせると夜も光るというスグレモノだ。森にいても冬の間は光が弱かったみたいであまり使えなかったけど、これからの季節は使えるだろう。風呂に行く時に使えたらなおいいよな。


「わかった」


 彼女たちが洞窟から戻ってきたら俺たちも向かうことにする。

 久しぶりの風呂、と考えただけでわくわくしてきた。

 しっかし真っ暗なんだよな。一人で風呂に入りたいと思った時は、行くのがちょっと面倒かもしれない。


「早く行きたーい!」


 つい先ほどまで水遊びをしていたチェインがわくわくしたように叫んだ。


「女性陣が戻ってきてからな~」

「楽しみー!」

「湯の温度がそれなりに熱いから泳ぐのは禁止な」

「泳ぐ?」


 首を傾げられてしまった。聞けば森の側でずっと暮らしていたから、ちょっとした水遊びはしたことがあったけど泳げるような川に行ったことがないらしい。それ以前に川とか海が近くにないと泳いだりもしないみたいだ。日本みたいに小学校のほとんどにプールがある国も珍しいなんて前に聞いたことがあった。

 確かに移動手段も基本徒歩だもんな。


「だからさー、洞窟の中の川ってけっこう怖いんだよなー。水多いし流れも早いだろー? 情けないけどさー」

「ああ、そうだな。怖いって思えるの大事だぞ」

「そーゆーもん?」


 チェインは首を傾げた。川は流れがあるから怖いもんだ。でも元いた世界では毎年水の事故が絶えなかった。大雨とかで災害に遭ったらしょうがないけど、わざわざ川とか海に遊びに行って水の事故に遭うとかどうなってるんだろうな? 泳げるからと過信して流されてしまったりするのか。それとも単純に運が悪いだけか。ちゃんとチェインの様子を見ておこうと思った。

 女性陣が戻ってくるまで落ちている枝を拾ったり、塩を削ったりする。塩は採れるだけ採っておかないとそのうちドラゴンに全部踏みつぶされてしまいそうだからだ。

 宝物じゃないと知った途端に扱いがぞんざいになるんだもんなー。まぁそうでなくてもドラゴンはでかいから動くだけで破壊しちゃうんだけどさ。


「ねーちゃんもかーちゃんも遅いー」


 作業をしながらも、イタチたちと追っかけっこをしたりしていたチェインがぶーたれた。


「まぁまぁ……」


 女性の風呂ってのは長いもんなんだよ。中川さんも久しぶりだから長く浸かってるんだろう。

 なにがどうしてそうなったのか、泥だらけになったチェインとイタチたちに洗浄魔法をかけたところで、やっと中川さんたちが洞窟から出てきた。


「あー、いいお湯だったー。お待たせー」

「すごく気持ちよかったわぁ」

「お風呂って、すごいですね……」


 服を着ているというのに、みな肌が上気して艶めかしく見える。俺は思わず中川さんから目を逸らした。


「それはよかった……じゃあ俺たちも行く準備をしましょうか。ドラゴンさん、オオカミさん、中川さんたちを頼みます」

『うむ』

『任せよ』


 オオカミは俺たちの側で寝そべっている。ドラゴンの声は低く威厳たっぷりに聞こえたが、その尾がびったんびったん揺れていた。ああまた塩が……。


「じゃあ行ってくる」

「もー、山田君ってばそんなに気にしなくても大丈夫よ。私、強いからね!」


 中川さんが力こぶを作る仕草をした。


「うん、わかってるけど心配なんだよ。ドラゴンさんとオオカミさんに守ってもらってくれ」

「全く、もー……」


 中川さんがそっぽを向いた。

 そうしてミコも含むイタチたちと、テトンさん、ムコウさん、チェインを伴って洞窟の中に入った。俺は火魔法で前を照らしながら。

 ミコもお風呂には興味津々みたいで、俺の首に巻きつきながらもしっぽが揺れている。


「すぐに着くからな~」


 さっきは入らなかったけど、そういえばイタチってお湯はどうなんだろうと思ったのだった。



次の更新は、14日(水)です。よろしくー


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お読みいただけているでしょうか?

まだという方も、面白いので是非ゲットして読んでくださいね♪


誤字脱字に関しては、近況ノートをご確認ください(後日読み返して修正はしています)。

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