46.風呂に入りたくなった

 ってことで氷漬けのヤク(三頭分の塊)を持ち帰ってみた。


「おお……」

「ええ……?」

「にーちゃんすごいっ!」


 テトンさん、ムコウさん、チェインの反応である。チェインは目をキラキラさせていた。

 女性陣はなんともいえない眼差しを向けてくる。魔法の使い方が下手くそですみません。


「夏場は涼しそうですけど、氷魔法って解除とかできるんでしょうか?」


 ケイナさんが冷静に聞いた。


「うーん……」


 そこまでは聞いてこなかった。


「ちょっと試してみます」


 頭の中で氷が溶けるイメージを作って、氷漬けのヤクに魔法を発動してみた。


 だばぁ


 途端に氷が一瞬で水になり、辺りが水浸しになった。


「あー……ごめん」


 しか言葉が出なかった。


「水いっぱいー!」


 途端にチェインがばしゃばしゃと水で遊び始めた。イタチたちも水にダイブして遊び始める。


「あ! こらこら。ヤクを回収してからにしましょ!」


 ユリンさんがはっとしてチェインを窘めた。慌てて氷が溶けたヤクをまたリュックにしまい、他の場所に出してみなで解体した。

 チェインとイタチたちは水遊びをしている。


「水遊びもいいけどお風呂とか作りたいかも」


 中川さんが呟いた。確かに、風呂があったら快適かもしれない。でもどうやって作るかな。川とかがあると作りやすいんだが、ここらへんだと穴を掘ったりしないといけないかもしれない。

 川……。

 一番近いのはドラゴンが住む洞窟の中だ。


「ドラゴンさん、例えばなんだけど……洞窟の中に風呂って作ってもいい?」

『風呂とはなんじゃ?』


 ドラゴンが首を傾げた。


「えっと、温かいお湯を溜めて浸かる場所って言ったらいいのかな」

『湯、じゃと?』


 ドラゴンが聞き返す。俺と中川さんは頷いた。


『しばし待て』

「? はい」


 ドラゴンは珍しく急いで洞窟の中に戻っていった。そして、しばらく戻ってこなかった。

 肉は全部解体した後だったからいいけど、どこまで行ったんだろう。洞窟の中ってそんなに広かったっけ?


「そういえば、洞窟の中ってどのぐらいの広さがあるかって、知らなかったな」

「そうね。大きな広間みたいなところが終点だと思っていたわ。あの先にあったのはドラゴンさんの宝物庫だけじゃなかった?」

「もしかしたら、あの他にも穴があったのかも……」


 そんな話をしていたらドラゴンがやっと洞窟から出てきた。


『見つけたぞ。ついてこい』

「えっ?」


 何を見つけたんだろう? と思ったけど、ドラゴンが再び洞窟の中に入ったから、慌てて中川さんと追いかけることにした。


「ミコ!」


 水遊びをしているイタチたちの方に向かって声をかけたら、ミコとカイが駆けてきた。洗浄魔法をかけて首に巻きついてもらった。洞窟の中ってけっこう寒いし。


「ヤマダ様?」

「ちょっとドラゴンさんに呼ばれたんで行ってきます!」


 テトンさんに断って洞窟に入った。洞窟の中は真っ暗なので火魔法を使い人魂みたいに灯りを出してドラゴンを追った。ガサガサバサバサと他の生き物が動く音がする。いきなり明るくなったから驚いたんだろう。小さい生き物はいるしな。

 足元とか天井は怖いから見ない。虫とか大群でいたらやだし。

 ドラゴンはまっすぐ広いところに向かい、そこから迷いなく左に進んだ。やっぱり洞窟の先があったらしい。


「ドラゴンさん、どこまで行くんだ?」

『大したことはない。ここを下っていけばいいだけだ』


 どうやら下っていくみたいだ。危ないので人魂を足の近くにも出して、足元を確認しながら付いていく。確かに急ではないが下っているのがわかった。洞窟の中は本当に暗いから歩くのに難儀する。それでも勘みたいなのが働くのか、途中岩が出ているような場所があっても俺も中川さんも引っかかったりはしなかった。

 ドラゴンは一応俺たちの歩みの速度に合わせてくれているみたいだった。


「? あれ? なんか暖かくない?」


 中川さんに言われて、確かに空気の温度が変わってきたような気がした。冷たい湿ったような空気が、下るにつれて暖かくなっている。


「ドラゴンさん、もしかしてこの先にお湯が出ているところがあるんですか?」

『そうじゃ』

「へええええ」


 って、この山ってもしかして火山じゃないよな? 火山に住んでるとか怖すぎだろ。


「マグマ溜まり、じゃないわよね……」


 中川さんも火山を連想したみたいだ。


『着いたぞ』

「わぁ……」


 ドラゴンが示した先に火の玉を飛ばす。湯気が見えた。確かに、温泉のような湯の溜まりが見える。


「これ、どれぐらいの温度があるのかしらね……」


 わーい! って飛び込んだら大火傷とかしそうだ。


「ここって、ドラゴンさんも入ったりする?」

『入りはせぬな。飲むが』

「飲むんだ……」


 イマイチ、ドラゴンの身体がどこまで丈夫かわからないからなんともいえない。


「このお湯って毒とか含んでないわよね?」


 そういえばそういう懸念もあった。


『そなたら、鑑定魔法が使えるのではなかったか?』


 ドラゴンに言われて中川さんは目を見開いた。


「ドラゴンさんありがとう!」


 中川さんが鑑定魔法を使った。


「……四十度のお湯だわ……毒もなし。普通に飲めるお湯ね」

「ちょうど風呂の温度……」


 どうもここは岩場のようになっていて、上から落ちてくる水が地熱で温められているらしい。そしてその温められた水がちょろちょろと流れ出している場所も確認できた。


「……すごく都合がよすぎる気もするけど……」

「入りたいかも……」


 中川さんと顔を見合わせ、とりあえずテトンさんたちに知らせに向かうことにした。もちろんドラゴンには礼を言った。



次の更新は、10日(土)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る