45.氷魔法を使ってみる

 ミコたちのおやつ用に、ヤクの肉を小さめに切り分けて小さいビニール袋に詰めていく。

 ミコがまな板の横で首を傾げているのがかわいい。肉を出しているものだから他のイタチたちも近づいてきて圧をかけてくる。でもミコが手を出さないから「待て」ができている状態だ。

 怖いけどかわいい。


「ちょっと待ってろよー」


 あとでまたおやつあげるから。


「山田君てまめだよね。私も切るね」


 中川さんもまな板を出して一緒に切ってくれることになった。中川さんの首に巻きついていたカイが手を出そうとして、ミコにキイイイイッ! と怒られていた。ミコさんにはかないません。

 自分たち用の肉も切り分け、ビニール袋に詰めてからイタチたちにまたおやつをあげた。

 みんな行儀よく両手で持って食べているのがかわいい。食べてるのは生肉なんだけどさ。


『我にはないのか?』

『我の分はどこだ?』


 オオカミとドラゴンが迫ってくる。近い近い近い。

 ミコがキイイイイッッ!! と威嚇してくれたことで二頭は三歩ぐらい離れてくれた。ミコさんありがとうございます、助かります。


「さっき食べたばかりじゃないですかー。山田君、これあげてもいい?」


 中川さんに聞かれて頷いた。ちょっと大きめの、ヤクの肉の塊である。それを中川さんが一つずつオオカミとドラゴンに渡した。


『うむうむ、うまいのぅ』

『ゴートの肉もいいがやはりヤクがいいのぅ』


 バクリと食べて幸せそうだ。


「……以前、毎日食べなくても大丈夫みたいなこと言ってませんでした?」


 ジト目で聞くと、オオカミとドラゴンはツーンとそっぽを向いた。


「……そんなに食べてると太りますよ?」

『ふ、太るわけがなかろうっ!』

『ふ、太るなどそんなことあるわけがないっ!』


 必死で言い訳をしている二頭になんだかなと思った。オオカミとドラゴンにとって「太る」は禁句のようだ。ヘビはどうなんだろうな?


「? そんなに気になることなのかしら?」


 中川さんが首を傾げた。


『……そなたは気にせなんだか?』


 オオカミに聞かれて、中川さんは考えるような顔をした。


「気にはなりますけどー……山田君が好んでくれる体型が一番かなーって」


 ゴッホンゴッホン、ウオッホン!

 全然構えてなかったから動揺してむせてしまった。ミコがうるさいとばかりに俺の頬を前足でぺちぺち叩く。だってしょうがないだろ。俺が中川さんに想いを寄せてもらえるなんて未だに信じられないんだから。


「山田君、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」


 中川さんが背を摩ってくれた。ここで流してしまったらヘタレ認定されてしまう。すでにヘタレだって? ほっとけ。


「……中川さんはいつだって、かわいい、よ……」

「えっ?」


 中川さんの顔が一瞬後にぼんっと真っ赤になった。かわいい。


「あ、あああありがと……」

『初心じゃのう……』

「初心ですねぇ」


 オオカミとケイナさんが微笑ましそうに呟く。うっせ、と思った。

 そんなことをしながらその日は過ごした。



 翌日は狩りをしようとドラゴンの背に乗って更に高いところへ。

 ミコ、中川さん、カイと一緒である。オオカミも自分で駆けて上がってきた。

 ヤクの肉とでっかいネズミもどきの在庫が心許なくなってきたので。自分で言うのもなんだが、ただの獲物認定しかしてないのひどい。

 だいぶ危なげなく狩りをできるようになってきたので、氷魔法を試してみることにした。もちろんみなに先に伝えてある。

 醤油や焼肉のタレをつけた石を投げて、ブオオオオオオッッ!! と叫びながら突進してきたヤクを倒していく。

 そうしてから、少し離れたところにいるヤクに向かって氷魔法をかけた。

 魔力量によって視認できる範囲のどこまで使えるかがわかるみたいだ。

 駆けてこようとしたヤクが、一瞬ででかい氷に閉じ込められてしまった。


「えええ?」


 これは予想外だった。


「えー……」


 中川さんにとっても予想外だったらしい。

 多少前面が凍って、そのまま倒れるのかと思ったらでかい氷に閉じ込められるとか誰が思うのか。しかもそのでかい氷に別のヤクが突進し、そっちにも氷魔法が作用したんだかなんだかそれも氷漬けになってしまうとか誰が予想しただろう。


「えええええ……」


 都合三頭数珠繋ぎに氷に閉じ込められる形になって固まった。


「氷魔法ってこんなん?」

『……末恐ろしいのぉ……魔力を籠めすぎじゃ』


 ドラゴンが呆れたように言った。

 そして一番解せないのが、普通に倒したヤクの他に、その氷漬けになったヤクたちもリュックにそのまましまえたことだ。このリュック、本気で中がどうなっているのか見てみたいと思った。


『ネズミもどきはいいのか?』


 オオカミに言われて思い出し、更に上に向かって何匹か狩った。ネズミもどきは魔力量が上がるからテトンさんたちに食べてもらうのだ。やっぱり魔力量が多い方が魔法を使う回数も増えるから便利には違いない。

 ちなみにネズミもどきには中川さんが試しにと氷魔法を使った。ちょうどよく凍り付いてパタッと倒れた。なんでだ。


『そなたは魔法の使い方が雑なのではないか?』


 オオカミに言われて撃沈した。

 つーか魔法なんてここに来て初めて使ったんだからしょうがないだろ。ミコが巻きついている俺の首から顔を上げてクククククと笑った。

 ミコが笑ってくれたならいいかなと思ったのだった。



次の更新は、7日(水)です。よろしくー

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