40.かわいくて困ってしまう
寝る前に地面をいぶしてから寝床用の台を出し、調整してから中川さんに使ってもらう(取り出す時にちょっと曲がったりすることがあるのだ。紐で括っているだけだから難しい)。
野宿には違いないが、台があるとないとでは違うと思う。地面に直接よりは絶対にいいはず。
でも野宿なんだよなぁ(ため息)。
「山田君のおかげで快適に眠れるわ。ありがとうね!」
中川さんがにこにこして嬉しいことを言ってくれる。この「ありがとう」の為なら俺はなんだってするよ!
「もう少しちゃんとしたのを作ればよかったかな……」
急遽作ったからなんか気に食わない。山に戻ったら作り直すことにしよう。
「え? どうして? 十分すごいと思うわ。私なんて地面をいぶしたところにテントを張ってただけだもの。こうやって少しでも高さがあった方が虫が入ってこなくていいわよね」
「ありがと……」
もう、なんていうか中川さんが全肯定してくれて嬉しいんだけど恥ずかしい。そんなに嬉しいことを言われると調子に乗ってしまいそうだから勘弁してほしかった。
「山田君が礼を言うことないでしょ?」
中川さんは笑って寝袋に入った。寝袋にはカイも一緒に入る。ぐぬぬと思った。
いずれ、いずれ……覚えてろよおおおおお!(何故俺はイタチと張り合っているのか
俺も自分の台を出し、その上にダンボールを敷いてビニールシートを二つに折りたたむ。上着を布団代わりにして寝るのだ。ミコがクククククと鳴いて胸元に寄り添ってくれるのが嬉しい。そっとミコを撫でる。またククククとミコが鳴いた。
「ミコはかわいいなぁ……」
そう呟いて、その日の夜は眠ったのだった。
翌朝はいつも通りクイドリがクケエエエッッ!! とか鳴き声を上げながら突っ込んで来た。いつもより飛んでくるスピードが速かったので、ビニールシートを投げつけて落ちたところに体重をかけてエルボーをかました。うまく攻撃が入ったらしく、クイドリはすぐにこと切れた。
よかったよかった。
あとはオオカミとミコが倒してくれた。(カイは中川さんと一緒に寝ていた)
中川さんは鳴き声でどうにか起きたらしい。
「えー……山田君、ごめんなさい……」
「謝ることないよ。中川さんは怪我とかしてない?」
「してない……うー……」
中川さんは両手で顔を覆った。
「? どうしたの? 大丈夫?」
心配になって近づこうとしたら、ミコがキイイイイイッ! と俺に向かって威嚇の声を上げた。
「え? なんで?」
なんで俺、ミコに怒られてるんだよー。
切ない。
「だ、大丈夫よミコちゃん! 山田君は何も悪くないから……」
ミコは中川さんの方を見て、キュウ? と鳴いた。
「……恥ずかしくなっちゃっただけだからー……」
そう言って中川さんは顔から手を外した。真っ赤である。うわ、かわいい。
『……お主ら、メシはまだか』
オオカミに呆れたような声をかけられてハッとした。そうだ、ごはんを食べて山に戻らなくてはいけない。
とりあえずクイドリには洗浄魔法をかけてリュックにしまい、ヤクの肉を出した。大きめのブロックをオオカミに、小さめに切ったものをミコとカイに。そして細切れにしたものを焼いて、弁当のおにぎりと一緒に食べた。ゆで卵は中川さんと半分こである。丸々一個あげようとした時もあるのだが、
「それは山田君の大事な卵でしょう?」
と固辞されてしまった。半分だけでも喜んでくれるからいいんだけど、定住することになったら卵を産む家畜でも飼えたらいいなと思った。(ミコたちに全部取られなければいいけど)
『よくわかっているではないか』
オオカミはご機嫌でヤクの肉をぺろりと食べた。クイドリも好きみたいだけど、やっぱヤクの肉の方がうまいらしい。
「オオカミさんぐらい能力が上がっちゃうと、あんまりおいしいものってなさそうよね?」
中川さんが呟く。
『そんなことはないぞ。この肉はうまい』
「森の魔獣の肉もですか?」
『これほどではないが、十分うまい』
「それならいいんですけど……」
オオカミさんほど強くなっても森の魔獣の肉がおいしいならいいと思う。そういえば西の山の魔獣の肉もとんでもなくおいしかったな。すっごくでかくて、倒すのがたいへんだったけど。こうやってどんどんグルメになってしまうのだろうか。
東の方角にはみたこともない生き物がいると聞いたことがある。それらの肉もうまいんだろうかとか考えてしまう。どんだけ俺は食いしん坊なのか。
食べ終えてからミコの口を拭く。オオカミさんの食べ方は豪快なのでさすがに洗浄魔法をかけた。
そうしてやっと山に戻ることになった。今回はジャンさん夫妻から服をたくさんいただいてしまった。俺たちの分だけじゃなくて、テトンさん夫妻、ムコウさん家族の分もである。香辛料のお礼と、食べられる植物を教えた礼だと言われた。あんまり礼とか関係なく用意されてた気もするけど。
オオカミの背に伏せて、駆けてもらう。
『もうそなたらの足も相当速いはずだがのぅ』
オオカミはそう言って笑う。そうだとしてもオオカミの背に乗せてもらった方が速い。
お土産をみんなにできるだけ早く届けたいからと、オオカミに甘えて乗せてもらった。オオカミも頼られるのはまんざらでもないみたいだ。
そうして辺りが暗くなってきた頃、俺たちはようやく山の上の家に戻ったのだった。
次の更新は、20日(土)です。よろしくー
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