37.やっと目的地に到着

 食堂から部屋に戻る途中で中川さんに声をかけた。


「今更なんだけど……その」

「山田君?」

「そのドレス、似合ってるよ……」


 本当に今更かもしれなかったけど、かわいいとかキレイとか、やっぱり伝えた方がいいと思うんだ。中川さんは一瞬きょとんとしたけど、その後で顔を真っ赤に染めた。髪型もいつもの後ろで一つに結ぶものではなく、下ろされてウェーブがかっている。いつもと印象が違い、その髪型もいいなと思った。


「あ、あああありがと……や、山田君も、カッコイイ、よ」

「あ、ありがとう……」


 俺も鏡で見て、珍しくイケてると思ったんだよな。中川さんの言葉がお世辞じゃないといいなと思った。

 そうしてぎくしゃくしながら部屋に戻り、服を寝巻に着替えて(お互い背を向けながらである)寝たのだった。



 翌朝は朝食をいただいてから、一度林へ向かった。

 クイドリをまた狩るようかなと思っていたら、ちょうど林からオオカミが出てきた。


「オオカミさん、おはようございます。お待たせしました」

「おはようございます。洗浄魔法をかけてもいいですか?」

『うむ、かまわぬ』


 中川さんが断ってからオオカミに洗浄魔法をかけた。さっそくクイドリを食べたらしく、口元が真っ赤だったのだ。

 オオカミは毛づくろいを始めた。


『……どうも落ち着かぬが、さっぱりはするな』

「これから王都の北へ向かいます」

『そうか。では我が乗せていこう』

「ありがとうございます」


 自分たちで走ってってもいいんだけど、乗せてもらえるのは助かる。

 そうしてオオカミの背に乗り、王都の北側へ向かった。王都の北には丘があるのだが、その麓に現王の母であるナリーさんが住んでいる。

 今回はナリーさんに、夫であるロンドさんの遺品を持ってきたのである。

 国の現状を見て回るつもりだったけど、思ったより時間がかかってしまったように思う。兵士があんなにいるとは思わなかったし。

 この国も変わってきているんだろうけど、いろいろたいへんだよな。


『着いたぞ』


 王都の門から離れるかんじで大回りしてもらったけど、それほど時間はかからなかった。


「オオカミさん、ありがとうございます。用事を済ませたら俺たちは山へ戻る予定ですが、オオカミさんはどうします?」

『その後は南の国へ向かうのであったか』

「はい。そのつもりです」


 ミコが上着の内ポケットから顔を出した。平地に着いたからだろう。その頭をそっと撫でた。

 クククククとミコが喉を鳴らす。機嫌はよさそうだった。


『では待つとしよう』

「山まで送っていただけるのですか?」


 中川さんが嬉しそうに確認した。


『うむ』


 オオカミはそこで伏せた。ナリーさんのお宅までは行かないのだろう。確かに門番の青年が驚いてしまうものな。


「ありがとうございます。終わりましたら戻ってきます」

「よろしくお願いします」


 少し歩いていくと、丘の麓にナリーさんの館があった。どちらかといえばこぢんまりとしている。ジャンさんの館と比べてはいけないけど、やっぱり館というより家ってかんじだ。

 門番の青年は俺たちの姿を見ると一瞬険しい顔をしたが、すぐに思い出したらしい。しゃちほこばって頭を下げた。


「ヤマダ様、ナカガワ様ですね。いらっしゃいませ」

「ご無沙汰しています。ナリー様はご在宅ですか?」

「はい、少々お待ちください」


 青年は門の内側に入り、玄関のノッカーを叩く。


「はーい」


 ほどなくしてナリーさんが出てきた。それも透けているロンドさんを伴って。つか、幽霊が姿を現わしていいのかよ。(正確には神様だけど)

 一度内ポケットに戻っていたミコがまた顔を覗かせた。今度こそ身体を出し、俺の肩に乗った。

 そして、ロンドさんに向かってキイイイイイッッ! と威嚇してしまった。


「えっ? ミコッ?」


 さすがに慌てたが、ロンドさんはスッと姿を消した。ナリーさんがコロコロ笑う。


「イイズナ様、ありがとうございます。ヤマダ様、ナカガワ様、お久しぶりです。いらっしゃいませ」

「お久しぶりです、お邪魔します」


 中川さんとぺこぺこ頭を下げて、俺たちはナリーさんの後へ続いた。門番の青年は門の前に戻った。


「ミコ、いきなり威嚇するなよ。驚くじゃんか」


 キュウ、とミコが鳴いて、俺にすりすりする。かわいいなぁ、もう。

 通されたのは以前も通されたことのある応接間だった。


「少々お待ちくださいね」

「私も手伝います」


 中川さんが申し出たが、メイドさんにとんでもないと座らされてしまった。


「めったにお客様もいらっしゃらないから嬉しいわ。どうぞ」


 ナリーさんとメイドさんがお茶を運んできた。


「ありがとうございます、いただきます」


 一口飲んでから、今回こちらに来た用件を伝えた。


「まぁ、本当に持ってきてくださったの? 嬉しいわ」


 森の、俺が勝手に作った墓に埋めた物を持ってきたのだ。光る短剣はすでにナリーさんに渡してあるが、ロンドさんの遺品が増えることでロンドさんが実体化していられる時間が増えるのだから持ってくるのは当然だろう。


「ただ、大したものはなかったんですけど……」


 さすがに布などは一部風化してぼろぼろになっていた。掘り返した時、本というか日記帳のような物が出てきたのでそれも持参した。なんで俺はこれに気づかないで埋めてしまったんだろうか。


「まぁ、これは……」


 ナリーさんはその本を見て絶句した。

 ナリーさんが大事そうにその本を胸に抱くと、またロンドさんが姿を現わした。


「少年よ、ご苦労だった」


 神様のせいかなんか偉そうなんだよな。いや、神様なんだけどさ。

 とりあえずまたミコが威嚇しないように、ミコをなでなでしたのだった。



次の更新は、7/10(水)です。

誤字脱字等の修正は次の更新でします。


7/10といえば書籍の発売日です!

「準備万端異世界トリップ ~森にいたイタチと一緒に旅しよう!~」

予約していただけましたか?

とっても読みやすくなっていますし、ミコさん成分マシマシでございます!

書下ろしもあります。

どうぞよろしくお願いします!

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