31.冷静に考えなくても毎日がサバイバル

 クイドリ狩りとか、兵士たちへの対応が思ったより早く終わったので、林の少し広いところで簡易的な寝床を作ることができた。

 すんなり戻っていってくれてよかったと思う。

 寝床用に切った枝とかそういうのには、洗浄魔法をまとめてかければキレイになる。なのであとは地面をいぶせばいいだけなので魔法ってとても便利だ。


「オオカミさん、水魔法とか氷魔法みたいなのってこの世界にはあんの?」

『水魔法ならワニが持っているはずじゃ』

「あー……」


 確かに水場にいたもんなぁ。つい微妙な顔になってしまう。


「他に誰か持ってたりするんですかね」

『持っているものはいるじゃろう』


 他は知らないみたいだ。オオカミも持っていないらしい。持ってたら継承してほしかったんだけどな。

 すると俺の首に巻きついているミコがクククククッと喉を鳴らした。


「ん? ミコどうしたんだ?」


 なでなでする。ホント、ミコは癒しだよなぁ。

 その日は予定通り林で過ごし、朝はクェエエエーーーッ! というクイドリの鳴き声で起こされたのでとっとと倒した。最近の俺の武器は醤油とかソース、焼肉のタレをつけた石である。

 こんな命がけの目覚まし時計はいらないと思う。

 ホント、安眠妨害だよな。


「……朝からこんな運動したくないんだけどー……」

『解体せよ』

「はい、はーい……」


 そしてオオカミは容赦ない。中川さんと寝ぼけ眼で朝からクイドリを解体し、内臓はオオカミとミコ、カイにあげた。


「さーて、それじゃ水筒の確認をするか……」


 中川さんがいそいそと俺の隣に来る。実は昨日油が出たのだ。今日出てくる調味料によっては唐揚げとかできるんじゃないかなとか少し期待してしまう。

 水筒を開けて傾けると、白い粉が出てきた。なんか白さが小麦粉とは違う気がする。


「山田君、これって……」

「もしかするかな……」


 果たして、今日の調味料は片栗粉だった。


「やったー!」


 と二人でハイタッチする。小麦粉も少し持ってきているし、後は味塩胡椒を混ぜればいいんじゃないかな。

 ってことでお弁当を中川さんと分けてから唐揚げを作ることにした。

 起きてすぐにクイドリが三羽飛んできたので、もうクイドリは襲ってこないだろう。

 ビニール袋もあるので唐揚げを作るのは楽だ。ビニール袋の中で小麦粉と片栗粉、味塩胡椒を混ぜてから食べやすい大きさに切ったクイドリの肉を投入。よく揉み込んでから揚げた。


「……唐揚げおいしい……」

「うまい……」


 また中川さんと感動しながら食べてしまった。オオカミが呆れたような顔をしている。ミコとカイは俺たちの首から降りて毛づくろいしている。


『いつになったら出かけるのか』

「食べ終えたら出かけます!」


 せっかくオオカミに付き合ってもらってるんだもんな。あまり待たせてはいけない。調理した唐揚げを弁当箱に入れてリュックにしまった。そうしてやっと俺たちは王都へ向かった。

 オオカミは例によって林で待機である。退屈ではないかと聞いたら、クイドリが食べ放題だから気にならないそうだ。なんかクイドリが少しかわいそうになってきた。

 とはいえ襲ってくるものを撃退するのは当然だ。身を守るついでにごはんの調達ができると考えるしかない。

 中川さんとミコ、カイと共に王都の門に着いた。相変わらず人が並んでいる。

 街道をオオカミに乗って進んできたが、ほとんど人の姿は見かけなかった。ここに並んでいる人はいったいどこから来たのだろうと考えてしまう。


「今日もけっこう待つことになりそうね」


 中川さんは苦笑した。前回もそれなりに待った気がする。しかも今回は何故か、門番の他に兵士が何人も立っていた。そのせいか列の進みがとても遅い。

 どれぐらいかかるんだろうなぁと思っていたら、ヤチョウが飛んでくるのが見えたので石を投げて二羽ぐらい落とした。中川さんに列に並んでいてもらうようにしてヤチョウをキャッチする。ミコが嬉しそうにクククククと喉を鳴らした。

 ヤチョウを捕まえて列に戻ったら、


「後ろに並び直せ」


 と後ろから声がかかった。気持ちはわかるがヤチョウを回収する為に列を離れたのは見ていただろう。


「お断りします」


 きっぱりと答えると、舌打ちを何度もされた。なんつーかガラが悪い。みんないろいろあって疲れているのかもしれないなとは思った。

 あまりにも舌打ちが多かったせいか、ミコとカイが反応してしまった。

 キイイイイッッ! と後ろに並んでいる人に向かって威嚇する。


「ひっ、イ、イイズナ様!? も、申し訳ありませんっ!」


 ミコが飛び掛かろうとするのを捕まえて止めた。


「ミコ、止めろ」


 その騒ぎを聞きつけたのか兵士がやってきて、事情を話したら先に門を通してもらえることになった。その間ミコに指をガジガジと齧られた。甘噛みなんだけど痛い。そろそろ指に穴が空きそうである。

 門を通る時、ヤチョウを一羽兵士たちに進呈したら厳しい顔が笑顔になった。もう一羽は内臓をミコたちにあげて、残りはジャンさんへのお土産にしようと思った。(もちろんクイドリの唐揚げもである)

 王都までの道程で感じたことは、あまりよい状態ではないということだった。やれやれである。



次の更新は、19日(水)です。よろしくー

不穏はやだー

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