30.林に入ればいつも通り

 ミコとカイは俺たちの肩に乗り、その存在をアピールしていた。

 この国の人間にとって、イタチ(イイズナ)は大事な存在らしい。

 兵士は俺たちから10mぐらい離れたところで足を止めた。オオカミの姿を見てビビッてはいるようだが、話が通じないかんじではなかった。ミコとカイの姿についてはあまり見ないようにしている。やっぱりイタチってなんかあんのかな。

 俺はミコを宥めるように撫でた。


「……我々に敵対の意志はない。あなた方はこれからこの林に入られるのか?」

「はい、今夜はここで過ごすつもりです」


 単的に予定を伝える。


「と、いうことはこの林に住まわれているわけではないのだな?」

「はい。目的地は王都です」

「そ、そこのオオカミ殿も王都に……?」

「いえ、彼はここに残ります」

「そうか……」


 兵士は一瞬安堵の表情を見せたが、その後とても困った顔をした。


「クイドリを狩りに来たんですか?」

「そうだ」

「うーん……」


 どうしようかなと思う。中川さんを見た。中川さんは苦笑したようにオオカミを見る。オオカミに聞いた方が早いか。


「オオカミさん、クイドリって別々に入ったらそれぞれに対して突っ込んでくるのかな?」

『知らぬな』

「そうですよね」


 オオカミに聞いたってわかるわけがなかった。

 ってことで、どちらも損をしないよう交渉することにした。兵士たちとしては一羽獲れればいいらしい。なので共闘してはどうかと提案したのだ。

 クイドリが一度に襲ってくるのは三、四羽である。一羽を兵士たちが倒して残りは俺たちが狩るということで話は落ち着いた。案内役の人はここで戻るらしい。一人兵士が護衛について送っていくそうだ。なんつーか、この国の兵士たちも変わってきているんだなと思った。(以前の様子だとそのまま一人で帰しただろうし)

 ま、ジャンさんの教育かもしれないけど。

 どういう風に林に入るかという話になり、中川さんと俺、そして兵士たちの一部を先頭に林に足を踏み入れた。

 彼らの色はまだオレンジなので一応警戒はしておく。ミコとカイも俺たちの肩にいて、いつ何時危害を加えられてもいいように待機しているのがわかった。

 全く、命のやりとりが当たり前になってるってのもストレスだよな。

 内心ため息をつきつつ林の中へ入っていくと、キィヤァアアーーーーッッ! と金切声を上げながらクイドリが襲ってきた。


「うわぁっ!」


 兵士が驚いているのを横目に、手頃な石を羽に向かっていくつか投げた。

 でかい鳥は飛べなくしてしまえばいいと狩りをしてて学んだ。飛んでくる鳥の頭にピンポイントでぶつけるのは難しい。だが羽を狙えばだいたい当たるし。

 ギャーーーーッ! と叫び声を上げてクイドリが落ちる。


「攻撃してください」

「あっ!」


 兵士たちは慌てて落ちたクイドリに剣を向けた。その間に他のクイドリが飛んできた。一羽は中川さんが弓で、一羽はオオカミが狩り、更にもう一羽飛んできたので石を投げて落としたところへミコとカイが跳んでいってその喉笛に噛みついた。

 その間、一分も経ってなかったと思われる。

 ギィヤアーーーーーッッ! クイドリの断末魔が林の奥にも届いたのか、もうクイドリは襲ってこなかった。

 次は明日の朝かな。かなわないと思ったら襲うのを止めればいいのにと思うのだが、こればっかりはクイドリじゃないからわからない。

 兵士たちはまだ剣や弓を下ろしていない。更に襲ってくるかもしれないと警戒しているのだろう。

 オオカミはクイドリを咥えてきた。


『解体せよ』

「はーい」


 マップを確認したところもう襲われる心配はなさそうだった。赤い点が密集している場所はあるがマップの端の方である。今日はどう考えてもこないだろう。


「たぶん、もう来ませんよ」

「そ、そうか……感謝する」

「あ、下手に様子を見に行こうとかするとまた来ちゃうかもしれないんで、このまま戻った方がいいと思います」


 兵士の一人が、クイドリが飛んできた方向へ行こうとするのを止めた。また飛んでこられても困ってしまう。倒すことはできるが、解体するのが手間なのだ。


「わ、わかった。では失礼する」


 兵士たちはクイドリを紐で括り、林から急いで出て行った。出てから血抜きをするのだろう。魔法が使える人がいれば、魔法で冷やしたりもできるのかな。水魔法とか、氷魔法みたいなのがあったら便利だよなと思った。


『解体せよ』


 オオカミがまた言った。


「あ、はーい」


 慌てて中川さんとクイドリを捌く。羽根を毟る作業がちょっと手間だけど、洗浄魔法があるから獲物の清潔さは担保されるのでいいかんじだ。俺たちも汚れたら洗浄魔法でキレイにすればいいし。

 ミコとカイは俺たちの肩から降りて、解体されるのを今か今かと待っている。待っている姿はかわいいんだけど、食ってる姿はけっこう怖いよなと思いながら、まずは内臓を出したりと作業を進めたのだった。

 兵士と敵対することにならなくてよかった。マップを確認すると、兵士たちのオレンジの点は黄色っぽく変わっていた。



次の更新は、15日(土)です。よろしくー

書籍発売日まで一か月を切りました。予約してくれたかなっ? とっても読みやすくなっていますので是非!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る