王都へ行こう 十二話
「えー? 僕も行きたい!」
朝みんなに王都の近くの林に向かうことを伝えると、案の定チェインがごねた。ムコウさんが「お前はだめだ!」と叱る。その言い方ではいけないと俺は思った。
だめなのは間違いないが、チェインは八歳だと聞いている。俺が八歳だった時はこんなにしっかりしていなかったと思うが、それなりに自我が芽生える頃じゃないかな。
「俺が話しますから、任せてもらってもいいですか?」
きちんと話してもわかってもらえなかったら残念だけど、まずは話そうと思った。ムコウさん夫妻はすまなさそうな顔をして引き下がってくれた。ありがたい。
「チェイン、クイドリは一度に何羽も同時に襲ってくるから、着いてこられても守れない。だから今日はここにいてほしい」
俺ははっきり伝えた。
「僕も闘う!」
チェインは筋肉を見せるように腕を曲げた。俺は首を振る。
「チェインはゴートを狩ったことはあるか?」
「……ない、けど」
「クイドリはゴートより強いんだ。だから挑戦するのは、ゴートを危なげなく狩れるようになってからだ」
「……でも」
チャインはこの屋敷に置いて行かれるのが嫌なのだろう。その気持ちはわかるが狩りは遊びではないのだ。
「チェイン、本当に強い奴っていうのは自分の力量がわかる奴だ。ゴートを狩れるようになったら一緒に狩りに行こう。その方がかっこいいぞ」
「そ、そう、かな……」
「ああ、そうだよ」
ジャンさん夫妻はなんともいえない顔をしていた。
「ちょっといいか?」
ジャンさんが声をかけてきた。
「はい」
「ゴートってのは……そんなに簡単に狩れるものじゃないと聞いている。うちの兵士たちでも一頭を倒すのに三、四人がかりだ。運がよければ二人で狩れる場合もあるらしいが、まぁそれぐらい強い魔獣だ。クイドリはそれよりも強いんだよな?」
「そうですね。王都の近くの林に住みついているのは更に大型で獰猛です。だからチェインを守りながら狩ることは難しいです」
「そうか……ならチェイン、うちの兵士たちと訓練をしないか?」
「訓練?」
チェインは不思議そうな顔をした。
「そうだ。剣の使い方なども教えてやるぞ? ヤマダ様たちが帰ってくるまで訓練すればそれだけでもかなり強くなれるだろう。どうだ、やらないか?」
「やる!」
チェインは目を輝かせた。
これはクイドリのお土産も必要だなと思った。
ユリンさんはチェインと共に屋敷に残った。
俺、中川さん、テトンさん夫婦、そしてムコウさんの五人とイタチ五匹で王都近くの林に向かうことになった。
そうは言ってもそれなりに離れてはいるんだけどな。
王都の南門から出て、俺たちが走れば三十分もかからずに着いた。これでもムコウさんの足に合わせたからゆっくり目ではある。
「大丈夫ですか?」
少し息が上がっているムコウさんに水を渡した。
「はぁはぁ……ありがとうございます」
普通の人が歩くと王都から半日ぐらいはかかるみたいだ。兵士とかだともう少し早くは着くんだろうな。
ムコウさんが落ち着いてから林の中へ足を踏み入れた。
少し歩くとでかいクイドリが襲いかかってきた。反射的にポケットに入れてあった石を投擲する。眉間にうまく当たったせいか、クイドリはふらふらと少し飛んでから落ちた。その間に二羽、三羽と襲ってくる。中川さんが危なげなく弓を構えて矢を放つ。テトンさんも矢を放ち、ムコウさんもどうにか羽に矢を当てることができた。
襲ってきたのは四羽だった。一羽一羽でかいから解体もたいへんだったが、みんなで急いで解体し、ミコたちに分けた。
イタチたちが喜んでがつがつとクイドリを食べる。よしよし、いっぱい食べて強くなってくれよ~。
「一羽はジャンさんたちへのお土産でいいですか?」
「はい、ありがとうございます」
テトンさんが礼を言う。洗浄魔法をかけてさっぱりしてから、もう少し林の奥へ入ればまたクイドリが襲ってきたのでとっとと始末した。今回も飛んできたのは四羽である。
ムコウさん以外はみんなにこにこだった。
ケイナさんは弓が苦手らしく、ナイフを投げていた。かっこいいなーと思った。
「ナイフは当たった時はいいんですけど、当たらなかった時が困りますね~」
ケイナさんがぼやく。
「投擲用のナイフ、多めに仕入れましょうか?」
中川さんと相談し始めた。ムコウさんは汗でびっしょりだった。
「いやぁ……飛んでくる、というのは怖いですね……」
「怖いですよね~」
同意する。俺はもうそこらへんの石を投げるだけで倒すことができるようになっているが、中川さん、テトンさん、ムコウさんの矢じりには醤油を付けてもらった。ケイナさんのナイフにも同様である。その方が確実に倒せるのだから使えるものは使った方がいい。
解体してからそこでお昼ご飯にすることにした。
飯盒で米を炊き、王都で買ってきた野菜とクイドリの肉を焼いて食べた。スープにはゴートの肉と野菜が入っている。
「……うまい……ですね……」
ムコウさんがしみじみ呟いた。みんなにはどんどん強くなってほしい。
その為にはいろいろ段階を踏まなければいけないのだ。
口の周りを真っ赤にしたミコが戻ってきたので口を拭いてやった。
「ちょっと汚いから洗浄魔法かけるからなー」
そう言って洗浄魔法をかけたら鼻の頭を甘噛みされた。ミコなりの抗議らしい。怖いからちょっと勘弁してほしかった。
次で番外編は完結ですー。14日(金)に更新しますね。よろしくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます