王都へ行こう 十一話

 みんなで食うと、ゴートの肉もうまいもんだなー。

 調理法もあるのかもしれない。どうしても煮るか焼くかしか調理法が思いつかない。料理道具があんまりないってことも関係しているかもしれないが、調味料がふんだんにあるからそこまで冒険する必要もないんだよな。

 屋敷に入る前に洗浄魔法で全員キレイにした。ホント、魔法って便利だよな。でも魔法って使うことで世界に歪みみたいなものが出てきたりしないんだろうか。と、魔法が元々ない世界で暮らしていた俺は考えてしまう。

 え? ラノベの読み過ぎだって? ほっとけ。

 夕飯の前にお召し替えをと言われて着替えることになった。

 シャツにジャケット、ズボンの姿なんだが、髪型も整えるとどこかのおぼっちゃんに見えてしまうのだから不思議だ。

 そういえば中川さんたちは服を仕立てに行ったんだっけ。そうしたら新しいドレスとか着てるんだろうか。ちょっと楽しみだった。

 ミコが首元から顔を上げる。


「ミコ、どうした?」


 頭を撫でて喉を軽くくすぐってやるとクルル……と嬉しそうに喉を鳴らす。もう首に巻き付いているのが普通だから、いてくれないと落ち着かない。

 ちなみに洗浄魔法をかける時は声をかけて下りてもらった。自分の匂いがなくなるから嫌みたいなんだよな。

 で、洗浄魔法をかけた後はまた首にくるんと巻き付いてきてくれたのだけど、俺の匂いがしないのが気になるらしく、しきりにふんふんと匂いを嗅いでいた。くすぐったいけどとてもかわいい。

 で、夕飯である。

 食堂に向かうと、みなそれなりの恰好をしていた。席についたところで女性陣が入ってくる。


「おお……」


 思わず声がでた。


「おかえりなさい? 山田君、どうかな?」


 立ち上がって黄色いドレス姿の中川さんの側に向かう。うまく言葉が出てこなくて、口をぱくぱくさせた。


「山田君?」


 もう、なんていうか抱きしめたい。

 何か言わなきゃいけないと思うのに、言葉にならない。頬が熱い。


「……かわいい」


 それだけどうにか言えた。

 途端にそれまでうっすらと頬を染めていた中川さんの顔が、一気に赤くなった。


「や、山田君、てば……」


 視線を感じて周りを見回せば、みんなにによによした顔で見られていた。うわ、はっず。


「中川さん、座ろう」

「そ、そうね」


 どうにか椅子を引いて中川さんに座ってもらった。

 みんな何も言わずによによしている。こういう時はからかわれた方が楽だと思った。

 夕飯に出されたのはゴートの肉のステーキだった。焼きかげんが絶妙で、これはうまいと思った。やっぱ調理のしかた如何もあるのかもしれない。ヤクの肉とかは手放しでうまいんだけどさ。

 おなかがくちくなると落ち着いてきた。ミコたちイタチたちは食堂の隅に皿を置いてもらってそこにゴートだけではなく、ヤクの肉やでっかいネズミもどきの肉などを適当に切り分けてあげている。さすがにヤクとでっかいネズミもどきの肉は他の人に触らせるわけにはいかないので俺と中川さんか、テトンさん夫妻で切り分けていた。前みたいに預けて他の人とかに振舞われても困るしな。

 一応でっかいネズミもどきの肉は少しだけ厨房に下ろしている。チェインにはあげないように注意して、屋敷中の皆さんで少しずつ食べてもらいたいということは伝えてある。魔力が増えればそれだけいろいろなことをするのが楽になるだろう。

 ケイナさんも魔力が増えたって喜んでいたし。

 生まれつきなんらかの魔法を持っていても、魔力量が少なすぎて使えないという人もいるらしい。それが解消されるのならばいいことだと思うのだ。

 まぁ、それらの魔法が危険なものでなければいいのだけど。人が持っている魔法って確認できたりする魔法とかあるんだろうか?

 やっと今日何をしていたかを聞くことができた。

 中川さんはジャンさんの奥様と一緒に服の仕立て屋に行き、ゴートの毛を糸に加工したものを見せてもらったりしたらしい。

 それからまた改めて寸法を測ってもらい、既製品のドレスを直してもらって着たのが今夜のドレスだそうだ。この他にも何着も作ってもらったらしく、中川さんは頬を染めながら恐縮していた。


「山田君たちは、今日は何をしていたの?」

「冒険者ギルドで冒険者証を作ってきたんだよ!」


 チェインが嬉しそうに言い、首から下げている冒険者証をみんなに見せた。

 なんとも微笑ましい光景である。


「そうなの? 何か依頼とかあった?」


 中川さんは興味津々である。


「ゴートを二頭売って、知り合った人たちと酒場で食事をしてきたかな」

「そうなんだ? 私も行きたかったな~」


 その後はチェインが今日楽しかったということを身振り手振りを交えながら話していた。にこにこしてしまう。

 確かにチェインからしたらすごい冒険だったのかもしれない。


「にーちゃん、明日はどこ行くの?」

「うーん、どうしようかな……」


 チェインは連れて行けないかもしれないけど、ちょっとクイドリの在庫がほしいんだよな。在庫扱いはひどいと思うのだが、しょうがない。

 寝る前に中川さんにそう伝えたら、「私も狩りに行きたいわ」と言ってもらえた。チェインには悪いが、屋敷に残ってもらうようだろう。一度に三、四羽とかで襲ってくるから誰かを守りながら狩るのは難しいのだ。

 そんなわけで明日は王都の近くの森でクイドリ狩りをすることになった。



次の更新は4/12(水)です。よろしくー

更新時間ずらしてみました。

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