王都へ行こう 五話

 朝からドラゴンに飛んでもらい、昼過ぎぐらいには王都の北側にある丘の上に着いた。(俺たちは丘と言っているが、王都からは山のように見える為山と言う人もいる)

 かなりのスピードである。

 それでも全員乗っているので、ドラゴンも比較的ゆっくり飛んでくれたと思う。


「ドラゴンさん、ありがとう」

『ふん、これぐらい朝飯前じゃ』


 ふん、ふんとドラゴンが首を振る。ツンデレドラゴンが面白い。


「一週間後またよろしくお願いします」

『相分かった。早めに戻ってくるならば呼べ。そなたの声ならば届く』

「うん、ありがとう」


 そう言うと、ドラゴンは丘の向こうに向かってドタドタと走り始めて飛び上がった。助走大事。

 それにしてもなんで俺の声だとんだろうな? こればっかりは不思議でしょうがない。

 ここは丘と言ってもそれなりに高さがある為そう簡単に人はやってこない。なのでまずみんなでお昼ごはんを食べることにした。

 滞在先はテトンさんの伯父さんの館のつもりではあるが、連絡も何もしていないので無理だったら宿を取るつもりである。俺たちとテトンさんたちだけなら王都の側の森で野宿でも全然いいんだけど、チェインがいるから宿を取ることに決めたのだ。

 ムコウさん夫妻は恐縮していたけど、チェインには温い視線を向けられてしまった。


「にーちゃん……ねーちゃんもいるのに野宿とかありえなくない? そのうちフられるよ?」


 と言われてしまった。クイドリのおいしさと野宿に慣れすぎて、さすがにまずいとは思った。


「いいのよ~。まだそれほど寒くないし、洗浄魔法もあるんだから」


 中川さんはそう言ってフォローしてくれたが、もう少し彼女のことも真面目に考えなければいけない。俺は中川さんに甘えすぎだ。

 鍋も持ってきているので温かいごはんがすぐに食べられる。枯れ枝などを拾ってきて火魔法で点火すればいいのだから楽だ。

 魔法ってつくづく便利だよな。でっかいネズミもどきの肉を食べているせいか、魔力も順調に増えているみたいだ。(チェインにはあげていない)

 食べ終えて、俺と中川さんは麓にある現国王の母であるナリーさんに挨拶に向かった。王都に来たのだから一応顔出しはした方がいいと思ったのだ。


「あらあら、わざわざ挨拶に来てくれたの? 嬉しいわ。お茶でもどう?」


 ナリーさんはそう言ってにこにこしている。神様になった、現国王の父であるロンドさんも半透明の姿だがナリーさんに寄り添っていた。俺が安全地帯で拾った剣とかもろもろを持っていてよかったよな。もう情報が多すぎてうまく説明できないけど、そういうことだったりする。


「仲間を待たせていますので、これだけお渡ししたら失礼します」


 中川さんがそう言ってゴートの肉を使用人に渡した。少しでもナリーさんには長生きしてほしいからまた機会があれば渡しにこようと思う。ゴートの肉程度であればそれほど能力も上がらないから、力に振り回されるなんてこともないだろうという判断だ。


「まぁ、これはいい肉ではないのかしら?」

「森の近くの山で獲れるゴートの肉です。私たちは普通に食べていますからどうぞもらってください」


 ナリーさんは目を白黒させた。


「そ、そうなのね……だったらいただくわ……」


 ナリーさんは苦笑した。

 ゴートの肉は確か王城に献上されるような肉だったんだっけ?

 家畜はそれなりにいるって話だから、わざわざ野生の獣を狩りには行かないよな。まぁゴートってそんなに強くはないけど魔獣のカテゴリなんだろうか。兵士でも何人かがかりで倒すぐらいだから、この国の人たちからすると貴重な肉には違いないんだろうな。

 せめてお茶菓子は受け取ってほしいと言われてお土産に持たされた。クッキーとかいただいたのが嬉しい。

 テトンさんたちと合流し、王都の城壁に沿うようにして歩き、東の門から王都に入ることにした。東の門は南と違ってそれほど並んでいる人はいなかった。それでも多少は待つようである。

 別に疲れもしないからかまわないが、ただ並んでいるだけというのはやはりヒマだ。

 空を見上げる。今日もいい天気だった。東の方角から鳥か何かが飛んでくるのが見えたので、ポケットに入れてあった石を投げてみた。

 最近コントロールの精度が上がっている。

 鳥は少しよろけた後、こちらへ向かって落ちてきた。


「ちょっと拾ってくる」

「いってらっしゃい」


 拾いに向かうと思ったより大きかった。これもヤチョウなんだろうか。かついで戻ったら並んでいた他の人たちに感謝されてしまった。

 なんでも東側の門は並ぶ人が少ないが、こういう大きな鳥が頻繁に襲ってくるらしい。卵が先かニワトリが先かじゃないけど、大型の鳥が襲ってくるから人も少なくなるんだろうな。

 ミコが興味深そうに顔を上げた。


「おいしいかどうかはわからないけど、後で食べような」


 そう言うとキュッとかわいく鳴いてくれた。そんなに長く並んでいたわけではなかったけど、もう一羽飛んできたのでそれも始末してみた。そっちはテトンさんとムコウさんが持ってくれた。

 ミコだけでなく中川さんやテトンさんたちの首に巻きついていたイタチが顔を上げたことで、門はスムーズに通してもらえた。

 ホント、イタチ(イイズナ)さまさまだよなと思った。


「一羽はミコたちにあげてもいいかな?」

「ヤマダ様が狩られたのですからご随意に」


 テトンさんが笑んだ。


「もう一羽はみんなで食べましょう」

「ありがとうございます。本当にヤマダ様は……素晴らしい方です」


 テトンさんは感動しているみたいだった。肉は豊富にあるし、このヤチョウも簡単に捕れるから気にすることなんてないんだけどな。

 みんなにこにこしながら、テトンさんの伯父のジャンさんの屋敷へ向かったのだった。



次の更新は29日(水)です。よろしくー

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