127.あの山へ帰る
予定より一日長くなってしまったが、これで一旦北の国での用事は済んだ。
昨夜はそれなりに寒かったと思うけど、ドラゴンが結界を張っていたせいなのか翌朝みなピンピンしていた。もしかしたら亜人と呼ばれる人たちはそれなりに丈夫なのかもしれない。
職人さんたちはかなりがんばってくれたらしく、ストールを一枚仕上げて持ってきてくれた。
「わぁ……ありがとうございます。助かります」
中川さんとケイナさんがとても喜んだ。これはムコウさんの奥さんの分である。
「いやぁ……女性用の品はできるだけ早く仕上げないとな。これからもっと寒くなるだろう?」
気を使ってくれたことがわかって俺たちも礼を言った。さすがに残りも、というわけにはいかなかったので今度来る時に受け取ることになった。まだこっちにくる用事はあるし。
今回は挨拶しなかったが、次に来た時は現国王の父であり、現在この世界の一番若い神であるロンドを森に案内する必要がある。ロンドは神様のくせに森の安全地帯の場所を覚えていなかったようだ。つっても辿り着いたのは神になる前だったからそれはそれでしょうがないかとみなどうにか納得した。それでいてわざわざ俺たちの世界に飛んで俺たちをこっちへ召喚してしまうのだからどうかと思う。
「本当に助かった。森の側に展開していた兵士たちもじきに帰還するだろう。なに、いろいろ話を聞いてから総合的に判断するから大丈夫だ」
「そうですね。まだ森の側の家に戻る予定はありませんが、頭の痛い話です」
ジャンさんの言葉にテトンさんがため息をついた。森の近くにあった家を追われたテトンさんたちからしたら家がどうなっているのか気が気ではないだろう。
「よければドラゴンさんに寄ってもらいましょうか?」
「いえ、どちらにせよまもなく冬になりますから香辛料を獲ったとしても運べないと思います。それなりの量でないと行商人も運んでくれませんし。ですから、家を見に行くのも春になってからでかまいません。大事なものは残してはきませんでしたから大丈夫ですよ」
テトンさんが言い、ケイナさんも頷いた。それならいいけど、あの辺って雪が降ったりはしないんだろうか。それを尋ねれば、森の周囲は比較的暖かいので雪は降らないのだそうだ。それなら雪の重みとかで家が潰れることはないだろう。
やっぱり森ってあんまり季節感ないのかもしれない。それならオオカミやヘビが暑い寒いがあまり感じられないというのも理解できた。
「じゃあ、山に戻りましょうか」
「はい、ヤマダ様、ナカガワ様、何から何まで本当にありがとうございます」
「乗せていってくれるのはドラゴンさんですよ~」
中川さんが照れながら言う。
そうして俺たちはやっとドラゴンさんの背に乗った。
「ドラゴンさん、よろしくお願いします。オオカミさん、俺たちは山の上に戻っていますからマイペースでお願いします」
『そうさのう。森の様子を見てくることにしよう。東のに話もしておく』
「オオカミさん、ありがとうございます」
中川さんが嬉しそうに礼を言った。東の、というのは大蛇のことだ。
『冬の間はあの山の上で暮らすのか?』
「状況によります。耐えられないぐらい寒かったら森に下りるかもしれません」
『その際はコヤツに乗って参るがよい』
「そうですね。ドラゴンさんにお願いしようと思います」
『全く……勝手なことばかり言うてからに……』
「ドラゴンさん、いつもありがとう!」
中川さんに抱き付かれる形になり、ドラゴンはそっぽを向いた。
『ま、まぁそなたたちがどうしてもと言うのならば乗せてやらぬこともないが……』
相変わらずのツンデレっぷりである。テトンさん夫妻は苦笑している。今度こそジャンさんたちに礼を言って、俺たちはドラゴンの背に身体を伏せさせた。
『それでは可能な限り急いで戻ろうぞ』
「ド、ドラゴンさん! 王都の範囲を出るまでは王都の人たちに姿を見せるようなかんじでお願いします!」
どうにかそれだけ告げたことで、ドラゴンは魔法でふわりと浮き上がった。きっと言わなかったらここから館の外に向かって走り出したかもしれない。そうしたら足元が大惨事だ。
『では参るぞ』
バサリとプテラノドンのような羽を動かし、そうしてドラゴンは南の方角へ飛んでくれた。
ある程度の高さまで上がってから飛んでいるので、かなり遠くまで見える。冬の間は山と森を行き来することになるかもしれない。南の国へ向かうのは春になるに違いない。
中川さんと一緒だからいいけど、俺たちはいつになったら元の世界に戻れるのだろうか。
転移させられた時とあまり変わらない時間に戻されるとしたら、また高校生を途中からすることになる。その時勉強内容を覚えている保証もないから、そうしたら猛勉強するか留年でもすることになるんだろうか。
不安は尽きないけど、オオカミとかドラゴンとかは長生きしているみたいだからそれなりにこの世界で楽しく過ごせるかもしれない。その時、中川さんとミコが側にいてくれたら嬉しいなと思った。
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次回エピローグです。
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