126.宴会の邪魔をしてはいけません
どうせ結界魔法がかかっているから、部外者がこの館に押し入ることなどできはしない。
門番の青年に何があったのかと聞けば、案の定宰相が来て中へ入れろと騒いでいるらしい。王はさすがに来ていないようだった。いくらなんでも気軽に城下へは足を伸ばせないよな。
「ジャンさん、どうせですからこちらを一串持っていきましょう。もちろん、ジャンさんが食べる用ですよ」
「おお、すまないな」
ジャンさんは俺たちの意図に気づき、ニヤリと笑んだ。まぁちょっと悔しがらせるぐらいだから問題はないだろうという判断である。
ジャンさんが串にかぶりつきながら門へ向かうと、顔色の悪い宰相がギロリとジャンさんを睨んだ。
「遅いっ!」
「……客人のおもてなしをしてましてね。相手が相手ですので……」
「ここを開けよ!」
ジャンさんが弁解したが、聞く耳は持っていないようだった。ジャンさんは困ったように俺たちを振り返った。俺と中川さんとで首を振る。
「申し訳ありませんが、この結界はロン様がかけたものですから誰も入れることができないんですよ」
「ええい、そんなわけがあるかっ! ならば力づくで解除してくれるっ!」
宰相はものすごく怒っていた。なんでそんなに怒ってるんだろうな? 俺は中川さんと肩を竦めた。
「この結界を解除せよっ!」
宰相が命令する。解除すると言った本人ではなく、お付きの人っぽいのが出てきて結界に対して干渉し始めた。だがすぐに結界に弾かれたらしく、
「閣下……申し訳ありませんが私の魔力では……」
と困ったように告げた。そうだろうなぁ。お付きの人に同情した。
「本当ですよ。ドラゴンさんが張った結界ですから誰も解除はできないと思います」
「なっ、なっ、なっ……!」
宰相の顔が赤くなったり青くなったりと忙しい。
「それに……ここを開けたらどうするつもりだったんですか?」
中川さんが聞いた。
「み、南の勇者め……知れたこと! ロン様にご挨拶をさせていただくに決まっておろうが!」
「……この国の宰相程度に挨拶されてもドラゴンさんは何も感じないと思いますけど?」
中川さん、それは煽ってるよー。
「な、このっ、黙って聞いておればっ……!」
黙ってないよなー。ずっと文句言ってるよなー。まぁ別に俺たちは気にしないけどさー。
その時、ズシーン、ズシーンと音が聞こえてきた。これはドラゴンさんの足音だろうかと振り向いたら、本当にドラゴンさんがわざわざ音を立ててこちらへやってくるのが見えた。
「ひっ!?」
門に張り付いていた宰相が一歩下がったが、そこからは動けなくなってしまったようだった。ドラゴンが近づいてきて、俺たちから少し離れたところで立ち止まった。そして首を少し垂れる。そこからトトトッとミコと中川さんのイタチが駆けてきた。
「ドラゴンさん?」
『なに、イイズナたちがそなたたちの元へ連れていけと言うのでな』
「あ、そうだったんですね」
ドラゴンを乗り物にするイタチってどうなんだ? まぁミコたちについてはドラゴンも恐れてるみたいだから、何か俺たちが知らないすごい能力でも持っているのかもしれないけど。
ミコと中川さんのイタチは俺たちの身体をトンットンッと上ったかと思うと、宰相に向かって、
「キイイイイイイイッッ!!」
と激しく威嚇した。
宰相はそのせいか、泡を噴いて倒れた。それを慌ててお付きの人っぽい人たちが支えたので、どうにか頭は打たなくてすんだようだった。
「こりゃあ、たいへんなことになったな……」
ジャンさんが苦笑するように言い、串肉にかぶりついた。
「たいへん、って何がですか?」
「ん? ああ、こっちは全く問題ないが、宰相がたいへんだってことだ」
中川さんと首を傾げる。
「魔神様の眷属に威嚇されたなんていうのを、こんな衆人環視の元見られたんじゃあこの国で生きてはいけないわな」
「ああ、そういう……」
中川さんが納得したように頷いた。
「戻ろうか」
ジャンさんに声をかけられて先ほどの広場にドラゴンも含めて戻ることにした。いつのまにか宰相は引きずられて連れて行かれたようだった。これからあの宰相がどうなるのかわからないが、もうジャンさんが理不尽な目に遭う可能性がなくなったならそれでいいと思う。ミコがあれだけ怒ったぐらいだ。もしかしたらあまりよくないことに手を染めているのかもしれない。ま、これはただの俺の想像なんだけどな。
ドラゴンはわざと足音を立てて広場に戻った。そうしないと踏みつぶしてしまうかもしれないし。
クイドリの肉もそうだが、でっかいネズミもどきの肉がもう一頭分あったのでそれも提供し、職人さんたちも一緒に楽しく飲み食いした。ドラゴンとオオカミも兵士たちと意気投合したらしく酒もがぶがぶ飲んでいた。これでは今日のうちに戻るのは無理かもしれない。
ちょっと山の方が気になったが、ムコウさん家族ならあと一晩ぐらいどうにかなるだろう。
結局その日は夜中までどんちゃん騒ぎをし、寒くなってきているというのに男共はみな広場で潰れて倒れたのだった。
え? 俺?
さすがに中川さんと部屋に戻ったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます