125.最終日は宴会をしよう

 上からだと館の形とかで判別するのは難しいので、ドラゴンにはゆっくり飛んでもらうことにした。

 オオカミはジャンさんの館の位置を大体わかっているようなので、先導してくれるという。でもそうなるとドラゴンが上空でホバリングするようなことにならないかな? と思ったけど、ドラゴンは今回魔法で飛んでいるので大丈夫そうだった。ちなみに山の上で飛行機が滑走路から離着陸するような動きをしているのは魔力の節約の為なんだそうだ。実際走ってから飛んだ方がスピードも出やすいらしい。確かに魔法で浮き上がってそこから羽ばたくよりはスピードも乗るだろう。

 そんなわけでほぼほぼホバリングしているような体でドラゴンは王都の上空を飛んだ。下界の喧噪はそれほど届かないが、上を見上げてドラゴンを見つけた人もいるに違いない。

 そしてオオカミが足を止めたところを目指して、ドラゴンは静かに降下した。


『この館か』

「ドラゴンさん、中に入ってください。そっちの、ああ、右側の庭です。はい、そちらへ……」


 ドラゴンを誘導して、どうにか庭の横に位置する場所に下りてもらった。


「中川さん、フォローよろしく! 俺はオオカミさんを迎え入れるから!」

「はーい!」


 ドラゴンから飛び降り、ドラゴンと館内の人々のフォローを中川さんにお願いして、俺は門へ走った。オオカミは館の門の前にいて、大人しく座って待っていた。


「オオカミさん、ありがとう!」


 一応話は通っていたので、腰が引けている門番に声をかけて門を開けてもらった。そしてオオカミを中へ招き入れる。「俺が責任取りますから」と言って門番も館の内側に入ってもらった。そして誰が来ても開けないように頼んだ。

 館の外は少しうるさい。オオカミが王都の中を駆けてきたというのもあるし、空からドラゴンが下りてくるし。そう時間を置かず、館の周りに人が集まってくるのが見えた。


「じゃあすみません、お願いします」


 そう言ってオオカミと共に館の庭の近くにある広場へ移動した。そこでは人々がドラゴンを見て硬直していた。それをテトンさん夫妻やジャンさんが宥めている。普通はドラゴンを間近で見たらこういう反応になるようだ。そこへ先に話していたとはいえ大きなオオカミまで来たものだから、ジャンさんの奥様は泣きそうになっていた。

 ごめんなさい。

 俺は注目を集める為にパンパンと手を叩いた。


「皆さん、驚かせてすみません! ドラゴンさんは南の森に近い山の上から、オオカミさんは森から来ました。ドラゴンさんとオオカミさんは俺たちの友達です! 今回は皆さんと友好を深める為に、敢えてこちらへ来ていただきました! 食材は俺たちが提供しますので、一緒に飲み、食べてください!」


 俺の言葉でみな、徐々に平静を取り戻していく。門番だけはどうしても交代制にはなるが、それ以外の人たちはしっかりゴートやクイドリの肉を食べてもらいたい。ゴートを主に狩ったのはテトンさんたちなので尋ねたところ、全て放出してもいいと言ったから全部出した。クイドリより味はどうしても落ちるのでまずはゴートの肉から焼いてもらう。味の好みはあるだろうけど質もゴートの方が落ちるのだ。

 ドラゴンとオオカミには王都の近くの森で獲ったクイドリの肉と内臓を出す。ミコを始めとしたイタチたちも首から下りてガツガツとクイドリを食べ始めた。

 食べ始める前にドラゴンに館の敷地を覆う結界を施してもらった。無理に誰かが入ってこようとしたらたいへんだしな。

 ジャンさん直属の兵士たちがそれにどよめく。彼らは結界魔法の色がなんとなく見えるようだった。


「この館全体を覆う結界魔法を発動されるとは……」

「さすがはドラゴンだ」

「これが世界最強種……」


 そう賞賛されてドラゴンは得意そうだ。


『なに、結界など大したことではない』

「素晴らしい……」

「なんとカッコイイ……」


 兵士たちはドラゴンに憧れの視線を向けた。


「この肉もとてもうまい」

「山の方で獲れるゴートだったか」

「ゴートは王家に献上する肉ではなかったか?」


 みなそう言いながらも料理人たちが焼いたゴートの肉に舌鼓を打った。


「いや、すまないな」


 ジャンさんが上機嫌で俺のところへ来た。俺と中川さんは自分たち用の鉄板でクイドリを焼いて食べている。今更ゴートの肉を食べたいとは思えなかったからだ。テトンさんたちももちろんクイドリの肉を食べている。二人ともかなり実力も上がってきたから、そろそろクイドリの肉を食べてもいいだろうと判断したのだった。

 もちろんそのクイドリには昨日水筒から出てきた焼き鳥のタレがたっぷりかかっている。おかげでとてもいい匂いが辺りに漂っていて、まだおなかに空きがある兵士たちがふらふらと近づいてきていた。


「いえいえ、クイドリの肉も食べますか?」


 にこやかに言いながら中川さんが串に刺したクイドリの肉をジャンさんの前に出した。


「いいのかな? いやあありがとう」


 ちょっと涎が垂れていたのは見てましたよ。


「こりゃあうまい! これはどこのクイドリの肉なんだ?」

「王都の側の森のクイドリですよ~」

「それはすごい!」


 ゴートの肉が平らげられたのを見計らってクイドリの肉を一羽分提供した。兵士たちの目が血走っている。うんうん、食は全ての基本だよな。


「すみませーん! 俺たちからの提供の肉はそれで終わりになりますので、みなさん仲良く食べてくださいねー!」

「わかったー!」

「ありがとー!」


 まだ胃に空きがある面々がうおーっ! と手を振り上げる。

 そうして和気あいあいと食べているところへ、門番が慌てたように駆けてきた。


「楽しんでいるところ申し訳ありません! 実は宰相閣下がみえられまして……」

「あ?」


 クイドリに舌鼓を打っていたジャンさんが凄んだ。


「あ、あの……」


 門番の青年、涙目である。

 ようやく来たか、と俺は中川さんと顔を見合わせ、人が悪い笑みを浮かべたのだった。


ーーーーー

どっちが悪役なんだろう(笑)

明日で完結します。その後番外編を上げたいと思っていますー。

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