124.久しぶりに会います
王都を出てしばらく軽く走り、王都の門から見えない位置まで向かう。そうしてからオオカミを呼んだ。
普通の声だったけど、それほど待つことなくオオカミが現れた。本当に俺の声に反応するんだなと感心した。
「オオカミさん、久しぶり」
「こんにちは、オオカミさん」
『……それほど経ってはおるまいに』
オオカミが笑う。
「ドラゴンさんて、もう着いてますか?」
『ああ、そろそろ着くだろう』
まだ着いてはいないようだった。
「そろそろって……あと一時間ぐらいで着きますかね?」
『それはわからぬが、呼んでみればよかろう』
呼んだら来るものなのか? 俺は中川さんと顔を見合わせた。
「……とりあえず、あの丘の上まで乗せてってください」
『わかった』
中川さんが言い、俺たちはオオカミの背に乗った。できるだけ空気の抵抗をなくす為にその背に伏せる。
『あの二人はどうしたのだ?』
オオカミはやっとテトンさんたちがいないことに気づいたようだった。ちょっとひどいと思ったが、そういうものなのだろう。
「あの二人は後ほど合流します。オオカミさんは丘から山まで一気に走るとどれぐらいかかりますか?」
『……わからぬが……そなたたちを乗せているよりは早く戻れるであろう』
「ですよね。ありがとうございます」
そんな会話をしてから王都の北側の丘を上ってもらった。山というほどではないがそれなりに坂はあった。そのてっぺんに着く。この丘は、下の方には木々が生えていたがこのてっぺんの方は全然木が生えていなかった。背の低い木がちょぼちょぼと生えているばかりである。
「ここってやっぱり寒いのかしら?」
「そうかもしれないね」
あの山にも木々は生えているがだいぶ隙間が空いて生えていた気がする。やはり生育するにも個体差が大きいのだろう。
『着いたぞ』
「ありがとう、オオカミさん」
お礼を言ってオオカミの背から下りた。オオカミに乗せてもらうとあっという間だ。南の方角を見る。王都にそれほど高い建物がないせいかけっこう遠くまで見える。
「中川さん、見えそう?」
「うーん……私には影も形も見えないわ」
「そっか。オオカミさんは?」
『ふむ……そろそろ着きそうじゃがのう』
オオカミの言う”そろそろ”があてにならないので、俺は中川さんと頷いてやっぱり呼んでみることにした。来なかったら来なかったで待っていればいい。
「ドラゴンさん、準備が整ったので来てくださーい!」
南の方角へ向かって叫ぶ。するとすぐに小さな点が現れ、それがどんどん大きくなり、やがてその姿を現わした。
なんで俺の声が届くワケ? もしかして俺、へんなチートでももらってんのか?
呆然としている間にドラゴンの姿はますます大きくなり、王都の上を悠然と飛び越えて丘に降り立った。赤い、立派なドラゴンである。
『……そなに急いで呼ぶこともあるまいて』
そう言いながらもドラゴンは嬉しそうだった。尾をぶんぶん振っている。たぶん呼ばれたのが嬉しかったのだろう。このドラゴン、実はツンデレだし。
今はいいけど、いずれなんで俺の声が聞こえたのか聞いてみようと思った。
「ドラゴンさん、お久しぶりです。来て下さり、ありがとうございます」
『うむ……』
「実は俺たちとテトンさんたちを乗せて山の家へ連れ帰ってもらう予定だったのですが、せっかくですから王都に寄ってもらえませんか? もちろん、オオカミさんも」
『? 何かあるのか?』
『我はかまわぬが……』
オオカミは不思議そうだったが、ドラゴンは好奇心が隠せないようでまた尾をびったんびったん振っていた。落ち着いた声を発してるけど、その尾が全ての感情を表していますよ。
「王都の近くの森でクイドリをけっこう狩ったんです。なのでお世話になっているテトンさんの伯父さんの館で肉を焼いて食べようかと思いまして。顔合わせも含めてドラゴンさんとオオカミさんも参加しませんか?」
『それは楽しそうじゃな』
『う、うむ……それもよいやもしれぬ』
俺たちの提案にオオカミとドラゴンは即答した。なんだかんだいって付き合いいいんだよなー。ありがたいと思った。
「ありがとうございます。ではもう準備は始めていると思いますので連れて行ってもらえますか?」
『うむ……我が背に乗るがよい』
そう言ってドラゴンは身体を少し下げてくれた。ドラゴンはけっこう優しいと思う。俺は中川さんと目を合わせてクスッと笑んだ。いざドラゴンの背に上がろうという時になって、ミコがマフラーからぴょこんと顔を出した。そしてきょろきょろと辺りを見回す。もしかしたら今まで寝てたのかな、と思った。マフラーの内側を気に入ってくれて何よりである。
その頭を撫でて、
「ミコ、これからドラゴンさんに乗るからまだおとなしくしててくれ」
と頼んだ。ミコはくあーっと大きくあくびをすると、元の位置に戻ってくれた。他のイタチはけっこうずっと巻きついたままでいるみたいなんだけど、ミコはよく顔を上げて周囲を見たりする。面白いなと思いながら、中川さんと共にドラゴンさんの背に上ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます