107.王とご対面です!
そこは、大きな広間だった。
玉座の間というやつだろうか。そんなところに得体の知れない奴を通していいものなのか? と内心首を傾げた。
入る時も頭を下げるように言われたので人が何人もいる広いところらしいということしかわからないが、俺はマップを見て配置などを確認する。この広間の奥にいる黄色い点が王なんだろうと当たりをつけた。
ジャンさんを先頭に、その後ろにテトンさんとケイナさん、その更に後ろに俺と中川さんが並ぶ形で広間の真ん中ぐらいで立ち止まり、片膝をついた。俺たち二人は頭こそ下げていたが立ったままである。俺はミコの主だし、中川さんもその伴侶ということで王に傅く必要はないらしい。(中川さんが真っ赤になって無理ー! とか馬車の中で叫んでたのは割愛する)
外野がざわざわし始めた。
「なんだ? あの者たちは?」
「王に傅かぬとは無礼な……」
「やはり伯爵といっても……」
とか勝手なことを言っている。俺は小声で、「ミコ」と呼んだ。ミコが俺の意を汲んで巻きついてた首からするりと肩に立った。中川さんのイタチも、テトンさんたちのイタチも同じようにする。
「おお……これは……」
正面から感嘆の声が聞こえた。
「イイズナ様、また我が国に祝福を与えに来てくださったのか!」
野太い声が都合のいいことを言う。まぁ王様なんてポジティブじゃないと務まらないんだろうな?
「恐れながら申し上げます!」
「控えよ!」
ジャンさんの声に甲高い声が被さる。王の側にいる点だろうか。
「いいえ! こたびゴートの肉や骨、皮などを譲ってくださったのはこちらにいらっしゃるイイズナ様の主、ヤマダ様でございます。イイズナ様は現在このヤマダ様に全て従っております!」
「なんと!」
驚愕の声をあげたのは王のようだった。
「面を上げよ! 顔が見たい!」
中川さんと目配せしあい、顔を上げた。
部屋の奥に玉座があり、その玉座に腰掛けていたのは熊みたいに大きな男性だった。王冠を被っているからその人が王なのだろう。
「ヤマダとやら、そなたには角がないな?」
王がニヤリとして言う。別に隠すことでもないので「はい」と答えた。
「なんですって?」
「角なしって、南の奴か?」
「何故南の者にイイズナ様が……」
また周りがざわざわと騒がしくなった。俺だってなんでミコが俺を主みたいなものだと思ってくれたのかは知らないよ。
「鎮まれ!」
王が一喝した。それで一気にシーンとなった。
「わしはこの者たちに用がある。ピーチクパーチクとくそやかましく囀ることしかできぬのであれば出ていくがいい!」
みな口をつぐんだ。その様子がちょっと面白かった。ミコが退屈らしく、俺の肩の上で毛づくろいを始めた。ちょっとくすぐったい。
「ヤマダはどうやってイイズナ様の主になれたのか?」
王の言葉だけが部屋の中に響いた。俺はこちらに来たばかりのことを思い出した。……多分ポテチをあげたことが要因の一つではあるだろうと思う。お返しに芋虫をもらったことを思い出した。おいしかったけど……おいしかったけど、なんかやだ。人間見た目で拒否ることがあるのだなと勉強になった。
「その前に、王にお尋ねしたいことがあります」
「……なんだ?」
「何故兵士たちに森を攻めさせているのですか?」
この返事如何によって、愛の逃避行も辞さない。(言ってみたかっただけ)
「何故それを……」
王の隣にいる偉そうな奴が呟いた。
「恐れながら、森の側に居を構えていた我が甥が兵士たちによって家を奪われました!」
ジャンさんが告げた。王は眉一筋も動かさなかったことから、それはままあることなのだろう。
「そうか。その甥は今どうしているのだ?」
王が一応、というように聞いた。
「それは私たちです」
テトンさんがケイナさんと共に深々と頭を下げた。
「そうか。ならばどこで暮らすつもりかを伯爵に伝えておけ。補償金をくれてやろう」
「ありがたき幸せ」
「王よ、私の質問に答えてください」
話がどんどん反れていきそうだったので再び声をかけた。王の側にいる偉そうな奴が口を開こうとしたが、俺の肩に乗っているミコを見て口をつぐんだ。すげえな、イタチ効果。
「森を攻めさせている理由か……。イイズナの主であれば話さぬわけにもいかぬだろう」
王は俺の目を見た。
「神託があったのだ。果てなき森の奥深くに勇者が降臨すると」
「勇者」
「そうだ。一人は角ありの国の為。もう一人は角なしの国の為に降臨するという」
えええ?
なんかやっぱ厄介ごとの匂いしかしない。
「勇者は我が国だけにいればよい。角なしの国の勇者などいらぬ。勇者を迎えると共に角なしの国の勇者は始末させるつもりだ」
「……へえ。勇者とか言ってますけど、その勇者には何をさせるつもりで?」
王は人の悪い笑みを浮かべた。
「知れたこと、勇者には森を攻略させ角なしの国を征するのだ」
俺は緩慢に首を傾げた。
「……何代か前の角なしの国の勇者が、森の攻略については諫めたんじゃなかったのか?」
「何故それを!?」
王の側にいる偉そうな奴が叫んだ。小物かよ。
「昔は昔だ。森も角なしたちの国も我らのものだ」
王はそれがさも当たり前だというように告げた。
「……話にならないわ。ヤマダ君、”森”に帰りましょう」
中川さんが大きくため息をついた。
「そうだね。でもちょっと面倒くさいからさ……」
期待は全くしてなかったけど、正直かなりきついな。買物は後でできたらしよう。
「オオカミさん!」
どんなに大きな声を出してもさすがに届かない距離にいるだろうオオカミを呼んだ。
その途端広間の中に一陣の風が吹いた。
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