106.あれよあれよというまに
幸い問答無用で罰せられたりはしなかった。最近そういうの多くてさー……。
つい遠い目をしてしまった。
「ヤマダ様が降臨された場所にあった白骨死体が、この剣を持っていたとは……」
ジャンさんに光っている短剣を見せてほしいと言われたので渡した。俺の物じゃないし。しかも確か他の形見になるような物もビニール袋に詰め込んでリュックの奥に入れてあるんだった。すっかり忘れてた。
ジャンさんは恭しく短剣を受け取ると泣きそうな顔をした。剣の鞘の部分を眺める。
「……間違いない。これは現国王の父君であらせられるロンド様のものだ。まさか森の奥地にまでいらっしゃったとは……」
え? そんな前の人のなのか。しかも現国王の父君って元国王?
ジャンさんが手に取ると、短剣は光らなくなった。よかったよかった。
「えーと……ってことは王様に渡せばいいんですかね?」
「いえ、ロンド様の奥様はまだ御存命でいらっしゃるはずです。奥様にお渡しした方がよろしいかと……」
テトンさんが口を挟んだ。
えー? 奥さん置いて森に入ったワケ? ちょっといただけないなぁ……。道に迷ったとしてもあそこまではそう簡単に辿り着かないだろう。
「他になにか持ってないか?」
「ええ、まぁ。風化しかかっていた手紙とかそういうのも保管してますよ。状態保存魔法をかけた方がいいですかね?」
「できれば頼みたい」
というわけでリュックから出したその他の物に状態保存魔法をかけ、ジャンさんに渡した。あー、これでやっと肩の荷が少し下りた。すっかり忘れてたけど。
「出発の準備が整ったようだ。さぁ、王城へ参ろうか」
別の侍従が知らせに来たことで、ジャンさんは俺たちをがっしり捕まえた。俺が行かないという選択肢はないらしい。いや、でもなぁ……なんの準備もしてないしと思ったけど有無を言わさずだった。
王城では敵だらけなんてことになりませんように。もちろんケイナさんと中川さんも一緒だった。
「オオカミさんに連絡とか、どうしよう……」
「三日猶予があるんだから……大丈夫じゃないかしら?」
中川さんはにこにこしていた。王城とか、俺からすると胃が痛くなりそうなのだが中川さんはわくわくしている様子だった。
「確かに三日あるんだよな……」
三日経ってもどうにもならないことがあったら、それこそオオカミやドラゴンに頼るしかない。中川さんの言うことももっともだった。
服とか変えなくていいのかと問えばそのままでいいという。冒険者の出で立ちのまま来てほしいという話だった。ここの王様がますますわからなくなってきた。
もうしかたないので腹をくくった。
「あ。ミコも一緒でいいんですよね?」
「もちろん!!」
ジャンさん、テトンさん、ケイナさんに即答されてしまった。ミコや他のイタチたちが動いたことで、侍従のカタリさんが狼狽えた。
「イ、イイズナ様がこんなに……おもてなしを! 是非おもてなしをしなくては!」
「……いえ、大丈夫なんで……」
下手に家畜の肉とかいただいても不機嫌になるだけだしな。
「ですが……」
「じゃあ大きな皿を用意していただいてもいいですか? イイズナが乗っても邪魔にならないような皿がいいです」
貴族の屋敷だけあって、本当にでかい皿を運んできてもらってしまった。しかし執務室を汚すわけにはいかないだろう。かといって廊下ってのもなぁ……。
考えていたらジャンさんに声をかけられた。
「部屋が汚れてもかまわん」
「あ、じゃあ……」
大きなお皿に今朝狩ったばかりのクイドリの肉を乗せた。もちろん包んでいた新聞紙は外して。
「食べていいよ」
と声かけたらミコたちはがつがつと食べ始めた。小さい身体なんだがけっこう量を食べるので俺のリュックの中は肉だらけだったりする。みな平然としていたことから、イタチに関しては当たり前のことなのだろうということはわかった。ミコたちが求めるままに与え、落ち着いたところで洗浄魔法をかけて、それから出かけることになった。またミコに怒られた。だって血の汚れが……。
本当にいつもの恰好のまま豪奢な馬車に乗せられて、中川さんはちょっと不満そうだった。せめて着替えると思っていたのだろう。俺もそう思ってた。どうにか穏便に済んだら、服屋さんで服を買ってあげたいと思った。って最近は獣の肉とかも全て中川さんと共有財産なんだけどな。
はっ! なんかこれって夫婦っぽい!
自分でそう考えて照れた。中川さんには気づかれてないよな?
そんな頭沸いてんのか的なことを考えている間に馬車は王城に着いたらしい。はやっ、ちかっ。
ジャンさんは伯爵なので王城の中もある程度までは馬車で入れるそうだ。そうかそういう身分制度もあるんだよな。めんどくさそうだなとげんなりした。
馬車が停まり、テトンさんに促されて下りる。ここから先は徒歩なのだそうだ。ホントこういうの面倒くさい。
建物の中へ案内され、階段を上がったり、まっすぐ進んだり曲がったりしてからようやく大きな扉の前についた。無表情の衛兵が扉の両脇に控えている。これ笑わせてもいいやつかなとか思いながら、扉が内側から開かれるのを待った。
さぁ、王様との対面だ。
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