98.どさくさに紛れてなんとなくそうなったらしいです

 宿で部屋は二つとってある。

 本当は女性は女性同士、男は男同士のつもりだったんだけど、宿に着いたら中川さんがあっけらかんと俺と同室を主張した。


「待って」


 両手を前に出した。ちょっとそれはさすがにどうかと思うんだ。


「なんで?」


 中川さんが首を傾げた。それはあざといですよ奥さん!(誰)


「中川さん、俺、男なんだけど?」

「うん? 知ってるよー」


 知ってるよじゃなくて!


「でもテトンさんとケイナさんは夫婦なんだから同室がいいじゃない? そしたら私たちが一緒の方がいいかなーって。それに、山の上の家では同じ部屋だし、森でも……」

「テ、テトンさん! 未婚の男女の扱いってこの国ではどうなってるんですかぁっ!?」


 山の上は壁が薄いからそんなことできないし、森はほぼ壁もない野宿に毛が生えたような生活じゃないか! こんな、しっかり壁も窓もある空間で二人っきりなんて! 密室なんていけないわ!(だから誰)

 テトンさんとケイナさんは目を丸くした。


「え? お二人は恋人同士ではないのですか?」

「年、いくつだったっけ?」


 テトンさんとケイナさんに聞かれた。

 中川さんがにっこりする。


「山田君、私のこと、嫌?」

「い、いいいい嫌なんてことあるわけないじゃないですかっ! 俺本当は中川さんのことおおおおっ!」

「ってことで、照れてるだけです~。同い年で17歳です!」


 なんかよくわからない敬語だか丁寧語で狼狽えていたら、中川さんが勝手に納めてしまった。え? 本当に俺でいいの? 実はやっぱり日本に彼氏とか残してきてない?


「よかったわ~。未成年じゃなくて」


 ケイナさんがにこにこしている。もう無理。俺のライフは0です……。

 ちなみにこの世界の成人は15歳らしいです。だから俺たちも成人ですね。でもダメ! 元の世界では俺たちまだ未成年んんん!(まだ混乱中)


「そ、そういえばケイナさん、なんか具合悪そうに見えたんですけどっ!」


 無理矢理話題を変えてみた。まぁおかげで中川さんと同室を覆すことはできなくなった。ベッド二つのツインの部屋だからいいことにしよう。どうせ口では彼女に勝てそうもない。

 そういえば、洗浄魔法が使えない人には有料で洗浄魔法をかけるサービスもやっているらしい。他に桶一杯分ぐらいのお湯をもらうサービスもある。それも有料だった。なんでも商売になるんだなと感心した。


「あ……うん。それについては部屋ででいい?」

「はい」


 テトンさんたちの部屋にお邪魔し、ケイナさんにはテトンさんが洗浄魔法をかけた。ケイナさんは靴を脱いでベッドに横たわった。


「ごめんね、こんな格好で」

「いえ、やっぱり具合が悪いんじゃないですか?」

「……魔法の使い過ぎなの。鑑定魔法は魔力をすごく使うから……」

「えっ?」


 やっぱりローブに触れた時、ケイナさんは鑑定魔法を使ったようだった。


「やっと使えるようになったんだけど……やっぱり思ったより魔力が必要だったみたい」


 ケイナさんはそう言って笑った。


「やっと使えるようになったって、どういうことですか?」


 中川さんが尋ねた。それは俺も気になった。


「ああ……そうね。知らないわよね……。私たちは生まれつき魔法をいくつか持って生まれてくるのだけど、魔法によっては使用魔力が多すぎて使えないものもあったりするの。最近いろんな肉をいただいて魔力量がとても増えたから、つい使ってみたのだけど……思ったより必要魔力が多かったみたいなの」

「あ、あの……その鑑定魔法って……」


 中川さんの手がわきわきしている。うん、ほしいよな。鑑定魔法……。


「継承されるかどうかはわかりませんが、継承してみましょうか?」

「は、はい! 是非っ! あ、あと、山田君、お肉出してお肉!」

「魔力量だったらネズミもどきの肉がいいかな」

「うん、調理してもらいましょ!」


 そんなわけでケイナさんに鑑定魔法を継承してもらった。無事に継承してもらえ、中川さんのテンションが爆上がりした。よかったよかった。俺も継承してもらえた。鑑定魔法が使えるなら使えた方がいい。ニセモノなどを掴まされることがなくなるだろうし、わからない物でもそれがなんなのかわかるのでとても便利そうだった。ただしケイナさんの具合が悪くなったぐらい魔力を食う魔法らしいので、乱用はしない方がいいとは言われた。ここぞという時に使えばいいんだな。

 それから冒険者証の丸の意味も教えてもらった。丸が二十個集まるとランクが上がるらしい。でもランクが上がるごとに丸がつきにくくなるらしいので、その場合はそのランク推奨の依頼を受けないといけないのだとか。そう簡単にランクを上げさせてはもらえないようだった。

 夕飯は宿に頼み、でっかいネズミもどきの肉を調理してもらうことにして、ケイナさんの具合が落ち着いたところで再び表へ出た。

 ケイナさんは中川さんのビタミンCの飴を舐めて復活しました。


「こ、こんなおいしいものが世の中になるなんて!」


 と飛び上がって感動していた。もしかしてその飴にも能力を上げる力があるのかな? と中川さんと首を傾げたりした。

 ちなみに、飴はミコ以下イタチたちにも奪われました。飴、甘くておいしいよな。ちょっと酸っぱいけど。

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