97.村の中でもいろいろあるらしい

「ふむ……これなら依頼にも合うな。この塊で銀貨7枚だ。もっとないのか?」


 ギルドの買い取りを行ってくれるらしいメガネおっさんが、ゴートの肉を見て言う。


「やはりそれなりに値はつくのですね。ヤマダ様、角と毛皮を出していただけますか?」

「はい」


 テトンさんに言われるがままにゴートの毛皮と角を一頭分出すと、メガネおっさんの目の色が変わった。


「角に……こんな毛皮まで、だと……!?」


 メガネおっさんが角と毛皮を精査したようだった。


「……金貨2枚でどうだ」


 えええ? って思ったけど声を上げないようにがんばった。


「まぁ、いいでしょう」

「五頭分ぐらいあればもっと色をつけられるんだがなぁ……」

「あはは、いくらなんでもそんなに狩れませんよ」


 テトンさんが笑って言う。ゴートの肉については依頼が出ていたものだったらしいので、依頼達成の丸印が二つほど冒険者証につけられた。これがいくつ貯まるとランクが上がるんだろうな?

 しっかしゴート一頭分で金貨2枚と銀貨7枚か。日本円でだいたい27万円である。すごいなゴートと思った。


「これで宿に泊まれますね~」


 ケイナさんが嬉しそうに言う。野宿ばかりなのでそれはありがたいと思った。

 宿は中程度の宿屋で、二食付きで一人銀貨一枚だった。高いんだか安いんだかわからない。ちなみに王都に入る時は一人銀貨一枚かかるそうだ。入場料で一万円ってけっこうな額だよな。

 宿に入る前に村を見て回る。それほど大きい村ではないらしく、メインの通りを200mも歩くとすぐに家が点々とあるばかりの景色になった。それでもこの村は大きい方なのだとテトンさんが教えてくれた。なんとなく村の端まで歩くと、木で作られた背の高い柵が村を囲っているのがわかった。こんなに背の高い柵なんて、山の麓の村にはなかったよな。


「ここは害獣が多いんでしょうか。柵がけっこう高いですよね」

「そうですね。村に入ってこようとするのは獣だけではありませんので」


 テトンさんが苦笑して答えた。


「ああ……」


 今日捕まえたみたいな盗賊も村に入ってきたりするのか。獣が多い場所もたいへんだが、人の往来があったらあったでたいへんそうだった。

 やっぱ俺は暮らすなら森がいいかもしれない。できれば中川さんも一緒だと嬉しいけど、彼女はどうだろう?

 そんなことを考えながらメインの通りに戻り、なんとなく武器屋や防具屋に入ってみた。値札がついてないから相場が全くわからない。俺は投げナイフ的なものがあるといいかなと思う。中川さんとテトンさんたちは弓を見せてもらっていた。

 隣の防具屋で、一応防具があった方がいいだろうということで皮の鎧などを見ていたがミコに怒られた。ミコたちはこの皮の匂いが嫌だったようである。


「俺はともかく中川さんは防具があった方がいいと思うんだ。ミコ、なんかいいのないか?」


 と聞いたが、ミコは俺の首にまた巻きついてしまった。


「で、でしたら……この魔術師のローブは如何でしょう……一応このローブには鎖が入っていまして……」


 防具屋がミコたちを見て怯えていたが、それでも営業は止めなかった。商売人の鏡である。


「ふうん?」


 中川さんはローブを手にとって羽織らせてもらっていた。


「おいくら?」

「金貨1枚半です」

「わぁ……それなりにするわね」


 鎖が入った魔術師のローブが15万か。けっこうするな。


「店主、そのローブには魔法防御の魔法陣もないようだが? それで金貨一枚半は暴利だろう」


 テトンさんが眉を寄せた。魔法陣もあるらしい。どうやってつけるんだろうな?


「お客さん、バカ言っちゃあいけません。このローブは高山の上の方に棲むっつー伝説の獣の毛を織り込んであるんですぜ!」

「えええ? そう、かなぁ?」


 中川さんは首を傾げた。高山の上の方に棲む獣っていったらヤクがでっかいネズミもどきかどっちなんだろう。色的にはヤクっぽいけど、ヤクの毛ってこんなローブとかに加工できるものなんだろうか。


「ちょっとごめんね」


 ケイナさんがローブを見る。そして少し触った。


「これ……獣の毛は一切使われていないわ。どこで購入したの?」

「なっ、なんだって!?」


 防具屋のおっさんが目を剥いた。


「だ、だが鑑定書が……」


 と言って木の札を持ってきた。


「……気の毒だけど騙されたのね。この印章もニセモノだわ。この村はどこの管轄だったかしら? 領主館に訴えた方がいいわよ?」

「……あ、アンタが嘘をついているかもしれねえだろ!」

「それなら領主館に一緒に行きましょうか? 鑑定士に見てもらえればはっきりするでしょう?」


 ケイナさんがまっすぐにおっさんを見る。


「ああもうしょうがねえな……依頼出すか……」


 おっさんががっくりと肩を落とした。店を空けるわけにはいかないので誰かに頼むらしい。でもなんでケイナさんはそのローブに動物の毛が使われてないことがわかったんだろうな。鑑定士がいるって話だからそういう魔法もあるんだろうか。

 心なしか、ケイナさんの顔色が悪くなっているように見えた。


「ケイナさん、大丈夫ですか?」

「……え? ええ、大丈夫です。ヤマダ様は優しいですね」


 テトンさんもケイナさんの顔色に気づいたので、俺たちは一度宿に戻ることにした。

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