96.別の村に着きまして
「くそっ!」
「いてえよーっ!」
視認できる位置までサッと移動し、盗賊たちの足に石をまた当てておく。これでそう簡単には逃げられないだろう。
「夜盗みたいなものですね」
紐を求められたのでテトンさんに渡した。テトンさんとケイナさんが慣れた動きで倒れた者たちを縛り上げた。
「くそっ、殺せっ!」
髭面の男が叫ぶ。え? ここでくっころ? さすがに人を殺すのはなぁ……。
「アンタたち、盗賊なの?」
中川さんが聞いた。
「見りゃわかんだろ!」
「テトンさん、盗賊の扱いってどうするんですか?」
「縛り首ですね」
「ふうん。村も近いのに、なんで盗賊なんかやってるの? 仕事とかしないの?」
「そんなものあるわけねーだろ!」
「今まで人を殺したことってある?」
「あるに決まってんだろ!」
「じゃ、しょうがないか」
そう言って、中川さんは頷いた。
「村から少し離れてますけど、村に連絡したりするものなんですか?」
そしてテトンさんに聞く。もう中川さんは盗賊には興味はなさそうだった。
「そうですね。私が急いで村へ知らせに参りますので、盗賊たちを見張っていていただいてもよろしいでしょうか?」
「わかりました」
放置しておいて逃げられても困るもんな。テトンさんが村の方向へ駆けて行く。そんなに急がなくても大丈夫だと思った。
「お湯でも飲みましょうか」
中川さんが笑顔で言う。俺はペットボトルを出した。
「いてえよー!」
「飲み物ぐらいよこせよー!」
盗賊が何やら叫んでいるがケイナさんも中川さんも完全無視である。どんな事情があっても盗賊には絶対になってはいけないということはよくわかった。一時間もしないうちにテトンさんが走って戻ってきた。お疲れ様である。村には自警団の人たちや冒険者たちがいたらしく、彼らが盗賊をしょっぴいていってくれるようだ。
「捕らえていただきありがとうございます!」
中でも一番偉そうな人に頭を下げられた。中川さんは何か言いたそうな顔をしていたが何も言わなかった。ミコもイタチたちも首に巻きついて沈黙を守っていたから、マフラーみたいに見えたと思う。今の季節はこれから寒くなっていくからいいが、暑い季節になったらどうすればいいかななどと、まだ先のことを考えた。
村に行く予定だとテトンさんが言っておいてくれたらしく、俺たちもすんなり村には入れてもらえた。本当は村に入るのにもお金がかかるが、微々たる額なのでそれはテトンさんたちが立て替えてくれる予定ではあったらしい。でも盗賊を捕まえたのでそれは免除されたという。免除されたのはよかったが、なんだか複雑な気持ちだった。
「山田君、冒険者ギルドに行くんでしょ?」
「あ、うん」
中川さんに笑顔で言われて返事をした。中川さんが強いのか俺が弱いのか。いや、気を使わせてるだけだな。中川さんだって盗賊を見て、人を傷つけてしまったことに葛藤はあるだろう。彼女が大丈夫などとは思わない方がいい。
状況などについてはテトンさんが報告してくれたらしく、俺たちはすぐに解放された。自警団の人に道を聞いて冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの建物は木造で、看板には前面に盾、後ろに斜めで槍や剣が描かれている絵が描かれていた。その前面を見ただけで内心盛り上がってしまった。
扉は大きめで、外側に開くタイプだった。先にテトンさん、ケイナさんに入ってもらい、中川さん、殿に俺だ。村の中でもマップは表示できるようで、今のところ点は黄色だけだ。(うちの仲間を除く)建物の中の点の数もわかるのが不思議だなと思った。
ギルド内は閑散としていた。手前にテーブルと椅子のセットが二つあり、その奥に受付なのだろうカウンターがある。受付でやる気のなさそうな顔をしているおっさんが座っていた。ちょうど冒険者がいない時間なのか、それともいつもこうなのかはわからない。入って左側と右側の壁にボードがあり、そこに紙が何枚か貼り付けられている。それらが依頼のようだった。
テトンさんがやる気なさそうなおっさんの前に立った。
「登録と買い取りを頼みたい」
「買い取りは奥だ。登録するのはアンタか?」
「いえ、こちらの二人です」
「わかった。これに名前と性別、それから歳を書きな。性別は見ればわかるだろとか面倒くさいことは言うなよ」
「はい」
羽ペンを受け取って木を粗く削っただけの板に英単語を思い出しながら書いた。すごく書きづらい。
中川さんの分も一緒に出すと、おっさんは目の前に立てと言った。
「?」
言われた通りにすると、おっさんは目を見開いた。
「……お前たち、角がないな。南の出身か?」
「いいえ? 角はないですけど……」
「気が付いたら森の中にいたの。だからどこの出身かなんて知らないわ」
中川さんがあっけらかんと言った。
「そうか。犯罪歴はないようだからいいだろう」
そう言っておっさんは手のひらを上にして出してきた。テトンさんがその手に茶色の硬貨を十枚ぐらい乗せた。
「登録料、確かにいただいた。これがお前たちの冒険者証だ。再発行にはまた銅貨五枚かかるからなくすなよ。買い取りは奥へ進め」
魔法かなにかなのだろうか。銅っぽい板に名前、性別、年齢とランクが彫られていた。上に穴が空いているので、ここに紐を通してみんな首から下げるなどして使っているのだろうなと思われた。
「ありがとうございます」
礼を言ったらおっさんは面食らったような顔をした。礼とか言われ慣れてなかったのかもしれない。
「随分礼儀正しい坊ちゃんだな」
おっさんが笑った。それにしても、誰でも登録できるとはいえ登録料はそれなりにかかるものだなと思った。ギルドについていろいろ聞きたいとは思ったが、それよりも買い取りだ。奥のカウンターにはメガネをかけたおっさんがヒマそうにしていた。
「ん? なんだ? 買い取りか?」
「はい、ゴートの肉をお願いします」
テトンさんがさらりと言う。
「ゴートだって? 嘘言っちゃあいけねえぞ」
メガネおっさんは笑いながら俺が出した肉の塊を見て、目の色を変えた。
「……ゴートだな」
だからそう言ったじゃん。
「そんな実力者がなんでEなんだ?」
「今日登録したばかりなので」
「そうか……」
メガネおっさんは黙って作業をし始めた。いくらぐらい値がつくのか、とても楽しみだった。
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