86.魔力が多くなるってことはー?

 結論として、でっかいネズミもどきの肉を食べると魔力が上がることがわかった。

 テトンさんは食べ終えた後、風を吹かせるような魔法を使った。


「おお……素晴らしいです……」


 何がどう素晴らしいのかはわからなかったが、うんうんと何度も頷いていたからネズミもどきの肉を食べたことでいいことが起きたのだろう。


「これはすごいことです。魔力量が明らかに増えています……」


 はい、と中川さんが手を上げた。


「魔力が増えると何かいいことが起こるんでしょうか?」


 ムコウさんとその奥さんが何を言ってるんだ? というような顔をした。俺たちの元の世界では魔法も魔力もなかったんだよ。(本当はあったけど俺たちは知らなかったとかそういう話はしない)

 テトンさんは丁寧に説明してくれた。


「魔力が増えると、使用魔力が多い魔法も使えるようになります。攻撃魔法は魔力が多くないと使えませんし、使えたとしても使える回数が少なくなります。今まで食べてきた生き物の中では一番ぐらいに魔力が上がりました。ありがとうございます」

「いえいえ。テトンさんは使いたい魔法とかあるんですか?」


 しみじみ言われてしまったから聞いてみた。


「そうですね。できれば……結界魔法が使えるほどの魔力があるといいですね」


 テトンさんはそう言って遠い目をした。


「……この獣はどこにいるのですか?」

「ここからずっと上です。先ほどもお伝えしましたが、かなりすばしっこいのでなかなか捕まえられませんでした」

「そうですか。いずれ私も倒してみたいものです」


 魔力はなかなか上がるものではないらしい。そう考えると、これ以上テトンさんたちに与えるのも危険だと思った。それにしても、やっぱり結界魔法って魔力を多く使うんだな。中川さんもドラゴンもなんてことなさそうな顔をしているけど。森の魔獣を倒して食べ続けてきた結果、全体的に能力が上がって魔力もそれで多くなっているのだろうと思われた。

 昼の間に少し上に登って木の実をたくさん獲った。なんと栗の木もあった。だからこっちの世界はどうなってんだってばよ。

 椎の実や、ヘーゼルナッツ、クルミについてはケイナさんたちは知っていたらしいが、栗を見るのは初めてだったようだった。あんまり平地では生えないのかなと首を傾げた。


「おかげさまで、冬が越せそうです!」


 ケイナさんたちにとても感謝された。

 夜は俺たちがタケノコとネズミもどきの肉を煮て振舞った。みな初めての食感だったらしく、「コリコリしていておいしいですね?」と言ってくれた。俺と中川さんはもちろんおいしくいただいた。タケノコ好きすぎる。毎日だって食べたい。

 イタチたちのことも紹介した。

 一人一匹ずつ付いてもらうこと。仲良くしてほしいと言ったらムコウさんと奥さんが泡を噴いてぶっ倒れた。イタチは彼らにとっては神聖な生き物なので、一緒に暮らすなどとんでもないという認識だったようだ。


「俺たちはこれからこの国の王都へ向かおうと思っています。何故俺たちが森に現れたのか、その理由はもしかしたら王が知っているかもしれません」

「そういうことでしたら私共をお連れください。きっと役に立ってみせます」


 テトンさんとケイナさんが協力を申し出てくれた。ただ、移動は主にドラゴンの背に乗ってということになるので、乗る為の準備は必要だった。

 イタチたちはムコウさん家族用の三匹は残ることにしたらしいが、テトンさんとケイナさんに二匹付いてきてくれることになった。それについてはテトンさんも恐縮しながらも受け入れた。王城では殊の外イタチを神聖視する傾向にあるらしい。だからイタチと一緒にいれば王が会ってくれるかもしれないと言っていた。

 お土産と称してゴートをみなで狩り、その肉は大量に俺のリュックの中に詰められた。最近俺のリュック、肉しか入ってない気がする。まぁ、みんなが喜んでくれるならいいか。

 昼は狩りをしたり、家の補強をしたりとやることがなにかとあるのがちょっとつらい。

 そんなある日、本当に久しぶりに雨が降った。

 これでは狩りもできないのでみな家の中で過ごした。草を編んで紐を作ったり、木を削ってコップを作ったりと、みな雨だからといって休まないものなのだなと感心した。まだいろいろ揃ってないってのもあるだろうけど。

 昨夜のうちにイタチたちは家の中に入ってきていたらしく、子どもと仲良く遊んでいた。一応屋根と壁の間に隙間があるのだ。そこからするりと入ってきたらしい。子どもはイタチに抱っこさせてもらったりしてご機嫌だった。

 ぼうっと子どもとイタチが戯れいてるところを眺めていたら、ミコがトテトテと近づいてきて俺の鼻の頭を甘噛みした。さすがに注意した。そんなに鋭い歯が沢山あるミコにちょっとでも怪我させられたら、俺の側にはいられなくなるんだぞと言ったらちょっとだけ目を伏せた。反省するのがポーズだとわかっていてもミコはかわいい。ただ、当事者の俺よりも周りの反応の方がすごかった。


「ヤマダ様! 鼻はっ!? 大丈夫ですか!」


 テトンさんが青ざめたまま聞く。


「大丈夫ですよ。今のはミコなりの愛情表現なのだと思います。……怖いですけどね」


 そう言って苦笑してみせた。怖いというのは本音だ。あのギザギザの鋭い歯が怖くない奴なんているのか?


「……本当に齧られてなくてよかったです」


 ケイナさんも胸を撫で下ろしていた。だからうちのイタチたちはどんだけ獰猛なんだっつーの。子どもと遊んでる姿を見る限りはすっごく愛らしいと思うんだけどな。

 そうして俺たちは冬ごもりの準備も平行して、王都へ行く準備をしていた。そうやって、下にある村が今どうなっているか考えないようにしていたのだった。

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