85.調子に乗って狩りすぎました

 山の上で狩るでっかいネズミもどきは本当にすばしっこかった。

 醤油鉄砲は避けられる。石を投げても三回に一回ぐらいしか当たらなかった。(当たれば確実に倒せた)中川さんも冷たい目で矢を連射してようやく狩っているという状況だった。オオカミは運搬要員となっていたのでヤクをせっせとドラゴンの縄張りまで運んでくれた。なんかもう、ごめんなさいと土下座したい心境である。

 んで、全て運び終えて身軽になったオオカミ、戻ってきて今度はでっかいネズミもどきを狩りまくってくれました。さすがはオオカミです。

 おかげさまで全部合わせて十匹も獲れたので、二匹分の内臓はイタチたちのお土産にすることにした。林の辺りでのんびり待っててくれてるからな。今回の狩りにも連れてくればよかったとちょっと後悔した。まぁいい、次に来る時は連れてくることにしよう。

 オオカミにはでっかいネズミもどきの肉を食べてもらって、能力の上がり方はどうか尋ねた。オオカミは首を傾げた。


『……全体的に上がるかんじではないのぅ。身の内の何かが……増えているようじゃ』

「それって、どういうこと?」


 中川さんが首を傾げた。内臓を食べた時は全体的に能力が上がったのがわかったそうだが、肉では能力のうちの一部が上がるような不思議なかんじがするようだ。


「俺たちも食べてみてわかればいいんだけどなぁ……」

「ねえ、山田君。少しぐらいならテトンさんたちに食べさせてもいいんでしょう? だったら少し食べてもらっていろいろ試してもらいましょうよ」

「その方がいいかもしれないな」


 中川さんの提案に同意し、俺たちは解体した肉をリュックに詰め込んでからドラゴンの背に乗せてもらった。この落ち着かないかんじもだんだん慣れてはきている。ここでいろいろなことを試して、準備が整ったらこの国の王都へ向かうつもりだ。中川さんはテトンさんかケイナさんについてきてもらうのが一番いいと言っている。彼らは昔王都に住んでいたようだったから。テトンさんはそれなりの家の出だと思われるので、運がよければ穏便に王に会えるかもしれないと思ったのだ。

 え? 甘いって? そんなのしょーがねーじゃん。戦争を知らない子供たちなんだからさ。

 俺たちにとって戦争というのは遠い過去の話にすぎない。どこかの国でテロが起こったと聞いてもそうなんだとしか思えない。かつて日本でも新興宗教関係者によるテロ行為などがあったらしいが、それらも全て知らない過去の話だった。

 それはともかく、俺たちはまた風になり塩田に着いた。ドダドダドダドダッッ! と走って止まるのはやっぱり締まらないなとか失礼なことは思うのだが、飛行機と一緒かと思うとそういうものかと納得してしまう。

 ヤクはすでにあらかた解体されていた。子どもが嬉しそうに、肉だ肉だと喜びの舞を踊っている。悪いけどヤクの肉はあげられないんだ。


「お疲れ様です。こちらの動物は毛皮を半分いただいてもいいのですよね?」

「はい、お役に立てていただけると幸いです」


 そうお互い確認してでっかいネズミもどきの肉を出した。


「ヤクよりも小柄な、すばしっこい動物がいたので狩ってきました。食べたこともない肉なので、試しに少しずつ食べてみませんか?」

「よろしいのですか?」


 テトンさんが目を輝かせた。


「ええ、能力が上がるようなことはオオカミさんから聞いたのですが、どの能力が上がるのかがわからないんですよ」

「それは面白そうですね」


 そんなわけで、昼飯はでっかいネズミもどきの肉となった。


「わーい、またお肉ー!」


 子どもが喜んでまた踊りまくっている。なんとも楽しそうな眺めだった。ヤクの内臓と、残りのネズミもどきの内臓はここでくつろいでいたイタチたちにも提供した。イタチたちはそれらの内臓がお気に召したらしく、お礼としてなんか持ってきた。


「気にすることないのになぁ」


 イタチたちの為の食料調達とか、義務だと思うし。

 お礼としてイタチたちが持ってきたのは椎の実っぽい木の実に、なんか丸っこい木の実、クルミっぽい実などいろいろだった。

 丸っこい木の実を見て中川さんの目の色が変わった。


「これ、どこで獲ってきたの?」


 とイタチたちにしきりに聞いていた。

 どうやらここからもう少し上に向かうと食べられる木の実をつける木々が沢山あるようだ。あとで見てこようと思った。

 で、ヤクも全て解体してしまい、昼飯用の肉を焼いたらものすごくいい匂いがし始めた。山の上で焼いた時もそうだったが、甘いような不思議な匂いのする肉である。

 毒味は済ませてあるのでとみなでいただいたら、子どもがいきなりぶっ倒れてびっくりした。


「えっ!? 大丈夫?」


 中川さんが一番動揺していた。


「ちょっと失礼」


 ケイナさんが子どもの状態を見た。


「うーん……なんだかよくわからないけど、魔力過多になっているわ。この肉を食べさせるなら大人になってからの方がいいわね」

「だ、大丈夫、ですか?」

「魔力過多ならしばらく休んでいれば治るわ。後は自力でどうにかするでしょう?」


 ケイナさんに言われてほっとした。ムコウさんの奥さんもうんうんと頷いている。


「すみません、よくわからないもの食べさせてしまって」

「いいんだよ。子どもなんてのは、そこらへんに落ちてるもんでも勝手に拾い食いしておっ死んじまうものさ。生きてるだけでめっけもんだ」

「そ、そういうものなんですか……」


 ムコウさんの奥さんはなんてことないように言ってるけど、きっとそれだけ村にいた間は食べ物がなかったのだろう。

 みなで食べた結果、どうも魔力が増えるらしいということがわかった。

 子どもにはまずいけど、魔力だけなら問題ないのかな? と中川さんと首を傾げたのだった。

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