84.更に上まで行ってみる
林に戻ると、いい匂いがしてきた。朝食ができたのだろう。
塩はドラゴンがいくら使ってもかまわないと言っているらしく、とても助かるとケイナさんたちは言っていた。
家から中川さんが出てきた。そして俺をすぐに見つけた。
「あ、山田くーん!」
「おはよう、中川さん」
「おはよー。ごはんできてるよ~。もー、起こしてよねっ!」
「あ、ごめん。あんまり気持ちよさそうに寝てたから……」
俺は頭を掻いた。普段起こしてないから、ここで起こしてと言われてもというかんじだが、基本女性に逆らってはいけないのだ。中川さんの顔が少し赤いけど、大丈夫だろうか。
「中川さん、具合悪かったりとかしない?」
「え? なんで?」
「いや、少し顔赤いから……」
「あー、うん。大丈夫!」
それならいいのだが。
「それより、朝ごはんいただこ?」
「うん」
調理はケイナさんとムコウさんの奥さんだ。起こした方がいい理由を聞いていないから、後で聞こう。朝ごはんは粟粥にゴートの肉と、山芋がコロコロ入っていた。味付けは塩と胡椒かな? おいしくいただけた。
「この、香辛料? ってどこかで採れます?」
テトンさんに聞いたら、少し困ったような顔をされた。
「実は、森に少し分け入ったところに調味料の群生地があるのです」
「ああ……」
となると今は採れないか。困ったなと思いながら水筒を開けたら、今日の調味料はちょうどよく胡椒だった。どういう偶然なんだこれは。ミコが覗き込んできてクシャミをした。ミコのクシャミはかわいかった。
「胡椒でよければお分けしますけど」
と言って中身を竹筒に一部入れた物を渡した。
「そんな……なにからなにまで……」
またテトンさんが恐縮していた。
「ちょっと今日はこれから山の上の方へ行ってきます。毛皮ってまだあった方がいいんですよね?」
「そうね。あればあっただけ助かるわ」
ケイナさんが明るく言った。彼女たちは胡椒を手に入れて純粋に喜んでくれた。喜んでもらえるのが一番である。
獲物を解体したりする関係で、俺はリュックを背負っていく。このリュックさえあれば大概のことはどうにかなる。中川さんはテトンさんたちに弓の調子を見てもらったりしていた。作りも悪くないと言われていた。中川さん、鼻高々である。
「じゃあちょっと行ってきます。肉は期待しないでください」
もうヤクの肉は提供する気がない。食べさせ続けてたいへんなことになってほしくないからだった。
ドラゴンの鱗に掴まって、またドラゴンがドダドダと走ってから飛び上がった。助走をつけるのはいいことだよ、うん。
……もう少し塩を大切にしてほしいなと思ったけどそこは内緒だ。宝石だなんだと言ってた時からそうだったのだからしかたない。浮遊感と共にドラゴンはその場で大きく旋回し、山の上に向かって飛び始めた。
やっぱり雄大な景色だなと思う。今日も下界は雲がいくつもあったので下までは見通せなかった。見通せたとしても村までは見えなかっただろうと思う。ドラゴンはそのままぐんぐん上がっていき、少し平らっぽいところへ降り立った。また車は急に止まれないを実践していた。こんなにドドドドッ! とすごい音がしているのにヤクは気にならないもんなんだろか。
中川さんは弓を、俺は石を振りかぶって、ヤクを都合八頭も狩ってしまった。もちろんドラゴンとオオカミも狩った合計である。
あーってヤツである。
うん、まぁ調子に乗りすぎたな。オオカミの背に二頭ずつ括り付けて先に持っていってもらうよう頼んだ。
「ドラゴンさん素早い動きをする獣って……」
『あれじゃ』
指し示された方を見ると、でっかいネズミっぽい獣が縦横無尽に走り回っていた。
カピバラって確かネズミじゃなかったっけ? でもあんなのどかでかわいいかんじじゃあないな……。
「中川さん、あのなんか跳び回っているのも獲物だって」
「そうなんだ? じゃ、ちょっと狙ってみるねー」
弓に矢をつがえる姿が素敵です。俺もちょうどいい石を拾い、「三、二、一」で投げてみた。
「……おおー」
俺が投げたのは一つも当たらなかった。が、中川さんが射った矢は一頭? に刺さったようだった。
それを回収してみたら、黒っぽい毛皮で、顔がシカみたいなでっかいネズミもどきだった。
「こんな生き物みたことある?」
中川さんに聞いてみたけど彼女も首を傾げた。
「ネズミのでっかいのっていったらカピバラだけど、これはそんなかんじじゃないわねー」
「だな」
「ドラゴンさん、これおいしいの?」
『うむ! うまいぞ!』
「そっか」
そう言われたらもう何頭が狩りたくなった。そして狙うだけ狙って狩った結果、でっかいネズミもどきはそれから三頭獲れた。ちょうどオオカミが戻ってきたので軽く解体して内臓を全部ドラゴン、オオカミ、ミコと中川さんについてきたイタチに提供した。
彼らが食べている間に、俺たちも軽く肉を切って焼いてみることにした。
で、肝心の味はというと。
「……すごく不思議。なんでほんのり甘いの、この肉」
「なんでだろうな?」
とりあえず今はおいしいということだけわかっていれば十分だ。毛皮も念の為取っておくことにし、今日はもう少し狩りを続けることにした。
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