83.暗いところが見えるような魔法はないものか

 ……あまり眠れないかなと思っていたけどそんなことはなかったです。

 暗闇って素晴らしい。ミコと、中川さんに付いてきたイタチが間にいたせいでよく眠れたよ!

 つーかさ、やっぱ暗くなったら寝るのが一番だと思うんだよな~。んで明るくなったら起きる! って、建物の中だから目覚めた時の時間がわかりませんでした。でもうっすらと明るい気がするからやっぱり夜は明けたんだろう。土間の方からカタカタと音がする。朝ごはんの支度をしているのかもしれなかった。

 寝るには暗闇も必要だが、温かさも必要だった。ヤクの毛皮を布団状にしたものを昨夜いただいてしまった。いただいた毛皮で恐縮ですが、と言われたがとんでもない。素晴らしい布団をいただけたと思った。一枚の大きなモコモコの布団である。みんなで川の字になって寝てもすっぽり覆えた。ミコもイタチもぬくぬくだった。ヤクの毛、素晴らしい! ということでまたヤクの毛皮をおすそ分けしておいた。今日はまた狩りに行く予定だ。

 中川さんはまだ気持ちよさそうに眠っている。寝袋だけではやっぱり寒かったのだろう。ヤクの毛皮の布団のおかげか穏やかな表情をしていた。そんな寝顔を見ていて、やっぱり好きだなぁと思った。


「ミコ」


 小さい声だったが、ミコは目を開けた。目覚めていたようだった。中川さんのイタチも目を開けた。


「ちょっと出てくるよ。君は中川さんをよろしく頼む」


 ミコは当たり前のように俺の首に巻きついた。イタチに頼むと頷いたように見えた。


「じゃあ、よろしく」


 そう言って昨日もらっておいたゴートの干し肉を一片あげた。部屋を出てから、あれはかなりしょっぱいんじゃないかと思い出し、まずいことをしたかなと冷汗を掻いた。今度から食べやすい大きさに切った肉をリュックに入れておこうと思った。


「おはようございます。早いですね」


 土間で朝食の支度をしていたのはケイナさんとムコウさんの奥さんだった。


「おはようございます、ヤマダ様。ナカガワ様はまだ?」

「よく寝ているので、朝食まで起こさないでおいてもらえますか」

「あらあら」

「うふふ」


 なんか含み笑いをされた。あんまりよろしくないかんじの笑い方で、なんだろうと思った。


「ヤマダ様はどちらへ?」

「ドラゴンさんとオオカミさんと打ち合わせです」

「わかりました。いってらっしゃいませ」


 見送られるというのもなんかくすぐったいものだ。

 家の外に出ればもうしっかり明るかった。そういえば野宿ばかりで建物の中で寝るなんてことは今までなかったから、ひどく眩しく感じられた。そう、実はこの世界に来てから建物の中で寝たのはこれが初めてなのです。どんだけ野宿慣れしてるんだよ俺、と自分にツッコミが入った。

 オオカミは林と洞窟の間にいた。ドラゴンはまだ出てきていないらしい。


「オオカミさん、おはよう」


 挨拶してシシ肉もどきを出した。森に戻ってからけっこう積極的に魔獣を狩っていたのだ。おかげさまでけっこうストックがある。適当に一包みずつ渡せるぐらいの量はリュックに入れてきたのだった。


『ヤマダはほんに気が利くのぅ』


 オオカミが嬉しそうにバクリと食べる。


「ドラゴンさんはまだ?」

『ああ、呼んで参ろうか。乗れ』

「ありがと」


 オオカミの背に乗せてもらい洞窟の中に入った。真っ暗なのに中が見えるってすごいアドバンテージだよな。暗視の能力っぽい魔法とかってないんだろうか。一応補助魔法を使ったことでバサバサと飛んでいるコウモリ? みたいなのがうっすらと見える気がした。

 オオカミが足を止めた。


『起きよ!』


 そんなに大きい声ではなかったけど、洞窟の中は音が反響するからとても大きく響いた。


『南の! 何の用じゃ!?』

『ヤマダがそなたに用があるそうじゃ』

『おお、ヤマダか』

「ごめん、俺暗いところだとほとんど見えないんだよ。どのへんにいるかってことだけはわかるんだけどさ」


 動いててくれればうっすらとわかる程度だ。


『かようなことを言っておったな。能力を上げていけばおのずと見えるようになろう』

「あー……そういう魔法とかってないのか?」

『……南の、知っているか?』

『我は知らぬ』


 自分たちが見えてたらそんな魔法があったとしても知らないよな。ってことはテトンさんたちも知らないかもなー。ま、ダメ元で聞いてみるか。


「ドラゴンさん、今日どうする? いつ連れてってくれる?」

『そなたたちが決めよ。我はいつでもよい』

「わかった。準備ができたらあとで声かけるよ。邪魔してごめん」

『邪魔ではない』


 ドラゴンにもシシ肉もどきの包みを置いてきた。ドラゴンは見えるわけだから自分で取ってほしい。見えなくて悪いなー。

 オオカミは律儀にもまた洞窟の外まで乗せて行ってくれた。一応魔法で火を出せば自力で戻れないわけじゃないんだけど、自分が戻るついでだと乗せてもらえた。


「ありがとう」


 なんつーか、オオカミって過保護だよな。面倒見がいいから、かつての主もオオカミが大好きだったに違いない。

 後でヤクだけじゃなくて他の獣を狩るの、がんばろう。

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