81.ドラゴンはあまり学ばない
オオカミは俺たちの保護者なので、ちょっとの距離でもすぐに背に乗れと言ってくれる。
実際その方が早いので乗るけど。なんか歩いて三分の距離を車に乗ってる感覚って、言ってもわかるだろうか。それぐらい歩くっていうのに親は車出してくれたりするんだよな。保護者ってそういうものみたいだ。
ありがたいとは思ってるよ?
洞窟の近くにある木々の間隔がそれなりに空いている林で、オオカミは足を止めた。
「ラン様! ヤマダ様、ナカガワ様!」
テトンさんとケイナさんが木と木の間にある建物から出てきた。
「こんにちは、だいたい一週間ぐらいでで戻れたと思うんですけど……」
俺は頭を掻いた。
「はい、お待ちしていました。見てください、家もそれなりにできたんですよ!」
ケイナさんが嬉しそうに家という建物を見せてくれた。あの時は適当に壁を三方に作っただけの建物ともいえない代物だったけど、この一週間程度で建物と呼べるものに変化していた。
ケイナさんの相手は中川さんに頼んで、俺はドラゴンにお土産を渡すことにした。ドラゴンが足を踏み鳴らして待っている。踏み鳴らすのはいいんだけどできれば塩田からずれてほしい。塩が本気でもったいない。
「そんなに狩ってこられなかったからこれだけだけど」
地底湖のサメもどきと、安全地帯で狩ったイノシシもどき、シカもどきの肉をドラゴンの目の前に出した。
『おお! おお! 地底湖の獣か!』
ドラゴンは真っ先にサメもどきの肉をバクリと食べた。うまい物から先に食べるのは獣の証拠なんだってと先日中川さんが言っていた。うん、俺も中川さんも一番うまいところから食べるタイプです。最後まで残しておくとかとんでもない。そんなことをしたら奪われちゃうじゃないかっ。
『……うむ! 我も魚とやらがもっと食いとうなった! そなたら、これから海へ参るぞ!』
「はい?」
「え? どゆこと?」
興奮したドラゴンに俺と中川さん(ケイナさんとの挨拶を終えてこちらに近づいてきていた)は捕まりそうになったけど、ミコがすかさず出てきてまたドラゴンの鼻頭に噛みついた。
『ぎゃあああああ!?』
ドラゴンはずざざっと後ずさった。うん、少し落ち着いた方がいいと思うんだ。
『い、忌々しいイイズナめぇっ……!』
捨て台詞っぽくなってますよ、それ。それにしてもいつでもヤクを狩れるドラゴンを圧倒するミコ。最強はやっぱり貴女だと思います。
「あー、びっくりした。ミコちゃん、ありがとう」
「ミコ、ありがとな」
二人で礼を言ったら満足そうに俺の首に巻きついた。くすぐったいけどあったかくて気持ちがいい。中川さんの側にいたイタチもトトッと中川さんの身体に上り、その首にするりと巻き付いた。
「きゃっ! くすぐったいよ~」
中川さん、めちゃくちゃ嬉しそうです。うんうん、あったかいしかわいいよな。かわいいものと戯れる中川さん、イイ! 俺の鼻の下が伸びてないかどうか心配です。
『……全く……せっかく海まで連れていってやろうと思ったのじゃがのう……』
「ははは……そのうちお願いします。今はまだやらないといけないことがあるので」
『? うまい獲物を狩る以外に大事なことがあるというのか?』
ドラゴンは短絡的らしい。
「ドラゴンさんは宝石が大好きでしょう? 集めるのは大事じゃないですか。俺たちも獲物を狩るのは大事ですけど、他にも大事なことがあるんですよー」
『そういうものか』
宝物を集める趣味と一緒にしたら納得したようだった。ドラゴンよ、性格はとても好ましいけど誰かに騙されないか俺は心配だよ。絶対丸めこまれて宝物とか奪われそう。
そんな話をしながらドラゴンは俺が出した肉をすっかり平らげた。おいしく食べてくれてよかったよかった。
「あ、そうだ。ドラゴンさん、山の上の動物は狩りに行ってる?」
『いや? そなたたちが戻ってきてから狩りに行こうと思っていたのでな』
それは助かる。やっぱりあまりテトンさんたちはここに置いておくのは危険だ。ドラゴンは面倒見がいいからヤクの肉を彼らに惜しみなくあげてしまうに違いない。それで彼らが過ぎた能力を身に着けてしまうことが危険だ。下手したら死んでしまうから。自分の上がりすぎた能力によって。
「あ、そうなんだ。じゃあ明日にでも付き合ってもらえます? 俺もヤクの肉食いたいし」
『うむ! いくらでも連れて行ってやるぞ!』
ドラゴンが嬉しそうに返事をした。見た目はこんなにでかくてカッコイイのにまるでワンコだなと苦笑した。
俺のめちゃくちゃな敬語とか丁寧語? 気が付いたらタメ語になってしまう口調でも怒らないでくれるんだから彼らは優しいと思う。
「明日、お願いします」
一応釘を刺して、テトンさんのところへ戻った。ちなみにオオカミは洞窟の側で寝そべっています。今日のお仕事は一応終りなのでヤクの肉の残りを渡しておいた。で、テトンさんたちにはイノシシもどきとシカもどきの肉を差し入れした。
「お気遣いいただいて……本当にどうお返しをしたらいいのか」
テトンさんは相変わらずひどく恐縮していた。
「そんなこといいんですよー。それよりここの暮らしはどうですか? 不自由とかありません?」
中川さんが明るく聞く。ケイナさんとムコウさんの奥さんはぶんぶんと否定するように首を振った。不満もないらしくてよかった。
「実は、少し山を下りてゴートを二頭狩ったんです。干し肉を作り始めているのですが、如何ですか? こちらの塩と、森で採取していた香辛料で味をつけたんです」
「はい、いただきます」
中川さんとまだ柔らかめの干し肉をいただいた。家の中に肉が干してあるってなんか不思議な感覚だな。軒先に干し柿が吊るしてあるのは見たことがあるけど。
「あ、思ったより柔らかい……」
「まだ数日しか経っていないので、食べやすいと思いますよ」
ケイナさんがにこにこしながら教えてくれた。そうして、ここ一週間何をしていたか聞かせてもらったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます