山の上に戻ってきた
80.山の上に向かってみる
注:月経についての描写が少しだけあります。
ーーーーー
今回はどこにも寄らず、一路ドラゴンの縄張りまで駆けてもらうことになっている。
それでほぼ一週間というところだろう。一日二日ずれているかもしれないがそこは勘弁してほしかった。
今頃になって気づいたけど一週間て概念はあるんだな。本当にこの世界はなんなんだろう。やたらめったら広い森とか、ありえないぐらい高い山とか、西の山の向こうにあるっていう海とか。そして森と山脈によって南北に分けられた国々。森を抜けるならばもしかしたら二か月ぐらいで辿り着けるかもしれない隣国だが、山脈は高すぎて登って越えることはできず、山脈が途切れるところまで向かうには非常に遠い。ならば海を越えようとしてもものすごく時間がかかるという。
……なんつーか、これって意図的に国を分けられていませんかねぇ?
オマエラもうお互いに関わるんじゃねえぞって。でも王が代替わりとかするといろいろ変わっちゃうものなんだろうな。実務を行うのは下の者とはいえ、トップの意向は無視できないもんな。どこもかしこも世知辛い。
そんなことを考えている間にオオカミはすごいスピードで森を抜けた。
大地との境近くにきたらしい時『目を閉じよ』とオオカミに言われたけど、俺はまた閉じなかった。兵士が何人も倒れていた。それもいろいろな部位が欠損した姿で。
この兵士たちはもう一か月以上もここにいるはずだ。森の浅いところまでしか入ることができないのに果敢に入ろうとしては魔獣たちに殺されている。いくら王が命じたからといってこれはめちゃくちゃだ。どうして誰も止めないのだろうと俺は泣きたくなった。
この国の王はいったい、何を考えているのだろうか。
魔獣は森の意思に従って、攻めてくる兵士たちを屠っている。兵士たちにはいったい、どんな大義があるというのだろう。
オオカミは森を抜け、進路を東に取った。オオカミに気づいた兵士たちが剣を片手に突っ込んでこようとしたが、オオカミに蹴散らされて追いかけてくることもできなかった。
オオカミはやがて山を駆け上り始める。あの村は今どうなっているのか、少しだけ気になったがそんなことよりもテトンさんたちの方が心配だった。
ゴートの姿が見えたがオオカミは無視して駆け上ってくれた。
朝早くにワニの縄張りを出て、ドラゴンの縄張りである塩田に着いたのは夕方だった。それでもものすごいスピードで駆けてくれたのはわかっていたから、オオカミの背を下りてからすぐにヤクの肉を進呈した。
『うむ! そなたは気が利くのぉ』
ヤクの肉は大歓迎される。一頭を倒すとかなりの量の肉が取れるので俺もほくほくだ。
『しかし臓腑だけは狩った時でないと食べられぬのぅ。そなたらが食わぬのは助かるが』
「内臓は……それほど食べたくないかなー」
中川さんが苦笑する。
「俺もそれほど好きじゃないから、ミコたちと食べてくれればいいよ」
『臓腑を食らった方が力は増えるがのぅ』
「たぶんそうなんだろうなってことはわかるけどなぁ。ああでも、レバーは少しほしいかもなー」
あれだけ肉食ってるから俺は血が足りなくなることはないだろうけど、女の子は別だ。中川さんは念の為生理用品は持ってきていたらしいがかなり大事に使っていたようだ。俺に会えたことで生理用品がなくなることは回避できた。それに、環境の変化などで最初の二か月は生理がこなかったそうだ。そういえばストレスとかで早まったり遅くなったりすると聞いたことがある。ちなみにこの月経の知識は母からだ。
女性の身体は男とは違った意味でたいへんなのだと教え込まれた。だからヤりたい盛りで、もし女の子とそういうことになれたとしても必ずコンドームは使うこと。女性の身体に配慮することなど厳命された。
え? そんな教えをしっかり守っているのかって?
そんな機会はまだ一度もねえよ、ちくしょう!
……リュックの底の方にあるパッケージは見つけてかなり狼狽えたけどな。だからうちの親は俺にいったい何をさせようと(以下略
「中川さん、レバーだったら食べられそう?」
「う、うーん……でも食べた方がいいかなー……」
中川さんは首を傾げ傾げ考えるように言った。
「俺の分も食べちゃっていいからさ」
「……うん、ありがとう」
ほんのりと赤く染まる頬を見て、やっぱ好きだなーと思った。女性には優しく、大切にが基本です。
ドスドスドスドスッ! と足音が響いてきた。
ドラゴン、その足元の塩の結晶は……。
『おお、また来たのか! 今度は何を持ってきたのだ?』
塩田の手前で待っていたら、出迎えてくれたのはドラゴンだった。まぁ誰が来たかわからないのにテトンさんたちが出てくるのは危険だよな。まずここに辿り着くこと自体がたいへんなわけだし。
「えっと……シカもどきと……あと、地底湖の獣を……」
『地底湖の獣じゃとおおおおお!?』
中川さんが耳を塞いだ。俺もその咆哮のごとき声に耳を塞いだ。ミコが俺の上着の内ポケットから顔を出したかと思うと、そのまま俺の肩に登りぴょーんと飛んだ。
『ぎゃあああああ!?』
ミコさん、うるさいからって鼻を攻撃したのはいいんですがもっとうるさくなってますよ?
ミコが戻ってきて俺の肩に登った。ドラゴンが鼻を押さえて涙目になっている。
「ミコ、いじめちゃだめだろ?」
キュウとミコが鳴いた。
『……イイズナの主よ。頼むからイイズナたちをどうにかしてくれぬか?』
ドラゴンに言われて肩を竦めた。
「ごめんな」
さすがに人を攻撃するのは許してないが、相手はドラゴンだしな。
『ふん……まぁよい。着いて参れ』
「ありがとう」
礼を言ってドラゴンの後に続いた。やっぱり塩田を気にせず踏んでいる。調味料は潤沢に持ってはいるが、やっぱりもったいないなと思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます