68.簡易拠点を作ろうと思います
水晶が沢山ある場所にはケイナさんがドラゴンを案内することになった。
けれど徒歩で案内するとなったらたいへんだし、かといってケイナさん一人ではドラゴンに乗ることはできない。そんなわけで中川さんの身体にケイナさんを縛り付け、中川さんがドラゴンの背にしがみついて向かうことになった。
「ちょっと揺れるかもしれないけど我慢してくださいね~」
中川さんはケイナさんを背負ったままひょいっとドラゴンの背に乗った。一応ドラゴンのおなかの辺りに縄を通してそれを持つ形にはした。何かあって振り落とされたりしたらたいへんだからだ。さすがにテトンさんとムコウさんたちもハラハラしているようだった。
「ロン様、ナカガワ様、どうか……よろしくお願いします」
『任せよ』
「はーい!」
テトンさんが悲壮な表情でドラゴンに頼んだ。”ロン様”というのはドラゴンを呼ぶ時の敬称らしい。言葉を話すオオカミを呼ぶ時は”ラン様”だと教えてもらった。俺たちは今更呼び方を変える気にはなれないので、ドラゴンさん、オオカミさんのままだ。それでも彼らはかまわないというのだから通させてもらった。
この辺りの村ではそんな敬称自体知らないという話なので問題はなかったが、王都の方へ行くとその呼び方が必要になってくるとテトンさんは教えてくれた。
実はテトンさんてかなりいいとこの家の人なんじゃないか? と思えてきた。
どっかの貴族の三男坊とかそんなかんじなのかな?
彼女たちが出かけている間、俺たちは洞窟の上の方から枯れた木や枝を集めてきてとりあえず建物を作ることにした。
なんで洞窟の入口付近に住まないのかって? ドラゴンの通り道だから朝踏みつぶされる危険と紙一重だからだよ。横穴はみんなネズミとかコウモリの巣らしいし。
一応ナタとノコギリはある。木と木を縛る為の紐などは木の皮や草を編んで作り、まずは支柱をいくつも建てて屋根を設置した。これだけでも上からの冷気は防げるだろう。洞窟の側の木々の間を利用して居住空間を作る。草を焼いて(火魔法ホント便利。範囲指定ができるとかどんなチートだ)サラ地にしたところに板代わりの木を渡し、靴を脱いでも座れるようにする。それだけでもテトンさんたちはほっとしたような顔を見せた。
一番たいへんなのは壁を作ることだ。
「今更なんですけど、この国って季節はあるんですか?」
「ありますよ。今は秋です」
四季があることは確認したけど森はどうなんだろうな?
「あー……ちょうど収穫の時期ですか」
そうなると徴税とか行われることになるんだろうか。そうしたら森の側にいた人たちはどういう扱いになるんだろう。
「森の側に住んでいた方々はみなこの辺りの村に移動したんですか?」
「王都に親戚がいる者はそちらを頼って行きましたね。私たちは最初西の村を頼ったのですが、そんなに受け入れられないと言われてこの山の麓まで来たのです。ですから、迷惑をかけていたことは間違いないんです」
「だったら、結果的に村を出てよかったじゃないですか」
「そうですね。こちらでも御厄介になりますが……あとは自力で獣を獲れるようになれば暮らしていけそうです」
テトンさんは寂しそうな笑みを浮かべた。壁を一方向に軽く設置したところで、ドラゴンが戻ってきた。
『素晴らしい! 素晴らしいぞおおお!!』
中川さんたちを下ろした後、ドラゴンは興奮したように足を踏み鳴らした。ああ、塩が……。
「ドラゴンさん、どうしたんだ?」
「水晶がいっぱいある洞窟みたいなところがあるってケイナさんが言っていたじゃない? そこに連れていったらもう……」
洞窟といってもそれほどの大きさはなく、ドラゴンがかろうじて入れるぐらいで、しかも2mほどで途切れているらしい。洞窟、というより洞穴というかんじだったそうだ。ドラゴンはそこに何人も入れないよう魔法をかけ、意気揚々と戻ってきたようだった。
「それってどんな魔法なワケ?」
「私、教えてもらったわよ。結界魔法ですって。ケイナさんは継承できなかったみたい」
「そういうこともあるんだ?」
「魔法は必ずしも継承されるとは限らないのです。結界魔法は大量の魔力を使いますから、もし継承されたとしても私たちでは発動もできないでしょう」
テトンさんが教えてくれた。やっぱりテトンさんて普通の狩人じゃないな。
とりあえずお昼にしようと、火を出してごはんを作ることにした。せっかくなので水筒を出す。中川さんとミコが途端に顔を出した。
「今日はなんだろうな~?」
開けてみたら茶色というか黒というかドロッとしている。
「ソースかっ!」
「えっ、何ソース?」
中川さんが味見をする。
「デミグラスソースだわ、これっ!」
シチューでも作れというのか。ヤクの肉って煮込んだらうまそうだよな~。
「ケイナさん、野菜っ、探しにいきましょう!」
中川さんはさっそくケイナさんともう一方の手を取り、木々の間を駆けて行った。
「この辺だと、どんなのが採れるのかな……」
はははと笑っていたら、中川さんはでっかい自然薯のようなものを掘り当ててきた。
「見て見てー! 山芋よ! いっぱい生えてるところを見つけたわ!」
そういうのって集中して生えるものなのか? 異世界ってわからないなと思った。
「山芋ってそのまま使ったら手とかかぶれるんじゃなかったっけ?」
洞窟の中から水を汲んできたりいろいろして、皮を剥いてヤクの肉と共にデミグラスソースで煮込んだ。
……すっげえうまかった。
「こ、こんなうまいものが食べられるなんてっ!」
みな感動していた。
「えーと、この料理は今日だけなんで……期待はしないでください」
ドラゴン、オオカミ、ミコはそれぞれ肉の塊を食べている。ドラゴンは食べ溜めのようなことができるとは言っていたが、みんなが食べているのに食べないというのは寂しいのだそうだ。だからゴートの肉を出した。(ドラゴン用のヤクの肉は全部平らげてしまったらしい)オオカミとミコにはヤクの肉である。
みんなでごはんを食べると特においしいなぁと思ったのだった。
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