55.きっとまた会えるはず
時間はよくわからなかったけど、暗いとなんとなく眠くなってしまうので夕飯を食べることにした。
ドラゴンが出してくれている火をもう少し大きくしてもらい、飯盒でごはんを炊いたり(笹の葉と一緒に炊いた)、また肉を焼いて食べたりした。ヤクの肉がたまらなくおいしい。ドラゴンがふと俺たちの食べている様子を見た。
『それはなんじゃ?』
ドラゴンに聞かれて、今かけている調味料のことかと気づいた。そういえば昼は夢中になって食べてたもんな。
「これは調味料です。肉に少しつけてみますか?」
ミコにはまた皿にチーズクリームを出してあげている。肉は塊のままでいいそうだ。この小さい身体のどこにそんなに入るのかといつもびっくりしてしまう。ミコは器用にかみちぎった肉をチーズクリームにつけておいしそうに食べている。
『う、うむ……』
ドラゴンが食べている肉に近づいて、「かけますよ」と声をかけてからほんの少しだけ垂らした。それをドラゴンがおそるおそる食べる。こんな図体のでかいドラゴンが調味料一つでこんな反応をするなんて面白いなと思った。
『ふむ……悪くはない。まだあるのか?』
「少しはあります。もう少しだけかけますか?」
『うむ、かけよ』
「じゃあ、これだけですけど。俺たちの分がなくなっちゃうので」
『そうじゃな……しかし不思議な味じゃのう。これはなんじゃ?』
俺は中川さんの方を向いた。チーズと言ってわかるものなんだろうか。一応言うだけ言ってみよう。
「これはチーズクリームです」
『ちーず、とはなんじゃ?』
ドラゴンは知らないらしい。ええと、どう説明したらいいんだろうな。
「さっきのヤクみたいな動物の乳を、特別な方法で固めたものです」
『乳が原料なのか。面白いものよのぅ』
ドラゴンはご機嫌で食べてくれた。気に入ってくれたならよかったと思う。ミコはまた毛を汚してしまったようなので洗浄魔法の刑に処した。途端に不機嫌になったので、ポテチを出してあげたらオオカミも近寄ってきて取っていった。全くちゃっかりしてるよな。
それにしても洗浄魔法は便利だと思う。実のところ便や尿などもなくしてくれるようだ。つか魔法で洗浄したものはいったいどこへ行くんだろうか。気にしたら負けだとも思った。
さすがに冷えるので火が絶やせない。おやすみなさいとドラゴンたちに挨拶して、俺たちは火の側で寝た。今日もいろんなことがあった。明日こそは麓の村へ行こう。テトンにいろいろ話を聞きたいと思った。
翌朝、というのか、暗くて全然時間がわからないのだがよく寝たと思う。すぐ側にオオカミとドラゴンという庇護者がいたことがよかったのか、俺も中川さんもよく眠れたようだった。
「暗いのはいいと思うんだけど、やっぱり野宿は落ち着かないのよね」
「だね」
女性は特にたいへんだと思う。ドラゴンが火は絶やさないでいてくれたからそれなりに暖かく寝ることができた。感謝、感謝である。
『行くのか』
「はい、まだ行かなければいけないところもあるので」
ドラゴンが残念そうに聞いてきた。俺はそれに即答した。正直一泊ぐらいならいいがずっとここに住むのは勘弁してもらいたい。つか、ここに定住するって選択肢はないな。多分中川さんもそうだろう。あ、でも冬とかだったら洞窟の方が暖かいのだろうか。
そうだ、四季があるかどうかも聞いてない。それも聞かなければいけないだろう。
『もし……我が手伝えることがあればまた来るがよい』
「ありがとうございます。またその時は寄らせていただきますね」
ドラゴンさんの飛行能力は貴重だ。この辺りの山の四座と森の上空、そして人間が住む範囲なら飛べると言っていた。ということは南の国にも北の国にも向かうことができるということだろう。オオカミの走る能力も素晴らしいが、やはり空を飛んだ方が早いはずだ。だけど昨日のように鱗に掴まってというのは勘弁してほしい。鱗はかなり強く、相当力を加えても取れそうもないからあの鱗に何かを引っかけて少しでも乗りやすくしないと長時間は無理そうだった。
「ドラゴンさん、あの……今日ではないんですけど、もし北の国の王都とか、南の国に連れて行ってほしいと頼んだ時背に乗せてもらうことは可能ですか?」
中川さんが聞く。考えていることは同じだった。
『乗せていくのはかまわぬ。ただし昨日ほど短い距離ではないから、振り落とさぬ保証はない』
「ですよねー……」
大きめの布か長い紐などがあれば、ドラゴンに許可をとって首に回して俺たちの支えにさせてもらうことはできないだろうか。今のところ具体的な案もないのでこうしてほしいなどとは言えないが、乗せて行ってもらう際の支えなどはこちらで考えることにした。
朝ごはんにまた肉を焼き、俺のお弁当箱からおにぎりとゆで卵を出して食べた。ミコにはサバ缶を出したらドラゴンが興味津々だった。そしてまたミコに怒られていた。ミコさん強すぎます。素敵です。
一晩ぶりの外は非常に眩しかった。光に慣れるまで下を向いてなかったらきっと目が潰れていたに違いない。
そうして俺たちはドラゴンのいる場所から辞した。
ヤクの肉は一頭から獲れる肉の量が多かったのでまだまだある。
「オオカミさん、またよろしくお願いします。ちょっと麓の村に寄りたいんですがいいですか?」
『かまわぬ』
オオカミが即答してくれてほっとした。そしてオオカミに乗って下界を目指す。麓に向かうにつれ、空気がなんとなく濃くなっているようなかんじがした。そして、麓の村の近くで足を止めてもらった。
「やっと下りてきたわね」
「だなー。この山ってああいう洞窟みたいなのけっこうあるのかな」
「ちょっとした洞窟があったら住処とかにできるかしら?」
「住みやすい場所だったら先客がいるんじゃないかな」
「それもそうね~」
聞きたいことがたくさんあるが、メモをしているわけではないので漏れがあるかもしれない。でもミコが神の使いっていうのはどういうことなのかとか、ドラゴンさんの立ち位置とか聞いてみたかった。
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