54.宝だと思えば宝なんじゃないかな

 火魔法をもらったはいいけど、あんまり火を使っていると酸欠になったりしないのだろうか。

 中川さんが確認したところここは相当広いから、これぐらいの火ならばずっと出していても問題はなさそうだが。


「この火って個人の魔力準拠なんですよね? ドラゴンさんだとどれぐらい長く維持できるものですか?」

『この程度の火であれば何日出し続けても問題はないぞ』


 ドラゴンさんは得意げに胸を張った。


「そっか。やっぱりドラゴンさんはすごいですね」

『そうじゃろうそうじゃろう! もっと褒めよ! 讃えよ!』


 横穴はやめておけと言われたので、とりあえずこの広間のような場所を中川さんと回ってみることにした。少し奥にいくと湧き水が出ているところがあった。それが川のようになって別の横穴に続いている。


「この水って飲めるのかな?」

「水に洗浄魔法って効くんだろうか」


 中川さんが首を傾げた。洗浄魔法はどうなのかと思って提案してみる。


「人体に有害な成分だけ除去するイメージでかけてみる?」

『その水は普通に飲めるはずじゃ。その水は下の沢に続いている。人間が普通に使っているようじゃぞ』


 ドラゴンが教えてくれた。


「ありがとうございます」


 さすがに生水を飲むのは気が進まないので、沸騰させて使うことにした。それからも足元を気にしながら洞窟の中を歩く。どうもドラゴンが寝床にしている広間は端から端まで30分ぐらいの距離だということがわかった。どんだけ広いんだっつーの。


「ドラゴンさん、この中って飛べる?」

『飛べないことはないが飛びたくはないのぅ』


 ドラゴンは無理はしなかった。オオカミの方が、『どれ、上ってやろうか』と言ってくれた。

 申し出はありがたかったが、背中から落ちて死ぬのは勘弁したいと思ったので丁重にお断りした。だって空を飛ぶよりも絶対変則的に跳ぶことになるだろ? 俺はまだ命が惜しい。


「ドラゴンさんはいつもここで何をしているの?」

『宝石の守りじゃ。じゃがのう……あれらは宝石ではなかったのだったか……』


 中川さんの問いに答えたドラゴンは少し寂しそうだった。


「でもこの奥にドラゴンさんの宝があるんだよね? それを守っていけばいいんじゃないかな」

『そうじゃのう……』


 なんの慰めにもならなかった。

 なにか、ドラゴンさんが喜ぶような物を俺たちは持っていないだろうか。中川さんははっとしたようにポーチを出した。今日はまだ特にごみになるようなものはなかったので入れていない。だから昨日入れたごみがどうなったのか確認もしていなかったようだった。

 中川さんのポーチもまた不思議なものだ。そのポーチにごみを入れると翌日には消えている。それだけではなくたまにオマケのような物が手に入ることがあるのだ。それはもちろん毎日ではなく時々なのだが。

 中川さんはポーチの中に手を入れた。


「なにか、あるわ……」

「何?」


 中川さんが取りだしたのはいびつな形の石だった。黒くてそれなりに大きい。


「こんなの捨てた覚えがないから……オマケなのかしら? でもなにかしらね、この石……」


 火にかざしてみたがキラキラ光るかんじではない。ということは宝石ではないのだろう。でもよく見ると火にかざしたところが少し透けて見える。


「もしかして……黒曜石?」

「矢じりにでもしろってことかしら?」


 脆いが確か割ると鋭い切断面になるからナイフとか矢じりの代わりにはなる。二人でじっと見ていたらドラゴンさんがぬっと顔を出した。途端にミコがキイイイイイッッ! と鋭い声を出した。

 ドダドダドダドダッッ!! と情けない音を立ててドラゴンは逃げて行った。俺はミコを撫でた。


「ミコ、ドラゴンさんを脅かしちゃだめだろう。ドラゴンさん、すみません」


 俺も耳が痛いっての。オオカミがクックックッと楽しそうに笑っていた。


『ふ、ふんっ! そ、そのイイズナにはよく言い聞かせておけっ! で、その石はなんじゃ?』

「たぶん黒曜石ではないかと思うんですが、洞窟を出てみないと確認ができません」

『黒曜石とはなんじゃ?』

「火山岩の一種です。ガラスみたいな光沢がある石で、すごく脆いんですが、割るとナイフとか、矢じりには使えますよー」


 中川さんが説明してくれた。


『宝石ではないのか……』

「塩の結晶ほど脆くはないですし、貴重な石といえば貴重な石です。ドラゴンさんがほしければ差し上げます』

『よ、よいのか!? 貴重な石ではないのか!?』

「貴重ではありますけど、今の私たちにはそれほど必要だとは思えないので……」


 ナイフって話なら十徳ナイフもあるし、醤油さえあえば矢じりもいらないしな。中川さんが俺をちら、と見た。俺は頷く。どちらにせよ中川さんのポーチから出てきたものだ。俺に所有権はない。


『そなたがいらぬと言うのであれば置いていくがいい』

「はい。置いていきますね」


 中川さんは黒曜石をドラゴンの前に置いた。ドラゴンはそれを大事そうに取ると、


『いらぬというのならばしかたない。せっかくだから我の宝物の中に入れておいてやろう』


 と言っていそいそと宝物が置いてあるという穴に入っていった。尾が嬉しそうにぶんぶん振られているのがわかる。中川さんが俺を見てニコッと笑った。ドラゴンがこれで気分を上げてくれればいいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る