53.洞窟の中は真っ暗(当たり前だ)

 こんな洞窟の奥で火を使っても大丈夫なんだろうかと思ったが、実のところドラゴンの寝床はとても広かった。天井を見上げて何mあるのかわからないぐらいだった。ここなら飛べるんじゃないかなと思う高さと広さを兼ね備えている場所だったのだ。



 さて、洞窟である。もちろん明かりなんて気の利いたものはない。入口付近ならば外の光が入ってくるが、10mも進めば暗闇の中だ。


「えーっと、俺らはなんも見えないから松明とか作ってきていいかな」


 さすがに足元が怪しくて危ない。


『おお、人間は暗い場所では目が見えないのじゃったか』


 ドラゴンが今気づいたように言った。ってことは普通にドラゴンは見えてるわけだな。


『我に乗れ。ついた場所で火を起こせばよかろう』


 確かにその方が楽だと思い、俺たちはお言葉に甘えてオオカミの背に乗った。オオカミも見えているらしい。羨ましいことだ。


「……山田君、これ……」


 しばらく進んでいくと、何故かところどころ壁が発光している場所があり、中に入っていけばいくほど光る壁の面積が増えてきた。


「え? これ、なんだ?」


 それは薄っすらとした淡い黄色い光で、あるアニメ映画を髣髴とさせた。あの映画だと青っぽい光だったか。


「ドラゴンさん、この光ってるの何?」

『さぁのう? 生きているものだというのはわかるが、我にはわからぬ』


 生きているものってことは有機物ってことかな。ってことはヒカリコケみたいなものなんだろうか。でもこんな闇の中に光なんてあるのだろうか。そんな取り留めもないことを考えているうちに、


『着いたぞ。ここだ』


 ドラゴンさんの寝床についたようだった。ドラゴンさんが寝床にしている場所はあまり光が見えなかった。ヒカリコケがないのか、それともそれが見えないぐらい広いのかどっちなんだろう。

 オオカミにくっついて乗っていた時はあまり感じなかったが空気がかなりひんやりしている。このままずっとここにいたら風邪を引きそうだ。


「ありがとうございます。火を熾してもいいですか?」

『好きにするがいい』

「ではお言葉に甘えて……」


 とりあえず周囲を確認する為ライターをつけた。うん、まるで見えないな。


「あれ? 山田君て懐中電灯とか持ってきてないの?」


 中川さんに聞かれてはっとした。そういえば暗い時間になったらもう寝ていたから懐中電灯は必要なかったのですっかり忘れていた。そう、懐中電灯は持ってきていなかったのだ。


「泊るとか考えてなかったから持ってきてなかったんだよな……」


 だって山登りするだけのつもりだったし。そういえば親がしきりに持っていけと言っていたような気がする。俺はどこに行くんだよ! と反論して受け取らなかった。今更ながら親には悪いことをしたなと思った。


「そっかー」


 つか、まさか異世界トリップして三か月以上もこっちにいるなんて誰が予想できるというんだ。

 中川さんの懐中電灯は額に付けるタイプだった。


「じゃあ火を熾してもらってもいい? 私が周囲を観察するから」

「OK」


 というわけでおがくずや新聞紙を出して火をつけた。森や林の中ではないから乾いた木なんて都合のいいものはない。


「この火って維持できないかなぁ……」


 これじゃ煮炊きをする前に消えてしまいそうだ。かなり冷えてる場所なのに温かいものが食べられないのはつらい。


『なんじゃ、火を保てばいいのか?』

「はい」


 ドラゴンに聞かれて返事をする。


『かようなこと、造作もない』


 ドラゴンはそう言うと、赤っぽい火を出した。それを今燃えている火と一緒にする。


『この火は我が消えるよう念じねば消えぬ』


 ドラゴンは得意そうに言った。俺はそっと火に手をかざした。うん、熱もある。これは魔法の火なのだろう。


「ドラゴンさん、ありがとう。ついでにこの魔法を教えてくれないか?」


 燃やす材料がなくても火を維持できるというのは素晴らしい。きっと魔力が続く限りこの火は燃え続けるんだろう。

 中川さんは頭をあっちに向けたりこっちに向けたりして周囲を観察しているようだった。そして、


「山田君、すごいよここ! ものすごく広いよ!」


 と興奮したように叫んだ。中川さんは探検もしたい人だったみたいだから余計に嬉しそうだった。


「ドラゴンさん、この先には何かあるの?」


 中川さんが洞窟の先に続いているような横穴を見つけて指をさした。


『そこは我の宝物が詰まっておる。決して近づくでないぞ!』

「あ、そうなんだね。わかったー」


 中川さんは天井とか、いろんなところへ懐中電灯を向け、その広さにきゃあきゃあはしゃいでいた。


「ドラゴンさん、魔法」


 改めて言うと『肉をよこせ』と言われたので更にヤク?の肉を渡した。


『では継承してやろう。ちこう寄れ』


 なんかその言い方が悪代官っぽくて笑ってしまった。近づいたらあーれー? という状況にはとてもなりそうにない。

 ドラゴンの前に立つと、ドラゴンから見えない何かが飛んできたような気がした。


『継承した。確認せよ』

「ありがとうございます」


 確認すると確かに火魔法があった。一瞬だけ出すこともできるし、出した火の大きさを調整したり、魔力が続く限りはずっと点けておくこともできるようである。そして熱があったことから、これで煮炊きができることは間違いなかった。

 というわけでさっそくお湯を作ることにした。


「あれ? ここって燃えるものないけど随分火がもってるわね」

「ドラゴンさんに火魔法を教えてもらったんだ」

「ええ!? 私も教えてほしい!」


 中川さんはそうして、ドラゴンに肉を渡し、彼女も火魔法を手に入れた。そういえば水魔法みたいなのってあるのかなと考えたけど、きっとドラゴンは使えないのだろう。だって湧き水があるところまで駆けてったぐらいだし。

 水魔法、誰か持ってる人いないかなと思った。




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パラパパーッ! 火魔法も手に入れた!

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