48.ドラゴンさんに会いに来た

 オオカミは風のようなスピードで駆けていた。

 林を出て森の側を走り抜け、そして山へと登っていく。

 今日は山の麓の村には行かないからこのルートで合っているのだろうが、いったいどこまで登るのだろうか。寒くならないようにと余分に上着も着ているが、なんかけっこう触れる空気が冷たくなってきているように思える。つーか、今なんか霧の中に突っ込まなかったか? その霧の中を走り抜ける。

 オオカミは全く俺たちのことを気にすることなく走り続け、ようやく足を止めた。

 ほぼ休みなく山の上まで走り続けられるっていったいどんな身体能力だよ? もちろん補助魔法も使っていることはわかってるけどさ。


『着いたぞ』


 オオカミの唸るような声にようやく顔を上げ、周りを見た。なんというか、一面、白かった。

 それほど寒いわけではないからそれらは雪ではないのだろう。なんかぼこぼこしてるのを見て、もしかしてこれが塩の塊かと当たりをつけた。


『……南の、何をしにきた』


 グルルル……と唸るような音と共に、ひどく低い声が届いた。

 うわ、これって即敵対フラグってやつでは? と冷汗をかいた。声のした方向を見れば、百人が百人共思い浮かべるような西洋系のドラゴンがいた。頭の上に長い角が二本ある。鱗全体が赤いし、プテラノドンのような大きな羽も背中にある。もちろん身体もでかい。

 うわー、ドラゴンの本物なんて初めて見たよー。


『東のの主とイイズナの主がそなたを見たいと言うので連れてきたまでよ』


 東のってのはヘビか。ミコが俺の上着の内ポケットから出て、俺の頭の上に乗った。


「ミコ?」


 キイイイイイイッッ!

 そして何故かドラゴンに対して威嚇するような声を上げた。俺と中川さんは慌てた。


「ミコッ!? なんで威嚇なんてっ!?」

「ミコちゃんっ!?」


 ドラゴンが怒って襲い掛かって来るのではないかと思ったのだが、実際は違った。


「……え?」


 なんど、ドラゴンは後ずさり、太くて長い尻尾を腹の下にしまったのだ。


「えええ?」


 何が起きたんだろう。


『イイズナよ、そう怯えさせるな』

「えええ?」


 ミコが怯えるというならともかく、ドラゴンがミコに怯えるって何? ミコってそういえばテトンが神の使いみたいなこと言ってたけどそういうことなわけ? ?が大量に浮かんだ。中川さんも目を白黒させている。


「……いろいろツッコミどころは多いんだけど……ドラゴンさん? 初めまして、こんにちは」

「初めまして、こんにちは」


 とりあえず挨拶は基本なので中川さんと挨拶をした。ドラゴンはそれになんともいえない顔をした。


「俺たちは大体四か月ぐらい前にこの世界に来まして、まだ全然こちらの世界に馴染んでないんです。なのでもしドラゴンさんがよければいろいろ教えてもらえないかなと思って訪問しました」

『……ただで物を教わろうというのか。これだから人間は図々しい』


 ドラゴンはやっと調子が戻ってきたようで、ふんと鼻息を吐いた。


「もちろんただとは言いません。昨夜クイドリを狩ったのでその肉を対価としてでは如何でしょうか?」


 クイドリと聞いてドラゴンの目の色が変わった。どうやらこのドラゴンもクイドリを知っているらしい。だが、ドラゴンはフイッとそっぽを向いた。


『ふ、ふん! クイドリごときでこの偉大なる我から知識を引き出そうなどとっ!』


 俺は中川さんと顔を見合わせた。俺たちはまだオオカミの背の上である。いつでも逃げ帰れるようにだった。


「あ、そうなんですか? 一応ゴートの肉もあるんですけど、ゴート程度の肉じゃだめかなと思ってクイドリも持ってきたんですが。それでだめだと言われちゃしょうがないなー。ま、ドラゴンさんも見られたし満足したんで帰りますね。オオカミさんよろし……」

『だ、誰もクイドリをいらぬなどと申してはおらぬじゃろうがっ! つ、つつつついでにゴートも置いていくがよいっ! 許すっ!』

「え? でもクイドリ程度では話してくれないんですよね?」


 首を傾げて笑顔で聞き返すと、ドラゴンは慌てた。


『い、いや、我はちょうどクイドリとゴートが食べたい気分だったのだ! ふ、普通ならその程度では話してなどやらぬが今回は特別に話をしてやってもよいぞっ!』

「わあ、いいんですか? ありがとうございます!」


 交渉成立ということで、俺たちはやっとオオカミの背から下り、リュックからクイドリとゴートの肉を出した。内臓がないのはいただけないかな、と思ったが内臓はさすがに持ち運ぶにはリスクが大きいということで、内臓はオオカミとミコが平らげている。

 ミコが俺の首に巻きついた。

 しっかし下りた場所は白くないが、その先は見事に白い。ところどころ茶色の場所があるのでそこを通ってドラゴンさんの側まで向かい、近くにクイドリとゴートの肉を置いた。


『ほうほう、そなたらにもこの宝石の価値がわかると見える』


 ドラゴンさんが何度も頷きながらとても嬉しそうに言った。俺たちは首を傾げた。まぁ、全部塩の塊っぽいから宝石に例えてもおかしくはないだろうが、そこまで貴重なものなのだろうか。岩塩なのかな。


「ドラゴンさんも塩って食べるんですか?」


 なので聞いてみたらドラゴンはきょとんとした。


『塩? とはなんじゃ?』

「……え?」


 俺と中川さんは思わず聞き返してしまった。

 そういえばドラゴンて宝石とかキラキラしたものが好きなんだっけ? そりゃあ塩の結晶は日の光を浴びればキラキラ輝くけど……ってまさか?

 俺は中川さんとまた顔を見合わせてしまったのだった。


ーーーーー

ドラゴンなのに~、ドラゴンなのに~(なんか残念

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