37.玉ねぎドレッシングは絶対肉に合うと思う
翌朝、中川さんはのそのそと起き出して俺にペコリと頭を下げると衝立の向こうに戻っていった。
うん、これでいつも通りに戻るのだろう。
え? なんで告白しなかったのかって?
んなことしてフられたら大ダメージじゃん。しかもフった方も気まずいだろうし。だからせめて中川さんを守れるぐらい強くなってからでないと告白をしてはいけないように思うのだ。ヘタレだって? ほっとけ。
ミコが俺の懐から出てきた。
「あ、ミコ、おはよ……ぎゃあっ!?」
ミコは目を細くして俺をじーっと見てから、カプッと俺の鼻を噛んだ。
いや、痛くはなかったけどびっくりするからやめてほしい。すっごく心臓に悪いし。
「山田君? どうしたの?」
衝立の向こうから心配そうな声がかかった。
「大丈夫! ミコにちょっと鼻をかじられただけだから!」
自分でも言っててそれはどうかと思うが、とっさにいい言い訳も思いつかなかったのだ。かじられるってやヴぁいよな。
「そう?」
そういえば中川さんはミコが俺の鼻を噛むところは見たことがあったな。甘噛みだって思っているかもしれないが、ミコの歯はけっこう鋭くてぎざぎざしているのだ。ちょっとでも力を入れられたら鼻に穴が増えていたことだろう。それは勘弁してほしかった。
「ミコ~、怖いからやめてくれよ~」
ミコはツンとそっぽを向いた。え? ミコさんツンですか? ツンしちゃうんですか? そんな~。
『女心のわからぬ輩(やから)じゃのう』
「は?」
朝からオオカミにため息をつかれた。なんなんだいったい。今日はもう雨は降っていない。まずは水汲みかなと服を直して立ち上がった。
「中川さん、俺、水汲みに行ってくるよ」
「え? 私も行くよー」
一緒に行くことになってしまった。二往復ぐらいしてもいいと思ったんだが。ちょっと気になったので時間を測ってみた。湧き水の出ているところまで普通に歩いて三分かかった。水を汲み、しょって動き出してから安全地帯に着いた時も三分だった。明らかに歩く速度も変わっているようだった。
『この森の物を食べれば食べる程全ての能力が上がっていくと考えていい。それに補助魔法を併用すればそなたたちでもそう日をかけずにこの森を踏破することは可能だろう』
オオカミに言われたが、それは都合よく考えすぎていると思った。
「はは……さすがにそんなに簡単には……」
『そなたたちは面白い。少しの間ぐらいなら付き合ってやってもよいぞ』
「それはとても助かります」
中川さんが持っていたボウルに水を入れて出せばオオカミは素直にそれを飲んだ。ちょっと今日は朝が早いので俺はそのままタケノコを掘ることにした。タケノコは掘りたてなら生でも食べられるし、スープにしてもおいしいしな。
今日は考えをまとめるってことでいつも通りに過ごした。ポテチをイタチたちやオオカミに奪われ、また水筒の中身を出して確認してみた。開ける時は中川さんとミコが注目しているのがなんとなく面白い。
どろっとした何かが出てきた。透明、というかちょっと色がついているような? しかも固形が入ってる?
なんだろうと、中川さんおそるおそる味見をした。
「これは……ドレッシング?」
「玉ねぎドレッシングじゃない?」
また肉にかけたらうまそうなものが……。
中川さんも同じ考えだったようだった。ちょうどおあつらえ向きにマップに赤い点が見えた。
「……なんか来るかな、たぶん」
「ホントにっ!?」
ってわけでまたドドドドドッ! とイノシシもどきが攻めてきて醤油地帯で倒れた。それにしても、あまりこの辺には魔獣がいないと聞いたわりにはよく攻めてくるよなぁ。ヘビの縄張りの方は大丈夫なんだろうかとちょっと心配になった。
『心配ない。人がいるから獣が狂って攻めてくるのだ。いいかげん獲物が増えすぎておるから淘汰してもかまわぬじゃろう』
「淘汰って……」
俺は中川さんと顔を見合わせた。
「スクリ、そんなにこの森の獣は増えているの?」
『うむ……そうであったな? 南の』
『そうだ。我らも食う分しか獣は取らぬ故、ここのところ増えているようだ。そして獣は基本的には森から出ないが、森の外に見慣れないものを見つけたら確認する習性がある。それで毎年人の土地にも被害が出ると聞いたことがあったな』
「へー」
「そうだったのか」
人がいるから攻めてくるって、俺と中川さんが一緒にいるから余計ってことなんだろうか。なかなかに謎が深い。
「なんで獣は人に対して狂うんだ?」
『自分より弱そうなのがいたら簡単に食えるだろう』
オオカミがさらりと答えた。弱肉強食ってことですね。
「ってことは、鼻がすごくいいのか?」
『悪くはないだろうな』
人間の匂いを嗅ぎつけてきているのかどうかは知らないが、自分たちより強い存在がいることを忘れちゃいけないんじゃないのか? と思ったけど、魔獣じゃないからわからないし。つか、知らないことが多すぎてメモが追いつかない。
「明日はこの森の中の距離感もイマイチつかめないから……昨日言ってた北の人に会いに行きたいと思うの。スクリ、お願いできる?」
『我は居場所など知らぬぞ』
「じゃあ、オオカミさんにお願いしてもいい?」
中川さんが真摯に聞いた。
『かまわぬが、そなたはどうする』
「あ、俺も行きたいです」
というわけで今日中に準備をし、明日から出かけることにした。
「ミコも一緒に行くか?」
と聞いたらクククククと鳴かれた。一緒に行ってくれるみたいだ。うちのミコは優しいよな、となでなでさせてもらったのだった。毛がフワフワで幸せです。
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