新たな出会いがあったけど、やっぱり相手は人じゃなかった

31.ヘビの知り合いがやってきてくれました

 毛がとても長い。雨が降っているから灰色に見えるが、もしかしたら銀色なのかもしれない。日の光の下で見たら、輝いて見えるかもしれないと思った。

 そのとても大きいオオカミが大きな鳥の首を噛みちぎった。うわあ、恐ろしい。


『南の、かたじけない』

『鈍ったか、東の』


 ヘビに返答するオオカミの目は、血のように赤かった。


「あっ……!」


 俺が抱え込んでいたはずのイタチが俺の腕からするりと出ていった。無事でよかったと思った。それと入れ違いのようにミコが俺の前に立った。オオカミの方を向いている。警戒しているのかもしれない。でも、マップの点は黄色いままだからおそらく敵意はないと思われた。


『イイズナか。……それがそなたの主か』


 キュウウッ! とミコが答えた。肯定してくれたのだろうか。主、というのか飼主のことなのかも聞いていない。でもそう言ってしまうと中川さんがヘビの飼主になってしまうのか? やっぱりよくわからない。

 そんな現実逃避のようなことを考えているのは、オオカミがすごくでかいからだった。襲い掛かられたら即絶命してしまうだろう。


「……ミコ」


 呆然として、ミコに声をかけた。ミコは振り返らず、じっとオオカミを見ていた。

 オオカミもまたじっとミコを凝視している。しばらくそうしていたが、やがてオオカミの方から顔を反らした。


『……ふん。難儀なことだ』


 俺はそっと手を伸ばし、ミコに触れた。


「ミコ」


 ミコは流れるような動きで、俺の腕の中に収まったかと思うと俺の鼻をかじった。


「うわっ!」


 ちょっとびっくりしたが、俺はミコに窘められるようなことをしてしまったようだった。


「……しょうがないだろ? お前の仲間があの鳥に捕まりそうだったんだから……」


 助けられると思ったから動いたんだよ。ミコの毛を撫でる。雨でその毛皮は少し濡れてしまっていた。


「スクリ」

『なんじゃ』

「お客さんなら、木の下へ行こう」

『あいわかった。南の、参るぞ』


 オオカミはすんなりヘビに従った。乾いたタオル、何枚あったかなとリュックの中身を頭に思い浮かべた。

 そうして皆椿の木の下に集まった。


「山田君、よかった……イイズナさんもよかった。ええと、そこの大蛇の、スクリに保護されています。中川と申します。拭いてもいいですか?」


 中川さんはなんと果敢にオオカミとの交流を試みた。


『必要ない』


 オオカミがけんもほろろにそう言うと、それまで濡れていた毛が一気に乾いてしまった。なにごと? と俺と中川さんはオオカミを凝視した。


『そなたらの言葉で言えば「魔法」というのか? そういうもので乾かしたのだ。そなたたちは使えぬのか?』

「魔法!? この世界には魔法があるんですかっ!?」


 中川さんが食いつく。


『そなたたちは使えぬのか? ああ、人だからしかたないか』


 オオカミは納得したように頷いた。そこ、勝手に自己完結してないで説明してください。お願いします。


「ええと、すみません。この世界の生き物は貴方が使うような「魔法」は使えるのですか?」

『北の者たちであれば多少使えるものがいる。南の者で魔法が使えたのは……我が主のみじゃ』


 オオカミさんの主は大分前に身罷ったそうだ。それでもかなり長い時を生きたはずだとヘビが教えてくれた。

 その主がもういないのだから、きっと南の者と似たような容姿をしている俺たちは「魔法」を使えないのだろう。


「そっかー……魔法が使えたらもう少し楽に獣が狩れるかなーって思ったんだけど……」


 中川さんが残念そうに呟いた。それにヘビが反応した。


『魔法があれば獣を狩れるとは?』

「例えばだけど、矢をもっと遠くに飛ばす魔法があれば遠くからだって射れるでしょう? あんなギリギリまで引きつけなくても」

『ふむ。確かにそなたらの身体は弱い。南の、どうにかならぬのか』


 ヘビがオオカミに声をかける。オオカミは鼻を鳴らした。


『魔法を使うにはセンスが必要だと主が言っていた。そのセンスがその娘にあるものか?』

「わかりません。元の世界でも魔法なんて夢物語でしたから」


 中川さんがきっぱりと答えた。おお、かっこいい。


『……遠くに飛ばす魔法がないこともない。そなた、試してみるか?』

「……見返りはなんでしょう?」


 中川さんがじっとオオカミを見つめた。確かにただで教えてくれるはずはないだろう。え? 教えてくれるもん? とか気軽に思ってしまった自分を殴りたい。


『獣を一頭捧げよ』

「……この辺り、最近あんまり攻めてこないんですけど」

『ならば参るぞ』

「ちょっ! 山田君も一緒じゃないとっ! それに私の弓も必要ですっ!」


 オオカミはいきなり中川さんの服を咥えた。待って、待って! 人間には武器が必要なんですうううう!


『面倒なことだ』


 オオカミがまたふんっと鼻を鳴らした。結局俺と中川さんがオオカミの背に乗って魔獣がいるところまで移動することになった。中川さんは弓がいるし、俺も醤油鉄砲がいる。中川さんが持っている矢じりに醤油をつければ準備完了だ。

 二人で乗っても更に余裕があるとか、このオオカミどんだけでかいんだよ。もの〇け姫を髣髴とさせた。


『……そなたら、恐ろしい毒を使うのぅ』

「毒!?」

『今矢じりにつけたじゃろう』

「ああ……これがついた獣は食べられませんか?」

『突き刺さったところを避ければ問題なかろう』

「じゃあこれでお願いします」


 ミコがするりと俺の上着の胸ポケットに入った。


『ではしっかり掴まっておれ』


 振り落とされないように、俺と中川さんはしっかりオオカミの毛を掴んだ。

 ……それでも、まるでジェットコースターに乗っているような心地ではあったけど。

 つか魔法もいいんだけど、この世界の話とかっていつになったらできるんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る