16.意外とワイルドだった件について
紐はある。だが直接ヘビに縛り付けてもだめな気がする。何かと一緒に巻き付く形を取った方がいいかとか考えた。
何か、といったらビニールシートだ。当然中川さんも持っている。しかしリュックをしょってさらに、ということは可能なのだろうか。まーとりあえずやってみようといきなりやって振り落とされてもかなわないので、試しにまず俺がヘビにがっちりと自分の身体を括り付けてみた。
傍から見ればなんとも滑稽な恰好である。
ヘビは俺を身体に括り付けたままするすると竹を上り、竹から竹へ渡ってみた。ヘビに身体を密着させているのでそれほどではないが快適な移動とは言い難い。だがこれで早く移動できるならば魅力的ではあった。ヘビは五分ぐらいそのまま進み、また五分かけて戻った。こちらを気遣ってくれているのか、動きはそれほど早くはない。でも自分たちで地上を歩くよりは遥かに早そうだった。紐の緩みなどを確認して大丈夫そうだと中川さんに言った。
「よかった。じゃあ、スクリに掴まっていけばいいのかしら」
「歩くよりはよっぽど早く着くとは思うよ」
そう答えてから右上を見ると、赤い点がこちらに向かってきているのが見えた。やっぱりここにも魔獣は入ってくるようだ。
「中川さん、何か攻めてきてるかもしれない!」
「え? ホントにっ?」
中川さんはそれを聞くと素早く荷物の側に行き、なんと大振りの弓を持ってきた。え? それもしかしてここで作ったのか?
「山田君、醤油貸して!」
「はいっ!」
思わず醤油が入った竹筒を渡してしまった。中川さんは手際よく矢じりに醤油を付けると、弓につがえた。
ドドドドドドドッッ! と何かが突進してくる音が聞こえてきて、それがどんどん大きくなる。中川さんは音の方向に身体を向けている。凛とした、美しいとも思える立ち姿だった。そういえば彼女、弓道部だったな。
ヘビが中川さんの隣に動く。もし中川さんが撃ち損じた際にフォローする為だろう。
「ブオオオオオオオッッ!!」
イノシシもどきだった。それが細い木などをなぎ倒して迫ってくる。俺も醤油鉄砲を持ち、ミコもまた俺の内ポケットから出て戦闘態勢を取った。中川さんはイノシシもどきをよく引きつけて……。
ヒュオッ!
風が鳴ったと思った瞬間中川さんはその場から斜め後方へ逃げた。正しいと思った。
「プギイイイイイイイイイイッッ!」
イノシシもどきはそのまま10mぐらい走るとバタリと倒れた。矢がしっかり当たっている。
おそるおそる近づくと、イノシシもどきは絶命しているようだった。醤油、おそるべし。(なんか違う)
「すごい! すごいよ、山田君! 一発でイノシシが倒せちゃった!」
あの勢いに怯まずに矢を射れた中川さんの方がよっぽどすごいと思う。中川さんは弓を持ったままぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。よかったよかった。
せっかくなので湧き水の側まで運び、イノシシもどきを二人で解体した。
「連日こんなにキレイなお肉が取れるなんて……」
中川さんが感極まったように震えている。そういえば感動屋さんだったなと思い出した。
解体も二人でやるとすぐに終わったかんじだ。実際そんなに楽ではない。やっぱり重労働だとは思うが、二人でやっているというだけで気が楽になった。中川さんの方が手際がいいのにちょっと落ち込んだ。俺、けっこう不器用なんだよな。
「弓ってさ」
「ん?」
「その弓、中川さんが作ったの?」
「うん。あんまり雨降らないから乾かすの楽だったよー。なんか十日にいっぺんぐらいしか降らないよね」
「ああ、そうだね。ちょっと見せてもらってもいい?」
「どうぞ~」
解体を終えてホットレモンぽいのを飲みながら聞いた。弓は竹を切って作ったようだった。紐も植物の繊維を編んだように見える。なんとも本格的だった。矢じりは石だったけど、当たったらかなり痛いだろう。矢を作る方がたいへんだったと言っていた。だからちゃんと矢は回収している。矢じりは瞬間接着剤でつけていたようだった。
「図々しいお願いかもしれないんだけど、山田君のリュックに入れたら新品って手に入らないかな?」
「うーん……中身を使い切らないと厳しいかも。必ず増えるかどうかはわからないから約束はできないかな」
「だよね~」
と言いながら中川さんは別のメーカーの瞬間接着剤を取り出した。もうそろそろでなくなりそうである。なんで二個も持っているんだろう。
「これ使い切ったら試してもらってもいい?」
「いいよ。ってなんで二個も持ってんの」
「こっちが残り少なかったから新しく買ったの。せいぜい二泊ぐらいの予定だったんだけどいざ使おうとした時なかったら困るじゃない?」
そんなかんじで中川さんの荷物はけっこう多い。
飯盒で米を炊き(うちの米提供。毎日リュックの中から出てくる)、イノシシもどきの肉を焼いて食べた。オイルサーディンもツナ缶もあると言ったら中川さんに拝まれた。実はまだ出してないけどフルーツ缶も入りっぱなしなんだよな。イタチに襲われたら困ると思ってまだ出してはいない。でもここでなら食べられるかもしれないと思った。
ただ、このリュックとか、中川さんのでかいポーチに所有権はあるんだろうかと考えてしまう。中川さんが俺のリュック欲しさに俺を殺すとは考えられないけどこの不思議な物たちはどういう立ち位置なんだろう。
「スクリ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『なんじゃ』
「俺と、中川さんて不思議な物持ってるだろ」
『ああ、そうじゃな。里佳子の入れ物は里佳子に繋がっておるし、そなたの入れ物はそなたに繋がっている』
「……え?」
「あ、山田君。言い忘れてたけど、なんかこのポーチとか山田君のリュックは私たち以外の人が使えないみたいだよ」
「え? それってどういう……」
『いらぬものを我が入れようとしても入れ物の口がどうやっても開かぬし、よしんば里佳子が口を開けさせたところに我が何かを放り込もうとしてもできぬのじゃ。なんとも不思議な話よの』
「えええええ」
ってことはこのリュックからの物の取り出しは俺限定なのか。それならまぁいいかなとは思う。
念の為中川さんにリュックを渡して試してもらったが、まずチャックを開けることもできなかった。本当に俺限定っぽい。
それにしてもこれって俺たちに都合よすぎじゃないかな。やっぱり神様かなんかがいて召喚されたパターンかもしれない。
「……都合よすぎじゃね?」
「私もそう思う」
中川さんが同意した。
「だから、山田君に会えてよかった」
そしてポツリと呟いた。俺は顔に熱が上るのを感じた。
「いてっ!」
何故かミコが俺の内ポケットから出てきて、俺の身体を上ると鼻に軽く噛みついてきた。
「なんだよ、ミコ。痛いじゃないか」
「イイズナさん、かわいいね」
中川さんがふふっと笑った。かわいいのは同意するけどなんで俺は鼻を噛まれたんでしょうか。
ーーーーー
女心を理解せよ!(ぉぃ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます