13.不思議な物たちのおかげでどうにかなっている
シカもどきの解体の手順はあまり俺と変わらなかった。でも内臓などはもうぐちゃぐちゃになっているということで、もも肉ぐらいしか取らなかった。残りはヘビが食べるらしい。
「最初手順通りにおなか切ったら大惨事で……すっごくリバースしたの……」
中川さんは遠い目をしながら教えてくれた。
「ははは……」
ヘビに締め上げられたのだ。どんなことになってしまうのか想像に難くない。見なくてすんでよかったと思う。それでもやっぱり力任せに締め上げたせいかありえないところまで骨が折れている。おかげで肉を切り分けるのもたいへんだった。あと言っちゃ悪いけどおいしそうには見えない。
「うーん……」
確かにヘビがいれば魔獣退治は問題ないとしても、食肉となると問題だ。
「ヘビさん」
『む? 我のことか?』
「あ、彼にはスクリって名付けたよ」
中川さんが答えてくれた。スクリ、ってアナコンダのことだよな? 確かポルトガル語だったか。こういう別にいいだろって知識だけはあるんだよな。
「じゃあ、スクリさん」
『スクリでよい』
「スクリ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『何か』
「スクリは、俺が倒したヤツとかは食べられるのか?」
『問題ない。ただ、でかすぎる故な』
「あれを解体したらスクリは食べる?」
『うむ』
「じゃあ……」
『今向かっても無駄じゃろう。すでに他の獣の餌になっているはずじゃ』
「そうかな?」
「山田君?」
俺たちの会話からもう一体解体することになるのかと中川さんも気付いたらしい。不安そうな顔をしていた。
「もう一頭、取ってこれたら俺が解体するから」
『もう食われていると思うがのぅ』
「そうでもないかもよ」
ただちょっと離れた場所にあるってのがネックなんだよな。枝とヒモを持ち、マップを確認しながら先ほど倒したイノシシもどきの元へ向かった。
『……何故元のままなのじゃ?』
「これで倒した獣は、あの角がある獣たちには食べられないみたいだ」
醤油鉄砲を出して見せる。他の生き物は食べられるかもしれないけどな。
ヘビは合点がいったように頷いた。
『ふむ。それは面白い』
マップ上に赤い点がないことを確認しながらヘビに手伝ってもらってイノシシもどきを運んだ。そう考えるとこの森って意外と魔獣に遭遇しないと思う。ただ実際の広さとかがわからないから無謀な挑戦はできないけど。
ヘビが力持ちなせいか、でかいイノシシもどきでもけっこう楽に運べた。さすがに俺だけじゃ運べなかったから助かった。
「ありがとう、助かったよ」
『礼などいらぬ』
「山田君、今お湯沸かしてるから」
「ありがとう、中川さん」
「ううん……大きいイノシシ? だね……」
「うん、多分こっちの方がおいしいと思うから待ってて」
「そう?」
中川さんは俺の言葉に懐疑的だった。そりゃああんな骨ばっきばきの肉ばっかり食べてたらそうかもしれない。殺し方によって味が変わるってのは間違いない。暗くなる前に解体してしまおうと、どうにかイノシシもどきを解体した。
「うわー、こんなにキレイに内臓って取れるんだね」
「中川さんは内臓食べる?」
「んー、別にいらないかな」
「じゃあスクリとミコにあげるか」
また肉が大分取れた。
「中川さんって何食べてたの?」
「スクリが獲ってきてくれる獣の肉かな。いいかげん野菜とかごはん食べたいけど……」
それはまずいと思った。
「ちょっと待ってて」
俺はマップを確認しながら木々と原っぱの境界まで向かい、松葉を取ってきた。
「中川さんは松葉でビタミンCが摂れることは知ってる?」
「え? そうなの?」
「一応咥えていればビタミン摂れるから」
「ありがとう……」
中川さんは素直に松葉を咥えた。
「中川さん、ビタミンとかどうやって摂ってた?」
「ビタミンCの飴があったの。四、五日に一回ぐらい舐めてて……まだあったかな」
ちょっとだけひらめいた。
「中川さん、その飴の袋ってある?」
「? うん、あるけど?」
「じゃあ袋ごと持ってきて。試したいことがあるんだ」
俺のリュックがもし機能するなら、飴の袋が増えるかもしれない。ま、ダメで元々だ。中川さんが少し離れたところに立てているテントからリュックを持ってきた。そこからビタミンCと書かれた飴の袋を出す。
「これ?」
「うん。中川さん、俺はこの袋を一度俺のリュックに入れて閉める。それから出してみる。無意味かもしれないけど、試したらいいことが起こるかもしれない。ちょっと試してみてもいいかな? ちゃんと返すから」
頭がおかしいと思われてもしょうがないけど、試してみる価値はあると思う。
「……うん」
中川さんは不思議そうな顔をしていたけど頷いてくれた。よかった。
袋には飴が三個残っていた。本当に大事に食べていたようだ。一度その袋のまま俺のリュックにしまってから出した。何も変わっていない。
今度は袋から飴を全部出してから袋だけリュックにしまって、開けたら。
「お?」
袋が重くなった。成功だった。
新品のビタミンCと書かれた飴の袋が手に入った。もちろん口は開いていない。
「え? どういうこと? 山田君も持ってたの?」
「違う」
そう言いながらマップを確認する。中川さんらしき点は青いままだ。おそらくこの青は、少なくとも俺に心を許している証拠だと思う。それなら話してもいいのではないかと思った。
ミコは俺の胸ポケットから出てこない。拗ねてしまったみたいだった。でも俺に重なる点は青いから、ミコは俺に気を許してくれているのは間違いない。
「実は……このリュック、不思議な物なんだ」
そう言って父親がアキハ町で買ってきた不思議なリュックなのだということを説明した。
「信じられないと思うけど……」
「ううん」
中川さんは首を振った。
「私も……アキハ町にたまたま行った時、この袋を買ったの。100円で」
そう言って見せてくれた袋はチャック付きのでかいポーチのようなものだった。
「えっと、それは……」
「これはね、ごみをなくすことができる袋なの」
「ええ!?」
こっちの方が驚いた。さすがにごみをそこらへんにポイポイ捨てるわけにもいかないので、この袋に入れていたら本当に次の日には中身がなくなってしまうのだそうだ。そしてごくごくたまに翌朝何かオマケのような物が手に入るらしい。
「へぇ~……オマケってどんな?」
「うんとね、爪切りとか」
「あ、それは確かに地味に必要かもしれない」
俺は十徳ナイフにハサミがついてるから大丈夫だけど。
「針と糸とか」
「それはすごい」
なんとなくあると嬉しい物がもらえるようだ。ってポイント制かよ。
せっかく肉を食べるんだしと飯盒を出してお米を炊くことにした。無洗米だから洗わなくても炊ける。
「え? お米まであるの?」
「ああ、一緒に食べよう」
「嬉しい~」
また中川さんが泣き出してしまって少し困った。ミコが顔を出してくれて、何故か俺の頬をペロリと舐めた。やっぱかわいいなって思った。
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初恋の君と合流したよ、やったね!
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