10.ドッキリではないようだ
二つあるうちの、一つの黄色い点は徐々にこちらへ近づいてきていた。
これはマップだけで確認してもしょうがない。俺は再び竹林の中へと目を凝らした。俺の上着の内ポケットの中で休んでいた白イタチも顔を出して周囲を窺っている。
もしかして上か? そう思って竹林の上方を見上げた時、近くの竹の上の方にヘビっぽいものが絡みついているのが見えた。
あれが黄色い点の正体なんだろうか。青は完全に味方。じゃあ黄色は?
そう思った時、ヘビは俺が気づいたことに気づいたのか、するするとすごいスピードで下りてきた。それこそ落ちてきてるんじゃないかってぐらいの速さで。
しかもそのヘビ、竹の上方でもしっかり見えたぐらいなのでものすごい大きさだった。
「うわあああああ!」
ヘビの位置を確認しながら急いで逃げる。背中を向けるのはだめだ。それではとても逃げられない。
『……人か』
「えっ……!?」
今の声は……なんだ? このヘビからか? うちのミコじゃないよな?
俺はヘビから目を離さないようにしながら、他に点がないかどうかマップを見た。
他に黄色い点がそれなりに離れたところにあるぐらいだ。
『そなた、我の声が聞こえるか?』
「えっ!? 誰だっ!?」
何? もしかして隠密スキルとかある人がいるわけ? それじゃこのマップもあてにならないじゃないか。
『我じゃ……そなたの目の前にいる……蛇、というのかの?』
「えええええ!?」
ヘビがしゃべったああああああ!! さっすが異世界トリップ。やっぱりここは異世界だったあああああ!
いや、わかってたよ? イノシシもどきとかシカもどきの鼻のところに立派で鋭利な角が生えてる時点で異世界だって。でもなんつーか、世界には俺の知らないこともいっぱいあるはずだから、もしかしたら角を持つ生き物がいる島、とかありそうじゃん? サイにだって角はあるしな。あ、そういえばあのサイの角って骨じゃなくて繊維質らしいぜ? ってそんなことどうでもいいか。
現実逃避してるだけなんだが……。
「ええと、本当に……?」
これでドッキリでしたー! とか言って後ろから人が出てきてもしょうがない気はする。
『信じられぬのも無理はない。我も、我の言葉を解する人間がまた現れるとは思わなんだ』
「ええと……また、って……?」
ヘビの言葉に気になるところがあったので聞いてみた。
『そなたはどこから来た?』
こっちの質問には答えてくれないようだ。
「日本という国です」
『歳はいくつか』
「17歳です」
なんか面接っぽくなってきたな。
『そなたの性別は……男でいいのか』
「男です」
確かにヘビには性別とかって見てもわからないかもしれないな。俺だってヘビ見てオスかメスかなんて判断つかないし。
『ふうむ』
ヘビは頭を振った。
『女であれば案内しようかと思うたが、男ではのう……しばし待っておれ』
「……はい」
俺の返事を聞くか聞かないかのうちに、蛇はしゅるしゅると竹に上り、そのまま竹から竹に飛び移って移動していった。マップを確認すると、黄色い点がすごいスピードで移動しているのがわかった。これがきっと先ほどのヘビなのだろう。まぁマップでどこらへんにいるかは確認できるから俺は少し休むことにした。
「ミコ、ちょっと休憩な」
そう言って水を飲ませた。皿に水を出してあげると嬉しそうに飲んでくれる。さすがにペットボトルから直接飲ませるとかはない。お互いの為だしな。
マップをちら、と確認すると、黄色い点が二つ同じ場所にいた。ヘビは誰かと無事合流したらしい。
よく考えなくてももう昼も過ぎた。
リュックから弁当を出して食べることにした。ミコのごはんは……カロリーメイトってわけにいかないもんな。サバの水煮缶を出す。サバが浸かっていた水は俺が飲むことにして、少しサバを洗ってミコにあげた。ミコはとてもおいしそうにサバを食べた。ミコが喜んでくれるなら何よりだ。
おにぎりとゆで卵で昼食を終える。もっと弁当箱に詰めてくればよかったと思うが、それは後の祭りだ。
とりあえず近くで取っておいた松葉を咥える。ビタミンC万歳だ。
そういえば、笹の葉って食えるのかな。下の方の葉っぱを取って咥えてみた。
「あれ? うまくね?」
なんかぱりぱり食える。でも消化はできないのかな。草を消化する為の消化器官を人間は持ってなかったはずだ。うまいけど量は食べたらまずいかな。でもなんか手持ち無沙汰だからと笹を少し取っていた。つかうちの安全地帯の周りにも竹、山ほど生えてんじゃん。なんで俺ここで笹の葉取ってんだろう。
そんなことを考えていたらいつのまにかマップ上の黄点がこちらへ近づいてきていた。でも一つはまた離れたところで止まり、もう一つがすごいスピードでこちらへ来ているのがわかった。きっとこれは先ほどのヘビだろう。多分誰かと相談してきたのだろうが、いきなり攻撃とかされないといいな。
まだこの点の意味がよくわからないし。
「ミコ、そろそろ来るぞ」
そう声をかけたらミコは俺から下りた。そして俺の前に陣取る。もしかして守ってくれるつもりなのだろうか。そりゃあミコはイノシシもどきを倒せるぐらいすごいイタチだけど、あんな大きなヘビにはかなわないのでは……と思っている間にヘビが近くに来た。
俺は竹の上方を見上げた。
いた。
ヘビは俺が気づいたことに気づいたようで、またするすると竹を伝って下りてきた。
『……そう威嚇するなイイズナよ。我はそなたの主の敵ではないぞ』
ヘビはミコにそう言った。ミコってイタチじゃなくてイイズナ? っていうのか。確かに、イタチにしてはみんな小さいしな。
『そなた、名はなんという』
「え」
まさか名前を聞かれるとは思わなかった。名乗ってもいいのだがここで名乗って何か悪用されても困る。
「ええと、すいません。名前を言って、俺に不利益はないのでしょうか」
こんなことをバカ正直に聞いてどうするのか。でも異世界で名乗る恐ろしさって想像もつかないしな。
『慎重だのう。ではそなたの容姿を伝えるとしよう。そなたの髪の色は黒でいいのか? 一色に見えるが』
「はい、黒です。染めていません」
色の名前がわからないのか。はたまた色がわからないのかまではわからなかったが、俺の容姿の色を伝え、最後に苗字だけ教えた。
「山田、といいます。苗字ですが」
『苗字というのがわからぬがまぁいい。聞いて参ろう。そこを動かずに待っておれ』
ヘビはそう言ってまだ戻っていった。俺の返事は聞かずに。
「ミコ、まだ待たなきゃいけないみたいだぞ……」
このままだと元の場所へ戻るのが遅くなる。暗くなったらさすがに歩けないだろう。そしたらこの竹林でビニールシートにくるまって夜明けを待つようかな、なんて思っていた。
そう、彼女の姿を見るまでは。
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