4.人がいた痕跡を見つけました。たぶん、きっとかなり前。

「うわああああ!?」


 びっくりした。心臓止まるかと思った。鎧みたいなのがあるなーと思って持ち上げたら下から人骨がああああああ!

 こ、ここここれってここで死んだってこと? 死因はなんなんだよー。こええよー。

 し、しかもなんかこのしゃれこうべ、額に角? みたいなのない? いや、きっとこれは俺の気のせいだ。もう見ない。見ないったら見ない!

 お、鍋とか鉈っぽいものもあるし、剣みたいなのも二本あるーと思ったらこれだよ。短剣の方は豪華な装飾がついていたからもしかしたら名のある家の人だったのかもしれない。これは俺が持っていていいものなんだろうか? なんか持ってたら面倒なことになりそうな気がする。でもここに置いておくのもなぁ……。

 まぁいいや、とまずは穴を掘ることにした。骨をここに野ざらしにしておくのは俺の精神衛生上よろしくない。とはいえ穴を掘る道具がない。申し訳ないと思ったが鎧の一部を使って穴を掘った。ちょうどよくカーブしてる部分があったんだよ。骨とおそらくこの人の持ち物だったのかもしれない朽ちたものもできるだけ一緒に入れた。土を被せて手を合わせる。どなたか知りませんが安らかに眠ってくださいと冥福を祈った。

 しかし何も目印のようなものがないのはいただけない。そこらへんに落ちていた木ぎれを埋めた場所の後ろに刺した。これをこの人の墓碑代わりにしよう。

 すると豪華な装飾のある短剣が光った。


「えええ?」


 もしかして俺なりの埋葬の仕方でこの剣は喜んでくれたということなんだろうか。

 本当はその剣もここに置いておいた方がいいのかもしれなかったが、無造作に置いておくのもアレだったので俺が預かることにした。


「こちらの剣は預かります。他の荷物も。この剣は渡すべき人が現れた時、その方に渡しますのでよろしくお願いします」


 そう言うとまたその短剣が光った。

 やっぱり異世界なんだなと思った。別に裏にスイッチとかないよな。ドッキリかよ。

 鎧はとても重かった。さっきスコップ代わりにできたのは火事場のバカ力的なにかだったのかもしれない。改めて持ったらめちゃくちゃ重いんだけど! こんなに重くても歩き回ることができていたとしたら、これを着ていた人はマッチョだったのではないだろうか。持つだけでもやっとだったのにこれを着て歩いたり走ったりできる人がいたなんて信じられない。

 はっとした。体格は多少俺よりでかいぐらいかもしれないが、この世界の人たちは筋肉のつき方とかが違うのかもしれない。俺もそれなりに鍛えているつもりだったけど、この鎧を着られるような逞しい人たちばかりだったら俺なんか優男にしか見えないかもしれない。

 この世界の人たちが勇者召喚とかで俺を呼んでいた場合の最悪の事態を想像してみた。


「……俺、ここから出て行った方がいいんだろうか……」


 ここに誰か迎えに来たりしない?

 下手したら詐欺師扱いされて死刑とかありそうで怖い。

 すると、リュックにしまおうとしていた短剣がまた光った。先ほどとは光り方が違う。


「?」


 なんか危機でも伝えてくれているのだろうか。それとも一瞬だけだったから気のせいかもしれない。どちらにせよこの竹林と木々に囲まれたところから出て行くには、昨日突進してきたようなイノシシもどきをどうにかできないと無理だろう。


「竹槍? いや、現実的じゃないな……」


 うまく突き刺さればいいけどそのままひかれるのが関の山だ。相打ちには持ち込めるかもしれないが俺が生き残るビジョンが見えないので、しばらくこの安全地帯(?)に留まることにした。

 鎧は……かなり重いけどスコップとしては使えそうだ。鍋はまんま鍋だな。鉈と鍋は錆びているので磨こうと思う。(鎧もさびているけどそっちは後回しだ)まずサビを落とさないといけないのだが……。さすがにリュックの中に金タワシは入っていなかった。つか金タワシ持って山登りって何をするつもりだ。やっぱりキャンプか? ダッチオーブンとか担いでキャンプなのか? 意味ワカンネ。

 石を割ったものや竹を削ったものでサビを削った。汗だくである。


「異世界トリップってつらい……なんで俺、鍋のサビとか落としてんだ? おかしーなー」


 昨日の寝床作りとかイノシシの解体とかもハードだった。でも鍋があればこれからの煮炊きがとても楽になる。無心に鍋のサビを落とした。


「えーと、サビを落としたら油を塗って加熱って……油どこ!」


 だから油持って山登りなんかしねえよ! 責任者出てこい!

 リュックを漁ったらオイルサーディンとツナ缶、そしてサバ缶が出てきた。どうりで重いと思った。うちの親は俺に何をさせたかったのか。ちなみにサバ缶は水煮だった。どうでもいい。


「オイルサーディンのオイルか……」


 鍋がとてもおいしそうな匂いになってしまうかもしれないがしょうがないだろう。そうだこれはしょうがないんだ!

 しっかし新聞紙の上に落としたこのサビはどうすればいいのか。環境破壊じゃないのかとか思ったけどこのサビはこの世界由来のものだよな。というわけでなんとなく安全地帯と木々の境に走っていって撒いてきた。さすがに墓の上に撒く気にはなれなかった。新聞紙はもったいないので回収した。鍋と鉈にオイルサーディンのオイルを塗り、火を起こしてあぶった。

 すっげえうまそうな匂いだなー。おかげでまたイタチたちが集まってきてしまった。

 ごめん、鍋の手入れをしているだけなんだよ。

 と思ったら木々の向こうからまたドドドドドドドッッ! と地を震わすような音が聞こえてきた。


「うそーん……」


 この油の匂いが届いたとでもいうのか。

 昨日の焼肉のタレってどのへんに撒いたんだっけ。あ、なんか草がすげえ勢いで枯れてるからあの辺りかな。

 木々の間から駆けてきたのは昨日より一回りは小さそうなイノシシもどきだった。もちろん角は生えている。


「うえええええ……」


 この鍋投げつけたらどうにかならないかな……。鉈投げた方がいいのかな。

 こちらに来て二度目の命の危機に、俺はどうしたらいいのかさっぱりわからず、震えることしかできなかった。

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