第10話 疾風迅雷! ピクシーキララ、トバすわよ! その1


「あんたがアクアの師匠にふさわしいかどうか、私が見極めてやる!!」


 謎の金髪ツインテール魔法少女は一方的にそう俺に告げると、変身し襲い掛かってきた。


「!?」


 雷鳴とともに白い衣の魔法剣士風魔法少女へと変身した彼女を見て、俺は――!


(――『神眼通しんがんつう』!!)


 その変身プロセスを、スキルを使って確かめる!



「リリエルジュ! エマージェンス!!」


 女の子のコールが響き、同時に流れ始めるBGM。

 アクアちゃんと違い鋭い動きで立ちポーズをとった彼女が右腕を振ると、まとっていた衣服が光に染まりはじけ飛ぶ。

 びくんっと震えた女の子が胎児のようにうずくまれば、幾筋もの稲光が駆け巡り、光球を形成して彼女の全身を覆い隠す。


「クルルォーーンッ!」


 光球の周りをミニマム雄ライオンが駆け回り、一声吠えると光球がはじけ、その中から真っ白なレオタードタイプのインナーを身にまとった女の子が姿を現す。

 直後、やはりいかなる運命の強制力か、視点がぐんっと移動して。


「はぁぁぁぁ!」


 掛け声とともに映し出される女の子の胸元。

 その前で鋭く交差させた腕がバチバチと電撃を放てば、雷音を伴い左右の手に金の差し色が入った白手袋が形成される。


 くるりとカメラは背面に回り足元へ。


 白いブーツ、黒いハイソックスが足を塗り上げるように構築され、仕上げに腰へ白いプリーツスカートが出現。雷光を放ち、ベルトがガチリとⅩの字にスカートに絡まって、そのままレオタードを縛る拘束具のように、ベルトが伸びて装飾していく。


「ふんっ!」


 舞い降りてきた白いマントを羽織ったところで光の帯が髪を結んでツインテールを作り上げれば、髪色がより鮮烈な煌めく金色へと染め変わる。

 光の帯がはじけ白いリボンへと変化すれば、ツインテールが艶やかに輝きを放つ。


「……んっ!」


 視点が前へと戻り、マントを留める金の宝石(さっき手に持ってた印章が同化したやつ)が装着され、かすかに身もだえする声が聞こえたら、いよいよもって変身は大詰め。

 女の子の前でクルクルと回って出現した、彼女の相棒らしき二本の豪奢なデザインの剣をそれぞれの手に掴み、鋭いまなざしが前を向く。


 くるり、くるり、魔法少女リリエルジュが舞い踊る。


「夢と希望が天地を駆ける! ピクシーキララ、トバすわよ!」


 最後にバッチリポーズを決めて、魔法少女ピクシーキララ、変身完了である。


(――実にこの間、0.08秒! 圧倒的に早い! 間違いなくスピードタイプ!!)



 変身完了したツインテール少女ことピクシーキララが、大きくのけ反り二刀を振りかぶり、加速に任せてそれらを振り下ろしてくる!!


「キララちゃんっ!!」


 静止の声も聞こえないとばかりに思い切りよく放たれた一撃は、俺に、かつて戦った最速を誇る魔族を思い出させる。


(だがこれは……間違いなく、あの時より速い一撃だ!!)


 さすがは魔族と日常的に戦う魔法少女。

 そう感心しながら俺はスキルを発動させていた。


 結果。


「獲った!! ……そんな!?」


「スキル『神体通しんたいつう』……いやほんと、キミ速いな」


 俺は二刀の一撃を紙一重で回避していた。


「見切られたってこと? 認めない!!」


 地面に着地すると同時に二本の剣を巧みに操り高速で斬撃を繋げ始めるピクシーキララ。

 予想通りのスピード重視の動きに合わせ、俺は『神体通』と『神眼通』で強化した身体能力と動体視力で対応していく。


「あああああーーーーーー!!」


 どんどん加速していく斬撃を、時にのけ反り時に受け流し、かわし続ける。


「うわすっご、あのにぃちゃんキララちゃんの攻撃に対応してるー」


「見てるだけで目が疲れる……でも、興味深い」


 他の子たちは突然始まったバトル展開を予想していたのか、観客になっていた。


「雄星さんっ! キララちゃんっ!!」


「はぁいアクアちゃんどうどう。あの様子なら大丈夫そうだから、落ち着こ、ね?」


「……じゃま、しない」


 唯一この状況を止めてくれそうだったアクアちゃんは、これも打ち合わせしてたのかってくらいスムーズな流れで抑え込まれていた。


「よそ見なんてして!!」


「うおっと」


 鋭い突きにうっかり怪我しそうになった。

 っていうか見極めるって割に攻撃に殺意があるように見えるんだがどういうこと!?



「アクアは、私が守るんだから!!」


「あ」



 察した。

 真っ直ぐこちらに向けられた視線は、その原因は。


「そうか。アクアちゃんを守ってきたのはキミなんだな」


「!?」


 再び突き出された刃を摘まんで止めて、声をかける。


「出会った時のアクアちゃんは確かに危なっかしいにもほどがあったが、曲がりなりでも戦ってこれたのは、キミがサポートしてたからってわけか」


「そ、それが……」


「優しいね」


「っっっ!!」


 綺麗な顔が真っ赤に染まった。

 外野からひゅーとか聞こえてきたけど、その辺からも彼女の立ち位置がなんとなくわかる。


「一生懸命なところもアクアちゃんとよく似てる」


「っっ! るさいっ!」


「おおっ」


 乱暴に剣を振り抜かれて、距離を離される。


「あんたに何がわかるってのよ!!」


「いろいろと」


 これでも趣味でたくさんの物語に触れてきて、いろいろな登場人物たちの心に触れてきた。

 これまでの人生や、実際に異世界で旅をして知り合った人たちの、生の心にも触れてきた。


 この二種類の経験が、俺の中で彼女の、ピクシーキララのプロファイリングを進めていく。


「とりあえず、キミがアクアちゃんのことが大好きないい子だってことは把握した」


「うるさいうるさいうるさい! 大人ぶった真似して!!」


 怒りの声とともに雷鳴が轟き、彼女の持つ剣が目に見える電撃を帯びる。


「……ってぇ、キララちゃん!? ソレはちょっとあたしさん危ないっておも」


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 お姉さん役っぽい子(推定ネムちゃん)の慌てぶりからして大技が来る予感!


(この子が他の子を巻き込むような真似をするはずはないから……)


 俺が気にするべきは、目の前の女の子、ピクシーキララただ一人。


(友達想いなこの子からすれば、得体のしれない俺の存在なんて攻撃対象にするのも当然って感じなんだろうな。なら……)


 俺がやるべきは、目の前の女の子、ピクシーキララに認めてもらうことだ!


「……受けて立つ!」

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