第16話 七人のトラウマ達





おはようございます、五樹です。僕は今、早く目覚めてしまったのに朝食がまだ先なので、気を紛らわす代わりにこれを書いています。


たまには箸休めに、少し短い話にしましょうか。



一昨日のカウンセリングで、時子は帰り際、カウンセラーとこんな会話をしました。


「それにしても、最近は本当に交代が頻繁みたいで…前はほとんど出てこなかった、桔梗さんや、悠さんがよく出てくると聞いて、どんどん悪くなってるような気がするんです…」


時子は、他者にそうするのと同じように、僕達別人格にも怯えているので、さん付けで呼びます。カウンセラーは当たり前のようにこう返しました。


「それはね、「私の事も処理して!処理して!」って言ってるんですよ」


「はあ…そうですか…私に出来ますか?」


「出来ます!もちろん!」


いつもの通り、カウンセラーはとても明るい声でそう言いました。



僕も、そうだとは思っていました。


今まで時子がひた隠しにし、誰にも見せないように後ろにしまっておいた感情を、やっと少しずつ周りの人に見せるようになった。


“私はこんなトラウマです”


“私の願いを成就して”


“私の思いをどうか聴いて”


彼らはそんな風に、周りに訴えるため、出てくるのです。


例えば「悠」なら、「ママが居なくなった時、とても寂しかったんだ。分かってよ」、そんな風に。


「桔梗」なら、「死こそ救いと信じなければならない程、私は追い詰められていたの。その気持ちを理解して、拭って下さい」といった感じでしょう。


「彰」は、その中でも難しいかもしれません。「自分を誰も救おうとしなかったなんて、恨んで当然だ。それは了承してくれ。無理もないだろ?」。でも、それにも「OK」を返せば、きっと彼も安堵するでしょう。



時子自身は、簡単な事だとは思わないでしょう。でも、僕は至極簡単と思います。


感情とは、何が起こってもおかしくない世界であり、時子は、実際にはその感情の為には何もしなかった。


誰かに八つ当たりもしなかったし、自分を殺しもしなかった。何も起きていないのです。


それなら、我慢していた分、自分が辛かった事を認めてあげて、平穏を得た今の中で、改めて幸福になればいいだけです。


ただ、時子が「彰」や「悠」のような自分勝手な感情を隠そうとしたのは、「周りに迷惑になるから」という良心から来る理由です。もちろん、桔梗が持つ「死こそ救い」という感情を押し殺したのは、自分の為だったでしょうが。


自分の為でもあり、周りの為でもある。そういう理由で始めた事は、人はなかなかやめません。そこが難しい所かと思っています。


でも、それもカウンセリングルームでのイメージワークや、話してみて受け入れられる経験を積み上げ、上手く昇華されるといいなと思います。



それにしても、お腹が空きました。投稿作業が終わったら、食事にしましょう。お付き合い有難うございました。それではまた。





つづく

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