第106話 精霊魔法






 皆が驚いて神獣を見る。

 いつもいつの間にか拠点に来て、いつの間にか帰っていたみたいだけど、そうだよな。

 体を縮めないと倉庫の地下の階段とか通れないもんな。


 神獣が鼻をカキカキしている。


「クシュンっ!」


 ボンッと元の大きさに戻る神獣。

 どうやら気を抜くと元の大きさに戻ってしまうらしい。


 神獣はハッとした顔をすると恥ずかしそうに顔を下に向けた。


「クゥ~~ン……」


「ははっ。まぁ何かあった時は気をつけてくれれば良いさ」


 俺は抱っこ紐の中のヴェルとアウラを優しく撫でた。



 俺たちは拠点の前に集まってから移動を開始した。

 俺にミーシャ、ティファと続き、神獣とアルカにゼフィちゃん、三人娘にアインとドライだ。


 結構大人数になったな。

 まぁ、いいか。ちょっとした旅行だ。


 今回は皆、転移石の存在を知っているメンバーだったので転移石を使ってスティンガーのダンジョンへと飛んだ。

 今はクーデリアにも転移石の存在を教えてあるけどね。


 スティンガーのダンジョンの入り口へと皆で転移。

 神獣は倉庫の地下に降りる時に小さくなったままだ。

 小さいって言っても大型犬サイズはあるんだけどな。

一応、町の中では大きくならないように言い含めてある。


 そのまま、まずはギルドの派出所に足を運び、アルカとゼフィちゃんと神獣の登録を済ませる。

 神樹の森とスティンガーの町は交流がないからね。

 エルフの身分証は使えないのだ。


……。


「おいおい! ギルドはいつから保育所になったんだぁ!?」


ガヤガヤと忙しそうな人たちがすれ違うギルドの派出所でぶっきらぼうな声が響く。

 声の方を見ると中年のおっさんが酒瓶を片手にこちらを睨みつけている。


「そちらこそ何を言っているのだ? ここは初級ダンジョンのギルド派出所だぞ? 女子供が居るのは当たり前でないか」


「ああ!? 女のくせに何を生意気言ってやがる!」


 俺はちらりと周りを見てみるが誰もこのおっさんを止めようとしない。

 いやまぁ、俺だって嫌だけどな。

 こんな臭そうなおっさんを相手するの。


「だいたいそこの坊主も気に食わねえ! 女ばかり侍(はべ)らしやがって! そんなヤツの何が特別だってんだ!?」


 おっと!? ジロジロ見ていたら俺に飛び火したぞ?


「マスターに失礼です。発言の撤回と謝罪を要求します」


 ティファが表情も少なめに怒りの声を上げる。


「あなた様。相手にしてはいけない類の人間です」


 アルカがため息まじりに言う。


「るっせえ! 女子供がオレに生意気な口を利くんじゃねえ!」


 ガシャン! と持っていた酒瓶を地面に叩きつける赤ら顔のおっさん。

 音に驚いたのか抱っこ紐の中でヴェルかアウラがびくりと震えたのが分かった。

 おいおい。ウチの子たちが怯えているだろうが!

 俺が怒りをふつふつとたぎらせていると、


「なんじゃいなんじゃい。大体からしてお主、その女子供にしか悪態を付けぬではないか。全く情けないのじゃ」


 ゼフィちゃんが馬鹿にしたように言った。


「はいぃ」

「ですです」

「だぜ!」


 三人娘も便乗する。


「っるせぇ! おらぁ!」


 酔っ払ったおっさんは手に持った割れた酒瓶をぶん投げてきた!


 うおっ! 危ねえ!

 俺は片手で抱っこ紐をかばい、もう片方の手を顔の前に出して目をつぶってしまった。

 その間、ルンがグワッと体を広げて酒瓶をキャッチし、アインとドライが前に出て身を盾にする。


 チュイン チンッ

 アインとドライの体に酒瓶の破片が当たる。


「これで正当防衛というやつなのじゃ」


 ゼフィちゃんがそう言うと、すぐ側に女性の形をした水の塊が現れた。


「マリンちゃん、頼むのじゃ」


 マリンとよばれた水の塊は指先を酔っ払いのおっさんに向けると彼の顔の周りに水が発生する。


「どうじゃ? 陸で溺れる気分は?」


 なんだ? 魔法? それにしては詠唱が無かった。

 でもなんだか魔術とも違うぞ?


「ゼフィちゃん。それはなんだ?」


 俺は疑問をセフィちゃんにぶつける。


「む? これか? これは精霊魔法じゃ。のう? マリンちゃん」


 マリンと呼ばれる水の塊、もとい精霊が頷く。

 精霊か。初めて見た。

 妖精ならノーナで見慣れているけどな。


「すごいなゼフィちゃんは」


 と俺が褒めると、


「そうじゃろう、そうじゃろう。もっと妾を褒めるのじゃ」


 と鼻を高くするゼフィちゃん。


「いえ、あなた様。あまり褒めると叔母上には毒。その辺で」


 アルカが諫める。

 この間、酔っぱらいのおっさんは地上で溺れていた。


 ビタンと倒れてピクピクしだすおっさん。


「む。マリンちゃん、もういいのじゃ」


 ゼフィちゃんがそう言うとシュルリと消える水の精霊。

 酔っ払いのおっさんの顔の水も消えていた。


 そこへ衛兵達がやって来る。


「失礼。ここで暴漢が出たと聞いてきたのだが……」


「こちらで取り押さえておきましたよ。そこで伸びているのがその暴漢です」


「こいつか。ご協力ありがとうございました。おい、こいつを引っ立てるぞ」


 酔っ払いのおっさんは両脇を衛兵に固められてしょっ引かれていった。


「お前ら驚かせちゃったな」


 俺は抱っこ紐の中のヴェルとアウラを撫でてあやす。


「ミーシャ、こういった事は偶にあったりするのか?」


「いや? 初心者に絡むこと自体が恥だ。少なくともこのスティンガーの街ではな。大方よそ者だろう」


 どうやらそういう事らしかった。






――――――――――――


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