第82話 棒状ラーメンに図鑑と地図


 コンコンッ


「やっほ〜テツヤ。いるかい?」


「やあ、ランジェさん、おはよう……」


「ど、どうしたのテツヤ! 目の下にクマができているけれど寝てないの!?」


「ああ、昨日は夜遅くまで起きていたから、少し寝不足なんだ」


「もしかして前に言っていたテツヤの能力で買えるものが増えたからかい?」


「そうなんだ。今回は思ったよりも多くの商品が購入できるようになったから、何を売るかをリリアと一緒に考えていたら遅くなっちゃって……」


「へえ〜それはとても楽しみだね! 僕にも見せてよ!」


「もちろんだよ。ランジェさんの意見もぜひ聞かせてくれ」


 ランジェさんを部屋の中に入れる。リリアもちょうど起きてきたみたいだ。


「とりあえず朝食にしようか。ちょっと食べてみたいものがあるんだけれど、2人ともそれでいい?」


「うん、もちろん」


「ああ、テツヤに任せるぞ」




「よし、できたよ」


「だいぶ早いね」


「昨日のカレーという料理は本当に美味しかったからな。今回のも期待しているぞ」


「なにそのカレーってやつ!? もしかしてテツヤの能力で新しいものが出たの! 僕にもちょうだい」


「ああ、そう言うと思ってランジェさんにはどっちも作ってきたよ。リリアもおかわりがほしかったら、どっちもすぐに作れるから言ってね」


「ああ、すまないな」


「さて、これはラーメンと言って、俺の世界で大勢に愛されてきた料理だ!」


「へえ〜とっても良い香りだね!」


「スープの中に細い麺が入っているのだな」


「説明はあとでするから、とりあえず食べてみてよ!」


 というより俺が待ちきれない! 久しぶりのラーメンの香りだ!


 昨日のカレーも食欲をそそる良い匂いだったが、こちらのラーメンもまったく負けてはいない。トッピングには昨日の夜にしっかりと作っておいたゆで卵と燻製肉とネギを添えている。


「ああ〜懐かしい味だ!」


「おおっ!? この濃厚なスープの味はたまらないな! 麺はこんなに細いのに、噛むとちゃんと歯応えがあり、スープに絡んで美味しいぞ!」


「うわっ、なにこれ!? めちゃくちゃ美味しいよ! それにこの茹でた卵と肉も美味しい!」


 どうやらラーメンの味はこちらの世界の人達にも受け入れられたらしい。


「テツヤ、おかわりを頼む!」


「テツヤ、カレーってほうもお願い!」


「オッケー。俺もラーメンをもう一杯食べよう」


 朝っぱらからラーメンにカレーと重いメニューだが、美味いから気にしちゃいけない!


 リリアとランジェさんと一緒に朝からラーメンとカレーを楽しんだ。




「いやあ〜朝からお腹いっぱいだよ! ラーメンもカレーも本当に美味しかったね!」


「ああ、どちらもとても美味しかったぞ」


「カレーのほうは容器の関係上販売できなさそうだけれど、ラーメンのほうは商品になりそうかな。麺は元々こんな感じになっていて、お湯でほんの数分茹でて粉のスープを入れるだけで完成するんだよ」


「ふ〜ん、こんなものがさっきの美味しい麺料理に変わるんだね」


「それにたった数分茹でるだけでできるのか。それなら冒険者が昼に簡単に食べることができるな」


 俺のアウトドアショップの能力で購入できるラーメンは、カップラーメンではなく、棒状のラーメンだ。麺が細いので、お湯の沸点が低い山の上でもお手軽に食べることができる。


 さらに麺が棒状となっているので、あまり荷物の場所を取らないし、保存期間が長いからこれも非常食になる。


 唯一惜しむべき点は、味が醤油味と豚骨味の2種類しかないことだな。元の世界ならもっといろいろな味があったはずだ。


「とりあえずインスタント食品系はまたお腹が空いたら味を見てもらうとして、あとは他の商品だな。とりあえずリリアには見てもらったんだけれど、ランジェさんに見てほしいものがあるんだよね」


「んん、どれだい?」


「これなんだけどね……」


 ランジェさんの前に2冊のと1枚のを置いた。


「これは……」


「このあたり周辺の地図と魔物図鑑と植物図鑑なんだ……」


 そう、確かに元の世界のアウトドアショップでは、地図や植物図鑑に野鳥図鑑や昆虫図鑑などが販売されていた。


 いや、そんなもの異世界で何の役に立つんだと思ったのだが、野鳥図鑑や昆虫図鑑ではなく魔物図鑑という名称が気になって購入してみた。


 すると中にはこちらの世界の魔物の情報が詳しく書かれていた。魔物の生態や弱点についてまで詳細にだ。


「……すごいね、これは。僕の知っている情報と完全に一致しているよ。それにこの絵はとても精密な絵だね!」


 リリアにも確認してもらったが、文字はこの世界の共通語で書かれているらしく、文字を読める人ならこの本を読むことができるらしい。


 そしてこの本に載っている魔物の姿はすべて鮮明な写真で書かれている。


「これはとても便利な情報だよ。でも基本的にはこの付近にいる魔物しか載っていないかんじかな?」


「そうだね。リリアもそう言っていたよ」


 どうやらこの魔物図鑑にはこの街や近くの街周辺に生息する魔物しか載っていないらしい。同様に植物図鑑や地図も、この始まりの街付近の情報しか載っていないようだ。


 ……いや、逆にこの世界のすべての魔物の情報が載っていたら、いくらなんでも手に負えないところだった。


「とはいえ、さすがにこれを普通に販売するのはどうかと思ってね。この綺麗な絵も俺の世界では写真と言って、目に見える景色をそのまま絵にする道具なんだけれど、明らかにこの世界だと目立っちゃうよね……」


「さすがに目立つだろうね……この地図もかなり精巧なものになっているから、あれば絶対に便利だけれど、いろいろと問題が起きそうかな……」


 そうなんだよなあ……地図も方位磁石と合わせるとめちゃくちゃ便利なんだけれど、誰がこんな精巧な地図を作ったかという問題が起きそうだ。


 とはいえ、こんな便利なものを使わないというのも勿体ない気もする。植物図鑑や魔物図鑑があれば駆け出し冒険者の役に立つことは間違いないだろう。


「とりあえず販売はやめておき、冒険者ギルドに相談してみるというのはどうだ?」


「……なるほど、リリアの言う通り、その辺りが一番妥当かな」


 普通に販売するのは難しいが、少しだけ冒険者ギルドに寄付すると言うのはありかもしれない。冒険者ギルドに置いておけば、駆け出し冒険者も情報を共有できるからな。そっちの線で考えてみるか。

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