第62話 ダナマベアの鍋


「「「ありがとうございました!」」」


 無事に今日の最後のお客さんを3人で見送った。ふう〜トラブルはあったが、なんとか乗り切ることができたようだ。


「2人ともお疲れさま。リリア、今日はありがとうね! リリアがいなかったら、逆上したあの男に殴られていたところだったよ」


「リリアお姉ちゃん、とっても格好良かったです!」


「……ああ、テツヤを守れてよかったぞ。私はまだ疲れていないから、そのまま店の掃除と明日の準備をしてくるよ」


「「………………」」


 リリアとの付き合いも多少は長くなってきて、ある程度は心情が読み取れるようになってきた。なぜか今のリリアは少し気落ちしているように見える。リリアの活躍のおかげで、誰も怪我をせずに事態が収まったのになんでだろう?


「リリアお姉ちゃん、元気がないですね……」


 どうやらフィアちゃんも俺と同じことを思っていたらしい。


「そうだね。リリアのおかげでみんな助かったのになんでだろう?」


「……たぶんだけど、あの男の人に言われたことを気にしているんじゃないかな?」


 あの男に言われたこと? ああ、リリアが片腕だから気持ち悪いとか、ふざけたことを言っていたな。


「まさか……あれだけ気丈で強いリリアが、あんなやつに言われた言葉なんて気にするかな?」


「……もう、テツヤお兄ちゃんは女心が全然わかってないね! リリアお姉ちゃんだって女の子なんだから、あんなこと言われたら傷付いちゃうよ! フィアだって男の人に気持ち悪いとか言われたら傷付くもん!」


「そ、そうなんだ……」


 フィアちゃんに怒られてしまった。ごめん、今まで女性と付き合ったことなんてないから、女心とかはまったくわからないんだよ……




「よし、お待たせ。リリア、晩ご飯ができたから上がってきて!」


「うむ、今行くぞ」


 晩ご飯ができたので、下の階でお店の掃除をしてくれていたリリアを呼ぶ。今日の晩ご飯の準備は野菜と肉を切るだけだったので、フィアちゃんに少し手伝ってもらうだけですんだ。


「今日はダナマベアの肉で鍋を作ってみたよ」


 先日冒険者ギルドマスターのライザックさんからもらった高級食材であるダナマベアの肉。昨日は野菜炒めとステーキを作ったが、今日は鍋にしてみた。


 肉は基本的に日持ちしないため、昨日の夜に長期保存用と今日食べる分に分けて燻製をしておいた。


 まずは油を引いて軽く肉を炒める。そこに水を入れて煮込んでいく。獣肉は灰汁がものすごい出るかとも思ったのだが、この肉はそれほど灰汁が出なかった。そこにネギ、キノコ、他の野菜などを加えてから、酒と魚醤を加えていき、インスタントスープの味噌汁で味をつけていく。


 元の世界でイノシシや熊の肉には味噌味が合うと何かで読んだ気もしたからな。乾燥ワカメも鍋に入ってしまうが、まあそれもご愛嬌ということで。


「おっ、これはなかなかいけるな!」


「お肉が柔らかくて美味しいです! それにお肉とお野菜を一緒に食べても美味しい味です」


「うん、初めて食べる味付けだが、とても美味しいぞ。味が染み込んだこの肉は、噛めば噛むほど肉の旨みが溢れてくるな!」


 昨日のステーキも美味かったが、今日の鍋もなかなかいける。肉の旨みや脂が強いから、味噌仕立ての味付けもかなりうまい。インスタントスープの味噌汁を使った味付けは初めて作ってみたのだが、なかなかうまくいったようだ。他にも味噌味の炒め物とかにも使えそうだな。


「鍋にするのなら味噌味でも受け入れられそうかな。インスタントスープを使ったレシピなんかを店に貼り出してもいいかもしれないね」


「うむ、みんなお湯に入れてスープに使うという発想しかないだろうからな、たぶん喜ばれると思うぞ」


「この前のポトフってお料理も簡単だったけれど、すごく美味しかったです!」


 ふむ、リリアやフィアちゃんにも好評なようだし、今度冒険者達が野外でもインスタントスープを使って作れる料理のレシピをお店の店内に貼っておくとしよう。




 晩ご飯を食べたあとは、昨日と同じでリリアと一緒にフィアちゃんを家まで送っていった。ダナマベアの鍋もレーアさんにお裾分けをした。そのあとリリアと一緒に店まで歩いていく。


「今日はトラブルもあったけれど、リリアのおかげでなんとかなったよ。本当にありがとうね」


「護衛としての役割を果たしたまでだ。テツヤやフィアちゃんの役に立てて何よりだぞ」


「………………」


 美味しい晩ご飯を食べて少し持ち直したようだが、まだいつもよりは元気がないように見える。やはりあの男に言われた言葉を気にしているのだろうか。


「ねえ、リリア。もしかして、あの騒動を起こした男が言ったことを気にしてたりする?」


「な、なにを言っているんだ!? べ、別にあんな男に言われたことなんて気にしていないぞ!」


 ……わかりやすく動揺しているな。やっぱりあの男に片腕で気持ち悪いと言われたことを気にしていたらしい。


「やっぱり俺からは、リリアのことを何ひとつ知らないあんな男の言葉なんて気にするなとしか言えないよ。いつも真面目に一生懸命で、他の人のことを考えてくれている優しいリリアが、あんなチンピラの言葉に傷付く必要なんてまったくない。


 それにリリアは……び、美人だし、と、とっても綺麗な女性だからね!」


 うん、自分で言っていて、ものすごく恥ずかしい……以前に商品を紹介している時に、リリアのことを美人だと褒めたが、その時とは違って、面と向かってそんなことを言うのはさすがに恥ずい!


「な、なな!? そ、そんなことをこんな人通りの多い場所で言うな! は、恥ずかしいではないか!」


 いやいや、こんなことをお店に戻って2人きりの時に言えるわけないだろ!


「も、もうわかった! あんな男が言ったことなんて、もう気にしない! まだ明日も店は開くのだからな、早く帰って明日に備えるぞ!」


「あ、ああ。そうだね、明日もまだ忙しいだろうから頑張ろうね」


「うむ!」

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