第6話 奈良へいこう!
久しぶりに奈良に出かけた。高校時代、デザイン科に在籍した私は、毎年秋になると日帰りで古美術旅行と称して学校から奈良を訪れた。数えてみると30年も前のことになっていて愕然とする。勘違いか時代の流れか、あれ?こんな大きさだった…とかこんな囲いが有ったっけ…と今更ながら照合しない記憶に頭をかしげる。
久々の奈良旅行に思う。当時は治安もゆるくもっとオープンだったと思う。本当のところはどうだろう…友達との会話に花が咲いて仏像を見るのは二の次だったような気もする。
今でこそ実のある授業だったと思うものの、当時の自分はそんな事考えて見ていなかった。子供の時の経験とはそんなもので30年経って振り返ると、ようやくその有難みに気づくのだ。
今日は斑鳩に来ていた。小雨が静かに降っている。法隆寺のあたりは静かで人影も少なく、古都というより時間を超越した異空間のようだった。
慌ただしく暮らす中で少しの雨なら傘をさすことはまず無い。車からバタバタと走って目的地まで向かい、雨を恨めしそうに睨んで屋内に消える。
でも、此処は斑鳩…雨もまた好。車に積んだ気に入りの開かずの傘を悠々と開いて歩き始めた。
石畳はしっぽりと濡れて、塵一つなく清々しい。中門の前まで来ると、ユネスコ世界遺産と刻んだ大きな石が場違いに据えられていた。
「世界遺産法隆寺」それは実に堂々としたやけに新しい石だった。
雨も手伝ってか人の少ない日本の世界遺産は、イタリアのコロッセウムと比べて漂う空気が違う。圧倒的な静寂の世界だった。
仏教美術の美しさが解りはしないので本丸写しの解説を夫にしながら金堂を回る。中は薄暗く、案内の人の持つ懐中電灯の光だけが仏像の顔を映し出す唯一のアイテムだった。
多分もう少し歳をとってまた此処を訪れる時には、忘れていなければ私も懐中電灯を持ってくるぞ〜と意気込みたくなるほど中は真っ暗だ。
日本にいる感動を味わいながら、此処まで統一感がないと日本が日本らしくならないのかなあと思いながら、中途半端に西洋も東洋もゴチャ混ぜになった日常を振り返った。
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