第5話 エコール・ド・パリ
名古屋に出かけた。久しぶりの名古屋は人がたくさんいて、肌寒くて、デパートの中もコートを着たままで平気だった。
温度調節が苦手なので冬は暖かいコートを羽織り、中に軽い服装をする。電車の中や建物の中では一枚脱いだコートを抱えながら快適に過ごす。
日本の冬の電車の中は暑い。手に持つコートが邪魔になるから、外と同じ温度で良いんじゃないかと常々思っていたけれど、最近ウオームビズが推奨されているからか過ごしやすい温度だった。
本屋でエコール・ド・パリのチラシを見かけた。佐伯祐三の「ロシアの少女」が目を引いて手に取ったまましばらく眺めた。
私の住む稲沢には、荻須高徳の美術館がある。よく似た感じの絵だけど、佐伯祐三の絵に惹かれる。この人の絵を見るとちょっと胸が苦しくなって、酸っぱい感じがする。子供の頃なにかで読んだ資料が気になるのか、どこか遠い記憶に佐伯祐三の名前が刻まれていて懐かしい。
自分の中の計り知れない暗さは、こういうものの積み重ねなのかなあと思ったりして子供の頃の記憶を手探りする。
残念ながら今ほど綺麗な世の中でもなく、黒板塀は何処までも威圧的で、そこここに積み上げられた瓦や材木は何かが潜んでいるような陰を作って怖かった。
今の子供は映画やゲームでわざわざ怖いものをこしらえて恐怖を味わっているが、私の子供の頃は生きていることがそのまま怖くて…理不尽なものと直ぐ隣り合わせだった。
佐伯祐三の絵はそんな気分を思い出させるのかも知れない。
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