第14話

 だいぶ強引だったけど千尋のシュートは決まった。決まったはいいけど……敵味方ともになんか変な空気。

 でもボールを奪われた子は小さく拍手している。いいのか君はそれで。

 まあ得点には変わりない。ここはわたしもちょっと盛り上げていこう。


「いえーいちっひーいえーい!」


 背後から千尋の肩をつかんでもみもみ。縛り上げた髪から相変わらずいい匂いがする。

 それとうなじがエロいとか言う男子の気持ちがなんとなくわかったような、わからんような。


「ち、ちょっと、やめてください」


 手を払われた。ちょっと照れてる? 

 澄ましてるけど本当は点を決めて嬉しいに違いない。

 

「ちょっとは喜びなよ」

「まぐれですから」

 

 慢心はしない千尋さん。

 ちょっとはうれしがってはしゃいでみてもいいんじゃないかと思う。そういうとこ見たい。けどあくまでクールに振る舞うのも捨てがたい。


「やるじゃん。バスケやってたの?」

「体育の授業でやったぐらいですが」


 だいたい予想通り。

 これちゃんとやってたらいい線いってたんじゃないかな。

 超攻撃的フォワードとかになりそうだけど。


「そういうひまりは?」


 また名前呼んでくれた。今度は普通に。

 やばいにやつきそう。ここは耐えろ、なんとかごまかすんだ。


「……なに笑ってるんですか?」

 

 めちゃめちゃ不審そうな顔をされてしまった。

 耐えきれなかったらしい。あれ、というか何の話してたんだっけ。


 そのとき、ふと視線を感じて振り向く。

 ……見てる、清奈さんこっち見てるよ。


 チームワーク大好きな人だからああいう自己中……おっと強気なプレイはお気に召さないのかも。

 体育だからいいけど部活で部員がやったらキレてそう。裏に呼びつけて諭してくるから怖いんだよね。


 ていうかそんな睨むようにしなくてもよくない? って思う。たかが体育の授業だよ?

 個人的にはもっと楽しくワイワイやりたいんだけど、やっぱなんか空気が重たい。

 

「まあ、授業ですから、そんなガチらなくてもね」

「あっちこっち気にしすぎじゃないですか」

「はい?」

「集中してない」


 千尋にダメだしされた。

 バスケ部ではエース扱いされていたこのわたしが。あの清奈にも一目置かれているこのわたしが。

 いやまあおっしゃるとおりではあるんですけど。

 

 なんてやってるうちに試合再開。

 ボールを持っているのは咲希……と悠長に構えているまもなく、咲希はドリブルで突っ込んでくる。 

 一人かわし、もう一人かわし。速い。誰も止められない。

 慌ててコースを遮って抑えに入る。がその瞬間、 


「咲希!」


 遅れて走り込んできた清奈にノールックで横パス。あっさり通してしまう。

 受け取って、持ち替えながら両足でストップ。そのまま流れるようにシュート。マークもブロックもなし。誰もとっさにそんな頭はない。弧を描いたボールは直でするっとゴールに吸い込まれる。


 二人がタッチをかわして素早く自陣に戻っていく。

 いや何を本気出してるのか。本気出すのはやめろまじで。

 先ほどの千尋のゴールが火をつけてしまったのかなんなのか。


 あんなの見せつけられたらまたこっちの士気が落ちる……かと思えば素早くリスタートを要求したのは千尋。

 なんかもうかっこよく見えてきた。適当に流せばいいかなんて考えてた自分が情けなくなる。


 わたしも負けじとパスを要求。またも中盤でボールをもらう。

 すかさず咲希があたりに来た。奪いにくる動き。いやあんまりなめるなって。

 目線でフェイクを入れて、逆方向にドリブル。抜き去る。

 

 清奈がわたしのマークを外してゴール下に陣取っていた。

 これと真っ向から勝負するのは自殺行為。まあやってもいいけど。自信はある。

 

「ひまり!」


 千尋の声。ほしがりさんだ。

 でも名前呼んでくれたからパス出しちゃう。

 と反射的にボールを回したはいいけど、完全に読まれてる。

 

 清奈が千尋の前に立ちはだかる。試合中によく見た立ち姿。傍目にも圧がヤバイ。

 さすがにそれは大人げないと思う。千尋は運動能力でカバーしているけど部活でやっている人に比べるとまだまだ粗い。あらゆる面で。


 けど千尋も千尋で、まったく怯む気配がない。

 何というメンタル。誰が好き好んで次期キャプテンに立ち向かっていくのか。

 というか千尋はたぶん清奈のことをよく知らないのだと思う。肌で感じ取ってはいるだろうけど……敵が強いほど燃えるタイプ?


 千尋が一歩踏み出す。

 うわ強引、と思ったが、それを止めに入った清奈はさらに強引だった。


 体同士が接触して、ボールを持った体が前につんのめる。

 衝撃音が足元に響いた。わずかに遅れて、ボールが床の上を転がった。 

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