第34話
陰キャ同士で戦おうじゃないか。
ずっと感じていた違和感、そして発達した獣の感覚とでも言うのか、僕はずっと見られているのを感じていた。
その視線は探索時には弱く、戦闘時には強くこちらを伺っていたのも分かっている。
やはり魔力の力なのだろう。視覚も嗅覚も、聴覚、更にはこんな野生の勘的なものまで鋭くなっていた。
魔物の目を召喚しておいた。
彩さんの裸を見てしまわないように、気をつけて辺りを見回す。
当たりをつけていた地点にやはりいた。
ダンジョンのかなり奥の方、天井から垂れ下がる鍾乳洞のような岩にしがみつくゴブリンがいた。
片手で手作り感のある単眼鏡を持ち、目に当ててこちらの様子をうかがっている。
なぜ僕が一発で見つけることが出来たかというと、僕ならあそこに隠れると思ったからだ。
陰のみちは陰キャに聞け、である。
「なるほど」
やはり試されていたか。
サンドスコーピオンの組織めいた動き、そして前回いた強いゴブリン。
繋がったな。
この隠しフロアの主はゴブリンだ。間違いないだろう。それもかなり知能の優れた手練れだと思う。
前回の戦闘後にググカス先生を頼ってゴブリンの生態は調べておいた。
『知能は低く、運動能力一辺倒の戦いをする。こん棒とそこらへにある飛び道具を使用して戦うため、容易に倒せる相手。推奨魔力量12000以上』
ググカス先生いわく、知能は低いらしい。
推奨魔力量も12000以上だ。これはすなわち、ほぼライガー君という訳だ。
全ての情報がぴったり当てはまるし、なんか行動も似ているので、ゴブリン=ライガー君という認識でいける。
それが一般的に出回っている情報だ。
しかし、ここのライガー君たちは明らかに進化している。本命の弓矢使いはダンジョンの最奥で隠れていたり、戦術に奥行きがあった。ライガー君じゃなかった、ゴブリンである。下手したらライガー君より頭いいかもしれない。
魔物が進化したものを亜種と呼ぶらしい。赤いサンドスコーピオンはまさに亜種だ。
しかし、更にその上がいる。魔物にはキングとクイーンがいる。
キングとクイーンは魔物に影響を与え、亜種へと進化させる力を持つという。
ここのゴブリンたちは頭が良すぎる。そしてその数も。
僕の知っている情報をまとめると、ここにはゴブリンキングか、ゴブリンクイーンがいる可能性が非常に高くなる。
魔物のキングとクイーンがいる場合、そのダンジョンの難易度は格段に上がることとなる。片方だけならまだしも、両方いた場合、ここのダンジョンはC級以上なんて評価ではすまなくなる。下手したらA級……その先は考えたくないな。
陰キャの僕がこれ以上想像したら、ブルってしまう。
サンドスコーピオンの尻尾は固く、飛び道具になりそうだ。
前回と要領は同じ。サンドスコーピオンの尻尾を持って、彩さんから溢れ出る魔力のあたりをグルグルさせておいた。
綿菓子を作る感じで、サンドスコーピオンの尻尾を氷漬けにする。彩さんかわいいし、便利だ。サンキュー。
これを、槍投げをするように情報収集しているゴブリンに向けた投げた。
前回よりも距離があったので不安だったが、槍は無事に単眼鏡ごと貫いて偵察のゴブリンを倒して魔石にした。
仕事完了っと。陰キャもちゃんとチームの役に立っています。
「うおっ!?なんちゅう肩だよ」
「シロウ……今のって」
前回は戦闘中だったため、レイザーさんたちには気づかれなかった。
今回はしんやさんだけでなく、全員に見られてしまったか。ちょうどサンドスコーピオンの亜種を狩り終わったところみたいだ。
「槍投げは得意なんです。それよりも、少し聞いてください」
僕は全員を集めて、仕留めたゴブリンのこと、事前に得たいた情報に当てはめて得られた結論を述べる。
魔物の目のこともみんなに開示した。
情報を受けて、僕以上にダンジョンを知っているレイザーさんが少し考えこんでいた。
「おそらくだが、シロウ君の予想は正しい。ここにはキングもしくはクイーンがいる。両方いないと確信できるのは、両方いた場合ダンジョンにも影響を与えるからだ。ここはそういった傾向がない。ダンジョンを変えられる場合、俺ならもっと罠の張りやすいダンジョンにする」
知らない情報に驚く。
キングとクイーンがいた場合、そこまで厄介なことになるのか。
ここは確かに砂の川からの急襲以外はあまり警戒しなくて良い。
それを考慮すると、ダンジョン変化は起きていないと思われるのにも納得だ。
「予想が正しい前提で話を進める。この先にいるのがキングだとした場合、俺たちの力で倒せると思っている。苦戦はするし、無事ではすまないだろうけどな。クイーンだった場合が問題だ」
逆だと思っていた。キングのほうがやばそうな響きだからね。
「力押しのキングと違い、クイーンは何をしてくるか見当がつかない。うちのパーティは器用さに欠ける面があるため、対応できない可能性が高い。故に、俺は引き返すべきだと思っている。サンドスコーピオンの亜種の魔石だけでも収穫としては十分だ」
引き返し、もう一度ダンジョン協会に報告という流れになるらしい。
次は評価B以上で申請し、それに見合ったチームが引き受ける。
最大手の連君のチームとかが仕事を受けるのかな。それは……ちょっと悔しいな。
「私はやりたいよ。これはピンチじゃなくて、チャンスだと思ってる。それもとてつもなく大きなチャンス。欲しくないの?魔力ダイス」
彩さんが食い下がった。
魔力ダイス?
僕の知らない単語だった。
「キングとクイーンを倒した際に高確率で落とすアイテムか。そりゃ喉から手が出るほど欲しいさ。でも危険が大きすぎる。俺はみんなを無事に家まで連れ帰すことが一番の仕事だ」
「分かってるよ。レイザーさんが私たちのことを最優先に考えているのはみんなわかってる。でも、やりたい。ここで引き下がったら、連に追いつけなくなっちゃう気がする」
……僕の繊細な心が少し傷ついた。
僕は彩さんしか見ていないが、彩さんの目には連君しか映っていない気がしたからだ。
彩さんは連君と仲が良いだけでなく、冒険者として明らかにライバル意識している。僕にあれだけ強い意識を向けてくれたことはない。
それは僕が連君ほど強くないからにほかならない。
「魔力ダイスは魔力を引き上げてくれる希少なアイテム。私の魔力成長が今後どうなるかわからない以上、欲しい。どうしても欲しい。私の今の魔力量じゃ、どうひっくり返ったって連には追いつけないから……」
彩さんの言葉から、彼女の苦悩を垣間見た気がする。
高校生で、魔力量4万といえば一般的には天才の部類だ。
しかし、この世界に入って思う。それは決して特別な数値ではないと。
ダンジョンに入るたびに彩さんの嬉しそうな顔を見た。この仕事が大好きなことは明確だ。当然、もっともっと上に行きたいという欲求が生まれる。
そのチャンスが目の前にあるのだ。食い下がるのも無理はない。
「死ぬ可能性のほうが遥かに高いぞ。ダンジョンでの死亡率は日を追うごとに上がっている。死んでも欲しいものなのか?魔力ダイスは命と天秤にかけても得たいものか?」
この言葉は凄く重かった。
レイザーさんの迫力もあって、流石の彩さんも引き下がると思たけど、そうはならなかった。
「うん、命と天秤にかけても欲しい」
「ちっ、親父さんに怒られるのは俺なんだからな。茜、しんや、お前らも付き合え。久々に死線をくぐり抜けるぞ」
「やった!レイザーさん大好き!」
彩さんがレイザーさんの腕にしがみついて、頬をすりすりと擦りつけていた。
かっかわええええええ。
僕もあんなことされたいです!
「やっやめろ、彩。それと、シロウ君は自分の判断に任せる。君の命まで懸けられない。引き返すと言うなら、しんやに送らせる」
ケツの汚いオッサンと二人で帰宅なんてごめんだ。
僕は今魔物の目を召喚している。
前を歩かれるたびに、汚いケツは見たくない。
「レイザーさん、お願いがあります」
「どうした?」
「僕のことは、戦力としてカウントしてください。これから先、僕も魔法を使います」
「ほう」
少し感心した顔で、全員が僕を見た。
現状彩さんに思われていなくても良い。
でも僕は彩さんに尽くしたい。魔力ダイスは僕が責任を持って彩さんにプレゼントする。
陰キャは未練がましいのだ。
キングだろうが、クイーンだろうが、とにかくこのダンジョンは僕が攻略する。
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