第25話

既に呪いのアイテムを装備してしまっている。


砂漠の秘宝をどうぞとかいうから、凄いアイテムだと思ったのに、いきなりの裏切り!

明らかに僕が身に着けるまで黙っていた節があるので、若干の悪意を感じてしまう。


『ヴィ』

『一度身につけたら外せないらしいよ』

やはり悪意があった!

こやつ、僕が身に着けるのを待っていたな!


外せないのがいかにも呪いのアイテムって感じだ。

途端に美しい宝石が、禍々しいものに思えてきた。

人の心って不思議だ。感情次第で同じものでも、全く違うものに見えてしまうのだから。


キャロがサボテンの魔物から詳しい話を聞いている。サボテンの魔物は通常召喚には応じない魔物らしく、僕と特別に契約を結んだから呼び出せる状態になっているらしい。

名前はサボにしておこうと思う。

僕を罠に嵌めた罰だ、いずれ動画出演してもらう。


『呪いの名前はサボテンの花。砂漠の一族から愛される代わりに、週に1度性別が変わっちゃうらしいよ。よかったね、シロウちゃんになれるんだって』

良くないけど!?

なにがよかったねなの!?


僕の大事なものが1週間に一度のペースで消えちゃうんですけど。

使い道なんてなかったけど、それでもそこあることが大事で!そこにぶら下がっているのがなんかよくて!

ちょっと気にしながら座り方とか調節するのが良くて!


人生で最初に触るおっぱいが自分のものだなんていやだあああああ。そんな悲しい結末、僕は望んじゃない!!


『砂漠の花っていう魔法も使えるようになるらしいよ。すんごい魔力を消費するけど、相手を必ず殺したいときに使うといいんだって』

「何それ、めちゃくちゃ怖い」

『ヴィっ』

サボのやつ、今鼻で笑わなかったか?

僕がその魔法に怯えていることを察しているのか、それとも何か不敵な笑いなのか、僕にはわかりません!

だって相手はサボテンだから。うつろな黒い目からは、表情がいまいち読み取れない!


『ヴィ』

『はーい。殺して欲しいやつがいたら、いつでも自分を呼ぶようにだってさ。彼は日の当たるいい場所に帰るみたい』

なんかすんごい自信満々な魔物を味方につけてしまった。


うつろな目で砂の中へと去って行くサボテンを頼ってもいいものなのか。

いざって時に頼れる相手なのかを判断するのはとても難しいことだ。


「キャロ、サボって強いの?」

信頼できるキャロに聞いてみることにした。

キャロは神秘的なオーラを纏った魔物で、魔王の特性を持っている僕だから呼び出せた魔物だ。視聴者からも特別な魔物じゃないかという指摘を受けている存在。

そのキャロの評価を聞いてみたかった。


『強いと思うよ。砂漠の一族の長だし。昨日シロウが氷の槍で倒したゴブリン程度なら、棘の一本で殺しちゃうかも』

それってめちゃくちゃ凄くない?

あんなに大量の棘を持っているのに、一本で事足りてしまうの?


族長半端ないです!

陰キャの僕にもすんごいバックが付いたみたいです。


なんだか急に心が落ち着く。

なるほど、ライガー君がたちがいつもいきっているのはこの心の安心感があったからなのか。


これが暴走族とかに入っている安心感なのだろうか。陰キャの僕には一生縁のない世界だと思っていたけど、砂漠の一族に入ることで一体感を得られるとは。流石ラッキーダンジョン。僕にとって強烈なラッキーが起きてしまったみたいだ。


約束の時間が来たので、僕はゲート周りに先に集合しておいた。

みんな満足な顔をして集まって来ていたので、それぞれいい収穫があったみたいだ。


「これで俺の炎魔法は最強になった!!」

しんやさんが吠えていた。

「陰キャ、お前はどうせ変なものしか見つからなかっただろ。こういうアイテム探しも、経験が活きてくるんだよ」

……図星だけど、なんかこの人に言われると腹が立つ。

僕がサボを呼び出すときは、この人を抹殺してもらう時かもしれない。


彩さんは巨大なダイヤモンドを手にしていた。

ただの宝石ではなく、マジックアイテムらしいが、効果はなんなんだろう?

東京に専門の鑑定士がいるらしいけど、しんやさんといい、彩さんといい、みんな既にアイテムの効果を知っているような様子。


僕みたいにキャロの知識に頼るみたいなそれぞれのオリジナルの方法があるのだろう。魔法の世界は知っているようで、知らないことだらけだ。

皆まだ秘策を隠しているだろうし、実際僕も隠していることが多い。


秘策がある以上、魔法使い同士の戦闘は常に油断ならないなと再確認させられる。

もっと実力の近い相手と戦ってみたいと思う気持ちが最近湧いてくる。陰キャに似合わず戦闘民族みたいな思考がよぎる。

人は力を持ってしまうと使わずにはいられないみたい。


「探索はこれにて終了だ。みんな疲れただろう。帰って早めに休むとしよう」

レイザーさんの言葉で締め括られ、僕の二日に渡る初めてのダンジョン探索が終った。

ラッキーダンジョンのゲートをくぐる際、最後にもう一度だけラッキーダンジョンを振り返った。

なかなか来ることのない場所だから、目に焼き付けようとした。


「げっ」

砂丘の一番盛り上がっているところで、大小さまざまなサボテンがうつろな目で僕のことを見送っているではないか。

これが砂漠の一族の結束。なんだか逞しく思えるような、凄く思いような……。


「ばいばい、ラッキーダンジョンと砂漠の一族」

楽しかった二日のダンジョン生活に別れを告げるように、僕は去り際に言葉を放った。


帰りは疲れていたからね。

バスも新幹線も半分意識を失った状態だった。

気づいたら駅に着いていて、既に辺りは暗くなっていた。

仮眠をとったおかげで少しだけ体力が戻っている。


彩さんに別れを告げて、僕は急いで家に戻った。

早くラッキーダンジョンの動画を編集したいのと、今日の動画も投稿しないと。


家で今日の動画を撮影していると、SNSに多くの通知が来ていた。

視聴者さんから来たもので、ラッキーダンジョンが見つかったという知らせだった。


僕が家に着くと同時に、国から群馬のラッキーダンジョンが発表されていた。

なんというグッドタイミング。

今日の動画は大量に撮影したラッキーダンジョンの映像で良さそうだった。


撮影した動画は4時間にも渡る。

流石に長すぎるので、僕がひたすら砂を掘る虚無の映像だけカットしていくと、2時間以内に収まった。

滅多に見ることのできないラッキーダンジョン内の映像だ。


改めて映像で見返すと、なんだか不思議な世界だなと思ってしまう。

あれだけ砂漠っぽくて、太陽の光が強い場所だったのに、暑くなかったという不思議。異空間と言えばそうなのだろうけど、ダンジョンの未知さがより一層深まる場所だった。


サボの映像もしっかりと収めているし、これでいいだろう。

僕は動画を投稿することにした。


2時間にも及ぶ映像は流石にサイズが大きかったらしく、アップロードに時間がかかった。

「シロウ、なんか通信が遅いんだけど、何かやってる!?」

一階から聞こえてきた母親の声に、少しどきりとした。


「ご、ごめん!すぐに良くなると思うから!」

ずっと動画を投稿するなら、家以外の拠点も欲しいなー。

冒険者としてお金が入って、動画投稿でもお金が入れば、そんなこともできるようになるのだろうか。


拠点があれば、僕も冒険者としての装備やアイテムをそこに保管できる。

くぅー、1人暮らしか。とても憧れるけど、大変そうだ。


初めての長編動画は、いつもより返信が遅かった。

みんな見るのに時間がかかっているのだろう。


明日どんな結果になっているのか楽しみにしながら、お風呂に入って早めに寝ることにした。彩さんの夢を見られるように願いながら。

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