第24話

ラッキーダンジョン付近にたどり着いた僕たちは、山のふもとにたどり着いていた。

なんでも山中に出現したダンジョンらしい。


少しけもの道を進んでいくと、噂のラッキーダンジョンに辿り着く事が出来た。

ゲートの色からして違う。黒く、どこか怖さを感じる一般的なゲートとは違い、白く神秘的なゲートだった。

これがラッキーダンジョン。不思議と、この土地も綺麗な湧水が地面から漏れ出して、野生の動物も多い。いかにも演技の良さそうな土地だった。


隠れたパワースポットなのかもしれない。

そんな場所にラッキーダンジョンが出現するとは、なんとも因果関係がありそうな感じである。


栃木第五ダンジョンのときは、ダンジョン周りが整備されており、電柱みたいな石の柱に名前も彫られていたが、ここはまだ完全に人の手が入っていない。

明日から明後日に発表だとして、そこから同時に整備しだすのかな?人がここに来やすいようにと、登録作業なんかもあるのだろう。


しっかりと動画を撮影しておいた。

山の綺麗な景色も、空気感は伝わらないか、ダンジョンの神秘的な入り口も撮影、彩さんもバッチリ撮影しておきました。はい。


「ラッキーダンジョンです。冒険者二日目にしてラッキーダンジョンに来られるなんて僕は運が強いのかもしれません。では、元気に探索してきます!」


撮影をしている僕を微笑ましく見てくれていたレイザーさんと茜さん。応援してくれる彩さん。そして「けっ、腑抜けたことしやがって」と悪態をついていたしんやさん。


三人は喜んで動画に映ってくれるが、しんやさんは「俺のことは撮るんじゃねー」とか強がっていた。

なのに!

なのに、ちょくちょくと画面の端に映ってくるんだけど!!


なんか決めポーズ取ってるし!

全然格好良くないし、映りたいならそういえばいいのに。


悪いけど普通にカットしますから!ざまぁ!


「シロウは動画投稿してるんだね。知らなかった。行動的な男の人は好きよ、私」

「はい、ありがとうございます!」

告白されてしまった。

今のは間違いなく告白だ。間違いない。自信あり。


「おい、彩。好きとか軽々しく言うなよ。ああいう陰キャタイプはすぐ本気にするんだからな」

あいつだけはいつかこの手で締める。

陰キャがきれたら一番危ないことを知らないみたいだ。普段大人しいやつがきれたら、凶器を使い出すから。その汚いケツを切り刻んでやるから。


ラッキーダンジョンのルールは既にレイザーさんから聞いている。

アイテムをとり過ぎないのはルールというより、レイザーさんのかっこいい考えであって、ルールは別にある。


ラッキーダンジョンの唯一と言ってもいいルール。

それは、拾ったアイテムは自分のものになるということだ。


魔物が出ない以上、協力しあう必要もないので完全なる個人プレーだ。

僕と彩さんも、今回得たものは自分のものにして良いと言われている。


しんやのものは僕のものができないのは残念ではあるが、自分のことに集中したいと思う。

なにか珍しいものを確保して、動画のネタになってくれたら嬉しい限りだ。


神秘的なゲートをくぐってレイザーさんがラッキーダンジョンに入っていく。

栃木第五ダンジョンに入ったのと同じ順番だ。スマホのカメラを回し続けながら、彩さんの後ろに続いた。


「うわっ」

またも声が漏れ出た。

山の中から、今度は一面砂漠である。

太陽が燦燦と輝いているが、不思議と暑さは感じない。むしろとても快適だ。


「なるほど、砂を掘らせる気か。バスでの移動、それに新幹線の時間を考えると、探索時間は4時間。休憩を挟みつつ、ゆっくりやるといい」

4時間か。

長いようで、すぐに過ぎ去りそうな時間だ。


僕のスマホの充電は90%もあり大丈夫そうなので、全部撮影できそうだ。


「ゲートが見える位置をキープするように。では、各々ラッキーダンジョンを楽しんでくれ」

ひゃっほう!


僕は言いつけ通り彩さんが見える位置をキープしながら探索を開始する。

砂はさらさらとしていて、かなり歩きづらい。

遠くへ行けば行くほど体力の消耗が激しそうだ。


まだ一組しか入っていないダンジョンなので、入り口付近で探してもアイテムは見つかるだろう。

けれど、少し離れた場所の砂を掘ることにした。

陰キャは得てしてひねくれ特性も持っているので、ちょっと変わったことをやりがちである。僕もその例に漏れない。


「おーい、陰キャ。そっちは俺の勘じゃなんもねーぞ」

「いいんですよー。しんやさんはそっちを掘っててください」


忠告を無視して、皆から離れたところを掘っていく。

特に目印があるわけでもないので、勘を頼りに掘っていくが何も見つからない。


30分ほどしたころだろうか、しんやさんが叫んだ。

「おーい!みっけたぞ!」

一番目に見つけたのはしんやさんだった。

手に何か持っているみたいだけど、僕の位置からははっきりとは見えなかった。


その後もレイザーさんたちに当たりが来て、彩さんも次々に掘り出していた。

……なにも見つからない!


みんなから離れた位置を取り、変わったポイントを探索して何もみつからない!

こんな恥ずかしいことがあっていいのだろうか。

ざまぁ!されちゃう。帰りのバスでしんやさんにざまぁ!されちゃう!


皆が当たりを引いては持ち帰るアイテムを選別し始める中、僕は未だにボウズだった。思えば、昔から釣りに行っても僕だけ釣れないなんてことが多かった。

まさか、ここでもそんなことに……。


こうなれば人海戦術だ。

ヴァネとキャロを召喚して、一緒に探してもらうことにした。

ヴァネは協力する気はないみたいで、ラッキーダンジョン内を飛び回っていた。


『ここはラッキーダンジョンだね。珍しいところをみつけたものだね』

キャロにもここがラッキーダンジョンだとわかるらしい。

ここに来た経緯を話すと、キャロは嬉しそうに協力を願い出た。


『私はアイテム探しは得意じゃないけど、ここがどこだかわかったから、強い魔物を呼んできてあげる。彼に気に入られたら、今後も協力してくれるかもしれないよ』

「おおっ。頼んだ!」


キャロが砂の中に潜り込んだ。

ずずずっと音を立てて消えていった。

そっちに探しに行くとは思わなくて、なんだか少し驚いた。


僕は僕の方でアイテムを見つけなくては。

手ぶらじゃ寂しいし、動画的にも何やってんだってなっちゃうからね。


けれど、何も見つからない……。

自分のセンスのなさに辟易する。


しんやさんは絶好調みたいで、大差をつけられてしまっていた。

あっちは何を持って帰るかで頭を抱えているらしい。

……羨ましい!悔しい!

陰キャは陰キャを馬鹿にしてくる人に負けるのがとても嫌なのである。


結局、僕が何かを見つける前に、キャロが戻ってきた。

砂から飛び出して、砂を払う仕草がとても可愛らしい。

ぶるぶると震えるときの顔の愛くるしいこと。撮れ高、頂きました!


『古い知り合いを連れてきたよ。彼、プライド高いから気をつけてね』

キャロに続けて出たきたのは、2足歩行のサボテンだった。

小ぶりでかわいらしいが、うつろな目は何を考えているのかわからない不気味さがある。


「よっ、よろしく」

サボテンから手を差し伸べられた。

棘のある手だったけど、友好のしるしにと僕も手を差し伸べて握手した。

ちくりとしたけど、魔力が高くなって体が頑丈になっているのもあり、サボテンの棘で傷つくことはなかった。


『ヴィ』

『シロウのことを気に入ったらしいよ。召喚に応じるって」

おおっ!?

なんかわからんけど、気に入られた。

棘を恐れなかったのが良かったのかもしれない。


『契約の証に、ハグして欲しいってさ。素肌で』

……本気?


『ヴィ』

本気みたいだ。


ジャージを脱いで、肌シャツも脱いだ。

炎天下の砂漠で、ひょろがりの僕の上半身がさらけ出された。


ひょいっとサボテンが飛んできて、僕に抱き着いた。

僕も抱きしめ返す。


ああああああああああああああああ゛!!

愛は、魔物からの愛は、とても重くて痛くてちくちくしました。


『こんなに深い愛を感じたのは久々らしい。砂漠の秘宝をくれるらしいよ』

「秘宝!?」

サボテンが一度砂に潜り、すぐにヒョコッと顔を出した。

その手には赤い宝石が埋め込まれたネックレスがあった。


「僕にくれるの?」

「ヴィ」

「ありがとう。大事にするよ」


綺麗な宝石で、精巧なつくりのネックレスだった。

直ぐにクビに付けた。陰キャの僕に、少しだけ華やかな要素が追加されてとても嬉しい。


「これはどういうアイテムなの?」

『ヴィ』

『呪いのアイテムらしいよ』

「はい?」

呪いのアイテムって……先に言って!!







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