第20話

「ガキどもが、恐れおののけ。この圧倒的火力の前にな!」

な、なんかかっこいいいい。

街中であんな事絶対に言えないけど、ダンジョン内ならなんか言えちゃう雰囲気あるの、わかる!


「炎魔法――炎の絨毯!」

初めて目にする炎魔法。

あらゆる方面の考察において、常に最強評価を受ける魔法属性である。

炎魔法使いでさえあれば、それだけで冒険者チームから引っ張りだこだと言われるほど。実際は魔力値による力の差を考えると流石にそれは誇張だとわかる。


それでも多くの人が評価するだけの理由はあるはずだ。

僕はしっかりとその魔法を観察することにした。


魔法の詠唱が終ると同時に、大量に現れたスライムたちの足元が赤く染まる。

岩場に現れたすべてのスライムを覆うほど広く展開された赤い魔力が、次の瞬間には炎となって、勢いよくスライムを焼き始めた。


勝負はおよそ一瞬で決着がついた。

液体のスライムが蒸発していく音が聞こえ、後には黒い焼けたカスと、謎の意志が落ちていた。


つよっ!

炎魔法強すぎ!


あれだけの広範囲魔法を一瞬にして展開させて、しかもこの威力。

ええっ!?炎魔法強すぎませんか?


ライジン大先輩の雷の魔法を見たときも、その戦闘向けの魔法スタイルに驚いたものだけど、今回はその驚きを上回った。


こんな攻撃、一体どうやって躱せというのだ。

受けるほかになくないか?

なるほど、これが最高評価を受ける魔法なのか。圧倒的するぎる。

恐れおののけ!とか言われたけど、その通りになってしまった。


「おい、どうだ?これが魔法属性の格差ってやつだ。お前の召喚魔法じゃ一生このレベルにはこれねーよ。魔力値も俺の方が高いしな」

「すっ、すごいです」

魔力値は僕の方が高いけど、今は黙っておこう。


「すーぐ調子乗るんだから。シロウ、あんまり委縮しないようにね。炎魔法は確かに強いけど、対策の仕方はあるんだから。それにしんやさんは魔力25000。すぐに追い抜いちゃいなさい。私たちはもっと上を見なくちゃ」

しんやさんは格好良かったけど、彩さんもかっこいい。

いつも堂々としていてクールな感じが、最高に僕のツボである。顔もスタイルも、最高に僕のツボである。


「はい!一緒に高みを目指しましょう!彩さんの言う通り、スライムでいきり散らかすような大人にはなりません」

「てめー、陰キャ!」

ひえっ。

しんやさんがこちらを睨んでいる。


またもナチュラルに煽ってしまったのか?

僕はただ彩さんの高尚な精神に同調しただけなんだけど!


「陰キャ、魔石を拾ってこい!あれは金になるんだ。雑用はしたっぱの役目だってきまってるからよ」

スライムが倒れた後に残ったものは魔石だったのか。

魔石はいろんな研究機関から需要があると聞いている。既に実用化への道も見え始めているらしいから、今後益々需要は高まるだろう。


「行ってきます!」

僕は急いで魔石を拾い集めに行った。

全てお金になると聞いて、僕の目の色は変わってしまっている。金、金、金!


「しょうがないわね。私も拾ってあげる」

金に目のくらんだ僕の隣にしゃがんで、彩さんも一緒に拾ってくれた。

金に目のくらんだ僕の目が、今度は彩さんに一色に染まる。


しゃがんだ彩さんの胸元が少し緩くなり、僕の視線を磁石のように引き寄せてしまうのだ。この強い磁力には逆らいようがない。

ダンジョンに来て、金とか色欲とか、そういった欲望が強くなってきた気がする。これがダンジョンの罠ってやつか。


ダンジョンに入った人は、その幻想的な世界に魅了されてまたダンジョンへと赴くらしい。僕もどうやらそのダンジョンの罠に嵌ったらしい。

決しておっぱいに嵌ったわけではない。おっぱいには挟まれたいけど。


「二人ともすまないな。チームによっては魔石拾いの担当がいたりするんだが、うちは役割分担はしていない。辺りを警戒する必要もあるから、基本的にはその都度拾える人が担当するのが決まりだ」

レイザーさんに魔石を渡す際に、御礼と謝罪を受けた。

致せり尽くせりなので、このくらい喜んでやるけど、役割のことを考えるたらやはり僕が拾うのが一番なのではなかろうか。


警戒を任されても素人すぎて、スライムが岩場の隙間から出てくることすら知らなかったからね。

あまりにも素人すぎる。情報収集くらいは事前にしておくべきだったけど、どの情報が正しいかもわからないので、やはり実際に経験を積むのが良さそうである。


栃木第五ダンジョンは一本道と言えども、結構な長さを有していた。

往復で3時間はかかる道のりだとか。


ダンジョンは奥へ行けば行くほど、珍しい鉱石があったり、珍しい魔物が出たりする特徴を有する。

まるでゲームのような設定である。

このダンジョンに珍しい鉱石はないものの、奥で銅が採れるらしい。それも大したお金にはならないが、今日の遠征費にはなるので、一応取っておこうということだ。


何よりも、ダンジョンの実際の空気感を僕と彩さんに感じて貰おうというレイザーさんの配慮に違いない。


しっかりと学ばないとなと思いながら、辺りを注意しながら進んでいく。

魔力値が上って以来、視力も良くなった気がする。薄暗い空間でもよく見える。動体視力も如実に上がっているので、勘違いではない気がする。


その胴体視力は先日のライジン大先輩との戦闘で更に磨きがかかっている。

そして、闇を縫って飛んでくる一本の矢も、僕にはしっかりと見えていた。


空気を割く音で最初に気づき、矢を視界に捉えて以降は、その動きが良く見えた。

躱してもいいし、キャッチしてもいい、叩き折ってもいい。魔力値の上がった僕にはいろんな選択肢をとることができるほど、既に戦闘力が上っている。


矢が僕の目の前に迫る直前で、親指と人差し指で綺麗に矢をキャッチしてくれた人がいた。その動きも良く見えた。

「おっと。大丈夫?シロウ」

キャッチしてくれたのは彩さんだ。好きです。

魔力値の4万の彼女も、この闇を縫う矢に気づき、余裕で対処できたわけだ。


「彩、サンキュー!すまない、見逃した」

そう、レイザーさんと茜さんは矢に直前で気づき、反応しきれていなかった。

二人の魔力値を聞いていなかったけど、彩さん程高くないのかもしれないと今の一連の動きで分かってしまった。


「いいよー。それよりも凄い使い手だね。レイザーさんが反応できないなんて」

「うむ、たまに一芸に秀でたゴブリンがいるんだ。どうやら、今日のゴブリンは一味違うみたいだぞ。気をつけろよ」

「はんっ。俺の炎魔法に任せろ。一網打尽だぜ」

それはやめておいた方がいいと思った。

何もなければ僕が出しゃばる必要はないと思っていたけど、けが人が出るような事態には目をつむれない。


「矢じりに毒があります。弓の腕といい、知能といい、この先のゴブリンは警戒した方がいいかもしれません」

「毒が!?」

全員の視線が僕に集まった。

陰キャは注目に弱いから勘弁して欲しい。


先ほど長々と矢を見つめていた理由の一つに、矢じりが気になったからである。

明らかに殺傷力よりも、抜けづらさを意識した返しのついた矢じりだった。

あれはより毒を体に流すための仕組みだろう。


なんで毒だと分かったって?

視力だけじゃない。聴力も、嗅覚も上がっているからだ。

全ての5感で彩さんを楽しめる状態になっていることをここに宣言する!


「確かに、これは毒だ。よく見分けてくれた。けが人を出さないために、より一層警戒して戦う。俺を前線に」

「いや、私にやらせて」

レイザーさんの言葉を遮って、彩さんが前に出た。


「私がゴブリンをやる。レイザーさんと茜さんが弓矢のやつをやってよ。多分それが一番早くて安全」

「……よし、そうしよう」

レイザーさんが承諾した。珍しくしんやさんも反論しない。


彩さんの力を見られるってマジ!?

こんな初級のダンジョンで!?


辺りの空気が冷たくなっていく。

彩さんの体を纏う魔力が、性質変化を起こし始めていた。

彼女は氷魔法の使い手だったのか。









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